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【コミカライズ進行中】“呪われた公爵令嬢”と呼ばれた私が自分の生きる道を見つけました!  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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58. 驚愕

 懐かしいナルレーヌ王国の王宮。かつて私は、この王国の王太子殿下の婚約者として、何度もここへ足を運んでいた。妃教育の勉強に通い、ジャレット殿下との茶会に通った。やがては妹を連れて。そして、私だけがここへ通うことがなくなった。

 正面の入り口から大広間まで、大勢の高貴な人々が列をなしている。国内外からたくさんの来賓が来ており、圧倒されるほどだ。誰もが完璧に身なりを整え豪奢に着飾り、どこを見回してもキラキラと輝いている。

 心臓が口から飛び出しそう。それでも私はどうにか平常心を保ち、前を向く。隣にアヴァン殿下がいてくれることが何よりの支えだ。この人のそばにいれば大丈夫。そう強く思える。

 ナルレーヌ王国内の王族貴族たちは、すでに大広間の中に入っており、今は諸外国から招かれた来賓たちが順次入場してくるのを迎えている。……いよいよ、私たちの番だ。


「イェスタルア王国国王同王妃両陛下、王太子同妃両殿下のご入場でございます」


 大広間に入った瞬間、まばゆいシャンデリアの輝きにくらりと目まいがした。自分の心臓の音以外、何も聞こえない。けれど私は機械仕掛けの人形のように、ただ淡々と前を見据えて足を運んだ。

 両脇に大勢の貴族の姿が見える。視界の端に映っただけなのに、その中でも不思議と、自分の両親の姿が分かった。私は思わずそちらに視線を向ける。

 父と母、それから兄に、ロクサーヌ・マリガン侯爵令嬢の姿。そのうちの三人は一様に眉をひそめ、訝しげな表情でこちらを見ていた。マリガン侯爵令嬢だけは、特に何の感情もない貴族令嬢の冷静さだ。何度か顔を合わせたことはあったけれど、おそらく私だとは少しも気付いていないのだろう。

 母の顔が明らかに強張る。私を見つめるその目と口がじわじわと開きはじめた時、私はふいと目を逸らし、前を向いた。よそ見ばかりしていられない。

 

「ようこそお越し下さった、イェスタルア国王よ。遠路はるばる、感謝いたします」


 懐かしいナルレーヌの国王陛下の声が、前方から聞こえる。両国の陛下と王妃陛下はにこやかに挨拶を交わしている。その後ろで、私とアヴァン殿下は静かに待っていた。

 そしてついに私たちの番がやって来た。


「ようこそ、イェスタルア王国王太子殿下、それに……、……?」


 国王陛下の言葉がぴたりと止まった。私の顔をまじまじと見つめている。隣の王妃陛下も同じように、しばし私を見つめた後、その表情を崩し驚きをあらわにした。


「あ……あな、た……、……え?」

「お初にお目にかかります。国王陛下、王妃陛下。イェスタルア王国王太子アヴァン・イェスタルアと、その妻リア・イェスタルアです」

「初めまして、国王陛下、王妃陛下。この度はお招きいただきありがとうございます」

「……セ……セレリア……。そなた、……一体何を……」


 両陛下はかつての息子の婚約者であった私のことを、しっかりと覚えていたらしい。アヴァン殿下とともにしれっと挨拶をした私のことを、穴があくほど見つめてくる。

 アヴァン殿下は妖艶に微笑むと、ちらりと私に目をやりながら言う。


「妻がどなたかに似ておりますか? たしかに、妻の容姿はこちらの国の方々とよく似通っています。リアはイェスタルア王国の孤児院で育ったようですが、市井で働いている時にその能力を見込まれ、我が国の侯爵家が養女として迎えたのです。そして唯一の相手を妥協せずに選びたいと探し求めていた私の目にも止まり、妻としました」

「……なん、と……まさか……」


 スラスラと淀みなくそう話すアヴァン殿下の言葉を聞いても、もちろん陛下は訝しげだ。そうよね。何度も対面したことのある私の顔など、忘れてるはずないか。隣の王妃陛下も妃のポーカーフェイスを崩して、驚愕の表情を浮かべている。

 そして。

 彼らのすぐそばに、あの人──ジャレット殿下がいた。

 随分とやつれられた。私の知っている彼とは別人のような風貌だ。目は落ちくぼみ、肌は生気がなく、土気色だ。

 固まっている両陛下の前で私たちが挨拶をし、ジャレット殿下の前に移動すると、その顔面は蒼白になった。


「……セレ、リア……」

「あなたがナルレーヌ王国王太子殿下でいらっしゃいますか。……おっと、失礼。元、王太子殿下、でしたか」


 アヴァン殿下はジャレット殿下に皮肉っぽくそう言うと、不敵な笑みを浮かべる。


「よほどうちの妻がその女性に似ているのでしょうね。両陛下も驚いていらっしゃる。その方はあなた方にとって、それほど大切な方だったのですか?」


 何もかも知っているはずのアヴァン殿下は、まるでジャレット殿下を追いつめるかのように質問を重ねていく。


「……なぜ、……何故だ。君は、セレリアだ。そうだろう? 一体、……どうなっているんだ?」

「別人ですよ、元王太子殿下。何故そんなにもその女性のことを気になさるのです?」


 アヴァン殿下の目には敵意がこもってはいるが、その表情は楽しげでもある。まばたきさえ忘れてしまったらしいジャレット殿下の視線は、私に釘付けだ。


「……お、……俺の、……俺の、婚約者だ……。元、婚約者……」

「おや、そうですか。そちらの事情は何も分かりませんが、うちの妻とは別人ですよ。何故ならリアは完璧な女性だからだ。この類い稀なる気品と美しさに加え、人並み外れた知識と教養を兼ね備えている。そして公平で美しい心で他者を思いやり、国民のために働いてくれている。……このような女性がそばにいるのに、一国の王太子殿下が手放すはずがないでしょう。そんな阿呆はこの世にいない。万が一にも、このリアがあなたの元婚約者であったとして、あなたがそれを手放したのであれば……あなたはよほど頭の足りない愚か者だということになる」

「…………っ!!」


 幽霊でも見るような顔でただひたすら私を見つめ続けていたジャレット殿下は、アヴァン殿下の挑発的な言葉に我に返ったのか、キッと鋭い目で彼を睨みつけた。


「……こんな……、こんなことがまかり通るか。貴様、俺に会いたいとわざわざ指名してきたのは、このためか。……セレリアを得たと、見せびらかすためだったのか。他国で王太子妃教育を受けていた者を娶るなど……! 何を企んでいる!? セレリアから我が国の王家の情報でも引き出そうとしているんだろう!」

「何を見当違いなことを。俺の話を聞いていたのか? 元王太子殿。俺はただリアを愛し、妻にと願った。それだけだ。彼女ほど王太子妃に相応しい人物はいない。それに……、妃教育を受けた者との婚約を解消したのであれば、守秘義務を守る誓約書ぐらいは書かせているのではないか?」

「……く……っ!」

「ならば何をそんなに焦ることがある。……逃がした魚が惜しくなっただけではないのか? だが、残念だったな。……リアが万が一にもそのセレリアという女性であったとしても、もう二度とお前の元には戻らない」

「………………っ!!」


 ジャレット殿下がギリギリと歯を鳴らしながら、憎しみに燃える瞳でアヴァン殿下を睨みつけている。対してアヴァン殿下はそのジャレット殿下の表情を見ながら面白くてたまらないという風にニヤニヤと笑っている。


(も、もう止めてください、アヴァン殿下……。もう充分ですので……)


 このままではジャレット殿下がアヴァン殿下に掴みかかってくるかもしれない、そんな危機感から私は声を発した。


「……本日はお目にかかれて光栄でした。どうぞ、お体を大切にされてください。……では、私たちはこれで失礼いたしますわ」

「……っ! セ……ッ!」


 私はアヴァン殿下の腕に半ば無理矢理手を通し、ぐいぐいと押した。早く離れよう。


「……面白かったな。あの男、頭が噴火するのではないかと思ったぞ」

「殿下……」


 アヴァン殿下は、まるで悪戯が成功した子どものように、小さな声で私に囁いた。


(もういい。もう充分。早く席につこう……)


 私が殿下と共に用意された席へ向かおうとした、その時。


「……っ!」


 目の前に、バーネット公爵一家の姿が現れた。




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