25. 王妃陛下のお茶会にて
五人全員で身なりを整え、大荷物を持って王宮に参内する。
王妃陛下のお茶会の場へと案内されている最中、すでに他の四人は顔面蒼白で、それぞれ歯をガチガチ鳴らしたり、何度も深呼吸を繰り返したりしていた。
(……大丈夫かしら……)
ラモンさんなんか、目つきがおかしい。ヤスミンさんにいたっては、ウプッと言いながら口元を押さえている。吐きませんように……。
「失礼いたします、王妃陛下。お連れいたしました。……さあ、中へ」
「……失礼いたします」
ラモンさんもサディーさんも入り口で石像のように固まってしまったので、私が挨拶をして先に広間の中に入る。……よし。どうにか四人も続いて入ってきてくれた。もうこうなったら、私がリードするしかない。
「わざわざ来てくれてありがとう。さ、こちらへいらして」
(まぁ……お綺麗な方……!)
長いテーブルを囲むように大勢の貴婦人が座っており、全員が私たちに注目している。その一番奥の席に座っていらっしゃる、一際きらびやかでオーラ漂う美麗な方が、王妃陛下のようだ。エキゾチックな真紅の衣装に、小ぶりなティアラを被っていらっしゃる。誰よりも長い黒髪と深いグリーンの瞳が、とても印象的だ。他のご婦人方もとても華やかなこの国の衣装に身を包んでおり、皆が期待を込めた目で私たちを見ていた。
私は王妃陛下の前まで進むと、改めてご挨拶をした。
「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます。『ラモンとサディーの店』より参りました。皆様のような高貴な方々に私たちの作った衣装をご覧いただけること、とても光栄でございます」
「ふふ、私たちこそ楽しみにしていたのよ。若いご令嬢たちの間で大層流行っているそうね、あなた方が作っているナルレーヌ王国風のドレスが。ここにいる皆さんの娘さんたちもお好きなんですって。ね? 皆さん」
ええ、そうなんですのよ、と、王妃陛下の問いかけにご婦人方も皆口々に答える。
「はっ! そっ! それはっ、大変ありがたいことでございまして……はい。で、では早速」
ようやくラモンさんが口を開くと、皆で持ち込んだ衣装ケースを開封していく。王妃陛下が気さくにお話ししてくださる雰囲気だったので、少しは緊張が解れたのかもしれない。
私たちがドレスを一つ披露するたびに、品のいい歓声が上がる。ナルレーヌ王国風のふんわりと広がるドレスに、イェスタルア王国の艶やかで華のある美しい布地を合わせたドレスは、どれも軽く動きやすいよう工夫して作った。
「こちらのドレスは、波打つ裾のデザインに特にこだわりました。歩くたびに美しく揺れて皆様の目を引くこと間違いございませんわ」
「まぁ……! 素敵じゃないの」
「私もこれがとても好きだわ。色味も綺麗ね」
「こちらの深いブルーのドレスは、若いお嬢様方よりも、むしろ落ち着いた品格溢れるご婦人向けでございますわ。宝石も同系色のものをふんだんにあしらい、高級感漂う逸品となっております」
「まぁっ! 私ブルーがとても好きなのよ。皆様もご存知でしょう? これこそまさに私のためのドレスですわ!」
「あら、ちょっと待ってくださる? 私もこちらがとても気に入りましたのよ」
「こちらは少々お値段が張りますが、細部にいたるまでとても細かく刺繍が施された、最高級のレースをふんだんに使用した逸品でございます。内側に幾重にも軽い素材の布をレイヤードしており、外側のレースが床に美しく広がりますわ」
「まぁっ! 素敵……!」
「待って、それは私がいただくわ」
「お、王妃陛下……っ」
イブティさんやヤスミンさんたちもテキパキと動き、次々にドレスが広げられ、私は一着ずつせっせとプレゼンしていく。貴婦人方は新しいドレスが出されるたびに歓声を上げて、目を輝かせた。
結局、持ち込んだドレスは一着残らず売れた。私は心の中で何度も喜びの声を上げた。サディーさんたちもご満悦の表情だ。皆で目配せして微笑み合う。
「どれも本当に素敵だったわ。ナルレーヌの女性たちは皆こんなデザインのドレスや服を着ているのでしょう? やはりこちらとはずいぶん雰囲気が違うわね」
一息ついて紅茶を飲んでいらっしゃった王妃陛下からそう声をかけられる。
「あ、はい……。ですが、私の国ではもっと重厚かつシンプルな生地で作りますので、今日お持ちしたものとはまた雰囲気がかなり違いますわ」
「あら、そうなの?」
「はい。ナルレーヌの貴族のドレスは、重くてウエストの締め付けももっととてもきついのです。こちらイェスタルアの国の方は、柔らかく軽い素材の布を体にフィットさせるタイプの衣装をお召しでしたので、あのような重たいドレスは好まれないだろうと思い、こちらの軽やかな生地をナルレーヌ風の形にアレンジしてみたのです。お気に召して本当に嬉しゅうございますわ」
「まぁ、そうなのね。じゃああなたはこの国の衣装や布を見て気に入ってくれたの?」
「はい! とても。ナルレーヌにはない種類の豊富さに、色の鮮やかさ、柄の華やかさが、こちらの国の明るい人々の気質にも合っていて、とても素敵だと思いましたわ。初めてこちらの衣装を身につけた時には、嬉しくて心が躍りました」
「ま、ふふ。それは嬉しいわね。それならあなたの国にこちらの布で作ったこういったドレスを持って帰ったら、それはそれで流行するのではないかしら。ふふ」
私の返事を聞いた王妃陛下は本当に嬉しそうに微笑み、そうおっしゃったのだった。ドレスを買ってくださったご婦人方も、ニコニコと相槌を打っていた。
こうして私が王妃陛下のお話し相手をしているうちに、サディーさんたちはせっせと荷物を片付けていた。そうね、用事は済んだしとっとと撤収しなくては。購入してくださった方々のサイズに合わせての仕立て直し作業もある。だがその時、イブティさんたちがしまおうとしていた衣装ケースの中に、王妃陛下が目を留めた。
「あら? そちらは……? まだ何か衣装が残っているようだけれど。ドレスではないの?」
「あ、こちらは……」
イブティさんが目で助けを求めてきたので、私はすかさず答えた。
「あちらは念のために数点持参しました、男性向けの正装用ジャケットなどでございます。今日は必要ございませんでしたが……」
「あら、そんなのもあるのね。ちょっと見せてくださらない?」
王妃陛下が興味を示したので、私たちは慌ててジャケットやブラウスを取り出す。
「まぁ……!」
「あら、素敵じゃございませんこと? 王妃陛下」
「こちらの濃い紫色のジャケットなんて、アヴァン殿下に特にお似合いだと思いますわ」
「あら、本当ね。あの子の瞳の色とよく似ているわ。ふふ」
感心したように商品を見つめる王妃陛下の周りで、ご婦人方が次々に声を上げる。
(アヴァン殿下……?)




