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アンゴルモアの皇女と創る平和  作者: 須田原道則


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003

 真夏の太陽の日差しに目を凝らしながら、車という高級なものが滅多に通らなくなり、整備もされていないひび割れた道路を、大きめの麦わら帽子を被った少女と手を繋ぎ、片手に日傘をさし歩く。


 時は20世紀、世は灼熱地獄。こんなにも暑いと嫌でも昔のことを思い出してしまう。


 嫌な気持ちを振りはらうために、僕は下を見て自分の服装を見直す、丈が短めのスカートに女性用のチュニックワンピースを着こんで手に白いレース手袋をつけて歩きにくいハイヒールを履いて日傘をさしている。


 うん、今日も良い仕上がりだと思う。


「咲、いつもそんなの着ていて暑くないのかー?」


 アンリは僕の服装について疑問を覚えて質問をしてくる。


「暑くないことはないけど、風通しの良い服を作っているからね」

「アンリのも作ってくれ!」

「駄目。アンリは綺麗に仕立て上げても寸法を無視するから作らない」

「一生このTシャツでいろと?」


 アンリの表情を窺うと、とても可愛らしい仏頂面だった。あんまりからかうとご機嫌を損なうので、僕は一つ餌を与えることにした。


「じゃあ、今度デニムショートパンツでも作って上げるよ」

「それは夏の暑さは防げるのか」

「今の服装より変な目では見られなくなるんじゃないかな」 

「そっちか。まぁよきにはからえー」


 アンリは前を向き直す。僕の趣味は服を作ること、で特技が女装である。作った服を着る者がいないから結局僕が着こなして遠出の際に着心地を確認している。運がいい事に僕の顔と声は中世的なので、見分け方は喉仏を見るか股間をまさぐるか胸部を触るかの三つだ。どれもされたくはないが、かなりの確率で女性と見間違われる。


 一年前は女装は特技なんかじゃなかった。この方が今の世界では生きやすいし、白金咲という存在をカモフラージュできるのだ。とにかく生きるためだ致し方ない。


 その服作りを活かして、月に二回復興都市へと売りに行っている。売り上げはそこそこだ、常連客も付いているし地道にパイプラインも太くなってきている。それで食料、生活用品には困らないくらいの金品は稼げている。僕の家は水道も電気もガスも通っている。そこらの廃墟とは違う。


 現代の物価価格は一年前より高くなっている。それもそうだろうね。なんたって土地が干上がった場所もある、育てていた家畜や、土壌も無くなれば、食料品の価値は趣向品を超える。そんな中で、服なんてものを買う物好きは少ないと思っていたけど。一年だ、たった一年で人間の生活習慣が変わる訳がなく、平和な世界では衣食住は金になる。もちろん粗悪の品を高値で売っている店や割り合わない値段で売りつける悪徳商売人もいる。まぁ大体そいつらはザイガを持った地球人もどきなんだけどね。


 それにしても暑い、さっきアンリに上げた水を持ってきたけど、もう飲み干してしまった。どこか甘かったけど、暑さで味覚がおかしくなったのだろうか。


 本当に海が干上がってないのがせめてもの幸いだよ。潮風が心地いい。


 そうこう考えながら長い道のりを歩いていると、前に赤いタワーが見えてきた。あそこが復興都市の東京だ。二十三区の半分はほぼ瓦礫と化してしまっているが、唯一残っていたタワーの場所を復興し始めたのが目の前に見る場所だ。年々壁の幅を広げて大きくなっているようだが、拡張するたびに何かしら不穏分子が入り込むようだ。


 東京に入ろうとするには、まず検問を通らなければならない。検問は全体で八か所ある。これもザイガを持つものが犯罪をするおかげで、そんな制度ができてしまった。と言っても昔空港にあった機械と検査官がいる部屋が置いてあるだけだ。一般人はザイガのことは知らないので、刃物や銃器や爆発物の方が危険である。


 僕達が検問所に辿り着く前に一人の茶色いトレンチコートを着た男が引き返して来ていた。それにも目をくれず、検問所に辿り着く。


「よう、お二方元気にしてたかい?」


 検問所の前まで来ると屈強な体つきをしたスキンヘッドに武将髭を生やした検査官の御影みかげただしさんが声を掛けてきてくれた。彼は一年前までは自衛隊だったとか。その自衛隊も今では半解体に陥って、こうして荒れた廃墟から来る人々の検査官だ。


「こんにちは御影さん。もうこの通りですよ」


 僕は一回転し、元気な姿を見せると言うよりは、服装を見せびらかした。


「ほうほう、今日も可愛く決め込んじゃって、また街の中で勘違い騒動はやめてくれよ」

「大丈夫ですよ、僕のことを知らないのはお上りさんくらいですし」

「そのお上りさんに気をつけろとだな」

「その時は、御影さんが助けてくれるんでしょ?」

「ったく、お前なー」


 御影さんはやれやれと言った感じに首を振ってから、僕の左手を握っている小動物に目をやった。


「よっ! 麦わら帽子のお嬢ちゃん」


 御影さんが手を上げて挨拶するもアンリは挨拶せず僕の細い足の陰に隠れてしまった。


「はっはっは、いつ見ても可愛いらしい妹さんだな、お前に似てやしない」

「嫌みですか?」

「おっ? 妬いてるのか? 気温と同じく暑いねー」

「からかわないでくださいよ」

「こりゃ失敬」


 はははと付け足し笑いしながら、額をペシペシと叩く。


 笑っている御影さんを見ていると徐に服の袖が引かれた、何かと思い見てみると陰に隠れていたアンリが引っ張っていた。早く行くぞと言う合図だ。どうしてもアンリで言うマンボー茄子が食べたいらしい。


「御影さん、僕達急いでいるので、検査機通らせてもらっていいですか?」

「あぁそうだったな。こっち側のゲートはあまり人が来ないから暇なもんでな」


 そうどこか寂しそうに言って御影さんは検査機を起動してくれた。


「あれ? でもさっき男の人が来てましたよね?」

「ん? あぁ検査機に引っ掛かったんで、お引き取り願ったよ」

「そうですか」

「ところでだ、お前、ここ最近の暑さどう思う?」


 丁度僕達が検査機に入った時を見計らって質問を投げかけてくる。


「急いでいるって言っているのに」

「いいじゃねぇか、やっぱりおっさんの世間話に付き合ってくれや。ほら珍しい物もあるぞ」


 ニコニコと笑い御影さんはボイスチェンジャーをチラッと見せてくれる。別にガジェットに興味はないけど、こんな笑顔だとどうも断りにくい。この人は僕の断れない性格を考えて発言しているんじゃないだろうかと時々思ってしまう。


「しょうがないですね。まぁ年々暑くなってきていますよね、地球温暖化ってやつですかね」


 確かに異常気象が多い気がするけど、歴史上でもあったには違いないだろう。ましてやこの地球に大量の隕石が落ちてくる天候もあるくらいだ、今さら暑さでは驚かないだろう。ついでに昨日の最高気温は四十度。今年に入ってからは六度目の四十度だ。


「俺はな、それだけじゃないと思うんだよ」

「それだけじゃないと? って、ボイスチェンジャーで遊ばないでください」

「すまんすまん。そうだな、何か他の力が働いていると思うんだよな、地核とか」

「あぁ、太陽ではなくて、地球自体が熱くなっていると」

「そうそう、太陽の熱ではなく、地の熱の方が熱くなってきていると思っているんだよ」

「うーん、どこか納得してしまいそうな話ですね」


 なんとなくしゃがんで日傘を首と肩に挟み、地面を触ってみると、火傷するかと言わんばかりの熱さが掌を襲い、反射的に手を離す。こりゃ、地の熱か太陽の熱がこもっているのかは解らないな。


「大丈夫か?」


 僕が見せた一瞬の痛みに歪んだ表情を見て、御影さんは心配の言葉をかけてくれる。


「大丈夫ですよ、鉄板の上を触ったような熱さでした」

「それは大丈夫とは言わないだろ。ちょっと見せてみろ」


 御影さんが検査室の小窓から手を伸ばし、僕の細腕を掴んで診察するようにまじまじと見る。


 彼、御影さんは一年前のアースクラッシュで妻子を亡くしている。前に一緒に飲んで酔っている時に話してくれたのを覚えている。そのせいなのか、子供と同年代の僕に対してはかなりの心配性だ。


「よし、なんともないな」


 僕の掌をパンと叩いてから離してくれた。実質さっきの地面の熱さより、今の叩かれた方が痛い。


「それにしても、どうしていきなり、そんなことを思い立ったんですか?」


 いつもならば最近見た面白い服装の話とか、上司の家庭の面白い話やら富裕層に対しての愚痴とかなものの、こんな科学的な話を振られたのは初めてかもしれない。


「んー、いやな、改めて考えてみると、ここ最近はおかしいことばかりだなと思ってな」

「何も変わってないように見えますけどね」

「変わってきているんだよ、最近は殺人事件や窃盗事件が相次いでいる。この東京も中では結構ピリピリとした雰囲気だしな」

「いつどこでも事件は起きていますよ」

「そうだが、どこか違う雰囲気を醸し出しているんだよな、俺の勘だが」


 御影さんの勘は良い。それは僕が証明できるだろう、今御影さんが言ったことは合っている。ザイガを持つ者だけが犯罪をする訳ではないが、何度も言うがここ最近はザイガを持つ者だけが犯罪を犯しているからだ。


 問題はそれをどう対処するかだ、ザイガを持つ者はもはや異星人だし、元の人間は死んでいる。しかもザイガを持つ者は変体し、モンスターと化すことが多い。そうなると今の人間の技術では対処するのが難しい。


 そこで僕の出番と言う訳だ。僕はその説明を受けた時の昔のことをまた思い出す。


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