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【コミカライズ進行中】“呪われた公爵令嬢”と呼ばれた私が自分の生きる道を見つけました!  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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50. 怖いし恥ずかしいしもう

 どれだけの時間そうして抱き合っていたのだろう。

 耳に、首筋に、アヴァン殿下の熱い唇が何度も押し当てられ、私は目を閉じ夢見心地のままその愛撫を受け入れていた。

 ゆっくりと二人の体が離れ、殿下が確かめるように私の顔を正面から見つめる。

 その瞬間。


「──っ! ……何だ、これは。怪我をしたのか? リア」

「……あ……」


 すっかり忘れていた。そうだ。頬の傷を隠すためにガーゼをつけていたんだっけ。さらに部屋に入った時までは、それを隠すようにすっぽりと深くベールを被っていたから、殿下もようやく今気付いたのだろう。


(ど、どうしよう……。何て言ってごまかそうかしら……)


「見せろ」

「っ!」


 ふと見上げた殿下の美しいお顔が、これまでに見たことがないほど険しいものになっていて、思わず怯んでしまう。こ、怖い……。

 ビクビクと怯えている間に、アヴァン殿下は私の頬のガーゼを取ってしまった。傷跡を見た途端、殿下の瞳に冷気が走る。


(……え?待って……。本当に怖いんですけど……)


「……何だこれは。誰にやられた」

「っ!! ……あ、……えっと……」


 聞き取りづらいほどに低い、唸るような声。


(ち、ちょっと待って……)


 ついさっきまで、再会の熱い抱擁に酔い幸せをたっぷりと味わっていたというのに、今の殿下はその余韻さえ微塵も感じられないほどに、冷え切った目で私の瞳を見据えている。

 いや、正確にはその奥にいる、私の頬に傷をつけた、……まだ見ぬ私の、母を……?


「あの、……ね……」

「……」

「……ねこ……。み、港に、おりましたの。……その、猫が」

「……」

「そっ、……それで、その猫を……」

「リア」

「はいっ!」

「もういい。止めろ」


 これが王族の威厳というものだろうか。真正面から殿下のこの強い瞳に射ぬかれると、心の奥底まで見透かされているようで、ろくに嘘もつけない。恐ろしすぎて。


「……俺はこれまでお前の事情を聞かずにいた。話したくない過去もあるのだろうし、詮索すまいと思っていた」

「……で……」

「だがもう無理だ。何もかも話してもらう。一体お前は何を抱えているのだ、リア。何故、俺と離れている間にこんな目に遭う」

「……殿下……」

「俺の目の届かぬところでお前が他者から傷付けられるようなことは、絶対にあってはならない。……分かっているのか、リア。俺がどれほどお前のことを大切に思っているのかを。この国の、イェスタルア王国の王太子であるこの俺が誰よりも大切にしている女が、かすり傷一つ負うことは許されないのだ」

「……っ、……アヴァン殿下……」


 熱い視線に捉えられ、身動きさえできない。


「お前の抱えている事情は、俺が全て引き受ける。……リア、何もかもを俺に委ね、生涯俺のそばにいろ。……いいな」

「……は、い、……殿下……」

「……愛している、リア。俺を信じ、俺のことだけを見ていろ」

「……はい、殿下。……わ、私も、……あなた様を、心からお慕い申し上げております……」

「……その言葉が聞きたかった」

「……っ!」


 ようやく少し表情を和らげた殿下に、ふいにまた強く抱きしめられたかと思うと、私の唇は殿下の熱い唇に塞がれた。嵐のように激しく情熱的なその口づけに翻弄されながらも、私は自分の想いを重ねるように応えていく。夢中で首筋にしがみつくと、殿下はより一層私をきつく抱き、私たちの体はわずかな隙間もなくぴったりと重なり合った。甘い香りと、あまりにも激しく与えられる熱に酔い、足の力が抜けてしまいそうになる。そんな私の腰を殿下はしっかりと片腕で抱きかかえるようにしながら、私の口内に舌先を滑り込ませ、絡めてくる。その情熱に体中が火照り、汗ばんでくるほどだった。

 その時。

 殿下の熱い口づけに夢中で応えている私の横を、何かがふわっ、と通り過ぎていく気がした。人の気配がする。


(……?)


 気になって薄く目を開けてちらりと横を見ると、前に見た殿下の側近と思われる眼鏡をかけた男性が、淡々とした表情で通り過ぎて行き、私の後ろにあるドアからすうっと音もなく出て行った。


「っ!!?」


 え? ……えっ!? えっ!?

 ちょっと待って……、いいい、いつからいたの?まさか……。

 ……ずっと見てた!?

 わ、私が、この部屋に現れた時から?!殿下の腕に抱きしめられて、だ、抱き返して、そっ、その後、傷口のことでお説教されて、……あ、あ、愛の、……愛の告白をされて、それに応えて、そして、今っ、……キ……、


(……や、……もう無理……)


 勝手に二人きりだと思い込んでいたら、実はずっとこの部屋のどこかにいたらしい側近の方が見ていたのだという事実に気付いた私は、燃え上がるほど一気に体温が上がった。全身茹で上がったようになり、殿下の激しい口づけを受けながら体中の力が抜けていったのだった。

 気が遠くなりそうになったその瞬間、ふいにさっきの殿下の言葉を思い出す。


(……ん? ……“王太子”?)





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