10. 仕事を探す
どうにか近くの街に一人で辿り着き、馬車を探す。すでに足が棒のようだった。
(つ……疲れたぁ……)
街の人に教えてもらった乗り合い馬車に乗り、さらに南を目指しているうちに夜になる。苦労して泊まれる宿を探し、夜が明けてまた移動する。何もかもをたった一人でやるのが初めてで、数日経つ頃には、私は心身共に疲労困憊状態だった。
そうして何日が経っただろうか。私はどうにかこのナルレーヌ王国の南方の、とある街まで辿り着いていた。疲れがとれず、頭がクラクラする。
もっと南に行きたいところだったが、さすがにそろそろ何か仕事を探して、一旦生活の基盤を作らなくては……。乗り合い馬車も予想以上に高く、宿代や食事代もかかり、手持ちのお金がどんどん減っていた。
(私にもできそうな仕事があるかしら……。ともかく、どこか私を雇ってくれそうなところを探さなくては)
私にできることと言えば、刺繍や、勉強を教えることぐらいかしら。……そうだ、家庭教師の仕事なんてどうだろう。平民の子どもたちに勉強を教えるんだ。……でも、どうやってその仕事を見つけたらいいのかしら。
とあるレストランで食事をしている時に、近くの席に座っていた気のよさそうなおばさんにそれとなく尋ねてみる。
「何? 家庭教師の仕事を探してるのかい? あんた、どこの人?」
「……え、えっと……、ここからはかなり離れた街から来たのですが……っ、は、働いたことがなくて……ですね」
「……ふーん」
おばさんは少し訝しげだったが、私の質問に答えてくれた。
「家庭教師の仕事なんてあんた、そう簡単に見つかるもんじゃないさ。職業斡旋所からのきちんとした紹介状を持ってなきゃ、誰も雇っちゃくれないよ。そこに登録するのにも試験やなんかがあるからね」
「……そ、そうですか……」
「何の資格も持ってないんなら、こういったレストランで女給の仕事でも探したらどうだい? 店員募集の貼り紙がしてあるところなら話を聞いてくれるかもしれないよ」
「っ! な、なるほどっ! ありがとうございますおばさん」
そうか。こういうお店で働けばいいのか。お料理はしたことがないけれど、あっちの店員さんのように料理を運んだり食器を片付ける仕事なら、私にもきっとできるわ!
そう思い、一気に気持ちが明るくなった。
ところが。
「何? 全くの未経験? うーん……。あんた見た感じ体力もなさそうだしねぇ。悪いけどよそ当たっとくれ」
「うちはある程度料理もできる人を探してるんだよ。……え? 何も作れない? あんたその歳で、一体今まで何をしてたのさ。どこぞの貴族のお嬢様かよ」
「なんだいこのひょろひょろの腕は! あんたこの粉の袋ちょっと持ち上げてみな。……ちょっと! 落とさないどくれよ! ……ああもういい! 帰った帰った!」
「……はぁ……」
完全に当てが外れた。非力で未経験の私を雇ってくれるお店が、全く見つからない。
「私って……何にもできないんだなぁ……」
通りの隅に置かれていたボロボロのベンチに座って溜息をつきながら、絶望感に苛まれる。
これからどうしよう。このまま何も仕事が見つからなかったら……、そのうちお金が底をついて……、の、野垂れ死ぬしかない……?
「そんな……」
先を想像して、私は真っ青になる。こんなところでパタリと倒れて死んだら、街の人たちにも迷惑をかける。あるいはほったらかしにされて、そのうち私の死体は野良猫にでも食べられるのだろうか……。
「そ、それは嫌だわ……。なんとかしなくちゃ……!」
できるだけお金をもたせるために、今夜は食事を抜こう。でも野宿はできない。誰に襲われるかも分からないし、や、宿だけでも探さないと……!
そうして私は食事の回数を減らしながら安宿を泊まり歩き、毎日必死になって仕事を探して歩き回った。
だけど上手くいかず、そんな生活が何日も続いた頃のことだった。私はすでに頭がフラフラになっていた。
「……。……まぁ、……素敵……」
ぼうっとする頭で無心になって街をトボトボと歩いていると、気付けば見慣れない通りに入っていた。通りの両側には変わった品物を売っている露店が何軒か並んでいる。不思議な香りのする……スパイスだろうか。それに見たことのないような変わったアクセサリーに……。
私が目を留めたのは、いろいろな生地を並べている露店だった。こちらも私が見たことのないような変わった素材のものばかりだった。ツルツルしたものや、ふんわりと軽いもの。それらに何ともエキゾチックな柄が施されていて、自然と私はその布たちに吸い寄せられていた。
「いらっしゃい! 見ていっとくれ。綺麗だろう?」
「……ええ、とても……」
気の良さそうなおばさんの声にホッとして、しゃがみ込んでよく見ようとすると、何故だか突然辺りの景色がぐるりと回転を始めた。
(……? あ、れ……?)
「っ! ち、ちょっと、お嬢さん!? ……あらららら!!」
「おいっ! どうしたっ!」
露店の店員さんたちが慌てふためく声が、遠くから聞こえてきた。どうしよう……気が遠くなってきた……。
……ご……、ごめん、なさい…………。




