28. 心惹かれる(※sideアヴァン)
「何をデレておいでですか。まったく」
「……あ?」
仕立て屋一行と母上が部屋から出て行くやいなや、ずっと黙ってそばに立っていた側近のレナトが言った。
「さっきの仕立て屋の娘のことですよ。綺麗だの可愛いだの、なんかちょこちょこ浮ついたことおっしゃって変なアピールしてたでしょう。あなたらしくもない」
「……ああ。……ふ」
やはりそのことか。
レナトの言葉に、たった今立ち去ったばかりの美しい娘の顔が思い浮かぶ。
リア、か……。
真っ白な肌に整った品のある顔立ち。栗色の髪と瞳。明らかに異国の人間である彼女が、このイェスタルア独自の衣装に身を包み目の前にやってきた瞬間、俺は彼女しか見えなくなった。
ただ品があって綺麗なだけではない。上手く言葉では言い表せない不思議な魅力が、彼女にはあった。
正直新しい衣装など全く興味はなかったが、このまま追い払うにはあまりにも惜しい。もう少しそばで眺め、その声を聞いていたいと思ったのだ。
「これまでどこのご令嬢にも興味を示さなかったくせに。意外にもああいう平凡な感じの娘がお好みですか?」
「……平凡? あの娘がか?」
二人きりになるといつも遠慮のない喋り方をするレナトのその言葉に、俺は本気で驚く。
「ええ、平凡と言って差し支えないでしょう。綺麗で品のある子ではありましたが、ナルレーヌ王国から来たごく普通の娘といった感じでしたよ。まぁ、物珍しくはありますよね。あちらの国から我が国へ来る女性はまだそんなにおりませんし。しかもこちらの言葉をとても流暢に喋っていましたね。それに関してはすごいとは思いましたが」
「……本当にあの娘が平凡に見えたのか? 聡いくせに、案外お前は女を見る目がないな」
「へ?」
彼女が、リアが平凡だと? 冗談だろう。
自分たちが作った衣装を、楽しくてたまらないという様子で目を輝かせながら紹介しているリアの姿は、この上なく愛らしかった。夢中になりながらも、その口調はあくまで気品を保ち、その声は俺の耳に優しく響いた。
(……どう見ても民間人ではないな、あれは)
何の事情があるのかは知らんが、あの仕立て屋たちの中で唯一の異国人。あの美しい口調や所作、そして我が国の言葉をあれほど正確な音で滑らかに発音する術は、昨日今日身についたものではないだろう。それに、彼女だけが物怖じすることもなく俺に向かって話し続けていた。他の者たちは皆緊張に顔を強張らせながら、俺の目をできるだけ見ないようにしようとしていたのに。
リアには王族と接することに対する萎縮した雰囲気がなかった。
(気になる娘だ……ものすごく)
もっと彼女を知りたい。一体どういった経緯でこの国にやって来たのか。普段どのようにして過ごしているのか。何が好きなのか。恋人はいるのだろうか。
この国のことをどう思っているのだろう。……俺のことを、どう思っただろう。
「……ふ」
「うわぁ。一人でニヤつかないでくださいよ、不気味すぎますよ本当。そんなキャラじゃないでしょう殿下は」
……つくづく失礼な側近だ。
「いいですか? 何をそんなに浮かれていらっしゃるんだか知りませんが、あの娘はただの平民。あなたは王子。分かりますか? 何をどう間違っても恋仲になれる日など来ないのですからね。しっかりしてくださいよ」
「……平民、ね……」




