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アンゴルモアの皇女と創る平和  作者: 須田原道則


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 その時の状況は僕には全く持って理解できていなかったが、後々語るアンリが言うには、僕を鞭で細切れにして、風で飛ぶくらいに粉微塵にしたそうだ。


「ふっはっはっは! 殺しましたね! 人間を、愛する人間を!」


 アイアンニートは自分が思っていた事が現実になり愉快愉快と高笑いを続ける。アンリが死んでも咲が死んでもどちらでも良かった。一人反乱分子が消せるのだから。だから戦いが終わった後にリスクを伴う覚悟はあった。


 アンリが死んだ場合は咲を手駒とし、メリットを得て、また優雅に美を求めて暮らす生活をすればいい。


 だが咲が死んだ場合はデメリットがある。三つの武器を既に出しているアンリに対して対抗策なく殺されるのだから。唯一つメリットがある。人殺しと言う罪をアンリに着せることができ、我々と同等の種族に戻すことができる。


 だからアイアンニートはどちらかを成し遂げれば、成功なのだ。


「貴女はもう、人間が好きだとなど言い張れないでしょう! 成長する人間という芽を自ら摘んでしまったのですからね! これで貴女もまた私達と一緒。唯の侵略者ですよ」


 アイアンニートは再び笑う、幾度も笑った。人生でこれほどまで愉快なことがあるだろうか。美しいものとは至極この事。美と美は分かち合うのではなく、互いに傷つけあう事。人と人が、互いの願いを叶える為傷つけあう。


 それがアイアンニートの中で最も美しいと思う行為。


 アンリは自分の髪の毛を使って手元に戻した鞭を手にして、粉々になった僕を見つめている。


 だがその表情は悲しみや罪悪感と言った表情は見受けられない。どの感情に近いかと言うと僕に期待の眼を向けているのだ。


「のう、アイアンニートよ」


 アンリはその眼差しを僕に向けるのをやめたかと思うと、アイアンニートの方を向く。


「どうしました? 侵略者さん」

「もし、貴様が私、もしくは咲、どちらも殺し損ねた場合はどうしておったのじゃ?」

「そんなことはありえませんよ、私の緻密な計算に狂いはない。こうなることは必然であり、計算しつくされていたのだから」

「ふむ、ではその場合の仮説を私が立てておいてやろう」

「今さら、そんな仮説は何の意味をも持たない、ただの自己満足ですよ」


 アイアンニートの雄弁な言葉を無視して、アンリは仮定を立てる。


「まず貴様は再びアサシンとやらを手駒に戻し、そいつを人間だと言い張り人質とするであろう。その後に機会を窺い逃げようとする。だが私のことじゃ逃がすことはない。なので隠している人質、蜂寺楽を呼び、それと交換に逃げおうせようと言う魂胆じゃな」


 アンリは未来を見据えるかのように仮説を立てている。そんなアンリを馬鹿にしながらアイアンニートは嘲笑う。


「ふっ、よく人質がいると解りましたね。そうです、貴女が私をここから逃がさない場合は、その人質を使います。ですがね、もうその仮定はたらればの仮想でしかない! 彼は死んだんです。貴女が殺したんですよ。理解できますか? それとも現実を受け止めきれませんか? だったら何度でも教えて差し上げますよ。彼は、死んだ!」

「誰が死んだって?」


 僕は意識が戻っていた。


 ほんの一分や二分の間だけ意識がなかった。気絶していたのとは違うのだが、そんな気分であった。


「な、なんで」


 アイアンニートの口は開いた口が塞がらない、の言葉が最もお似合いだった。さっきまで気分爽快に笑っていた笑顔を引きつらせている。あら、面白いお顔もできるのね。


「貴様は私の特殊な治癒能力を知らなかったようじゃが、私の血は他の生物をも治すことができるのじゃよ。それに私の力を引き継いでいる咲ならば、力を与えれば、私より一層治癒能力だけは高くなるのじゃ」

「そんな馬鹿な、アンゴルモアの力はそこまでも人間のザイガを引き立てさせるのか」


 僕の中にあるザイガが気力や魔術に近いものとアンリは言っていたが、人が簡単にこうやって蘇るのが気力や魔術なのだろうか。どちらかというと禁忌に触れた黒魔術なのではなかろうか。


「ま、それは咲の潜在能力と言ったところじゃな」

「そんな、死んで復活することに潜在能力を活かしたくない」


 僕は望んで死ぬ作戦をたてている訳じゃない。


「くそう! くそう! くそう!」


 アイアンニートは地団太を踏む、それに合わせて九つの尻尾も地面に穴を開ける。


「だから言ったじゃろうに、どちらも死ななかった場合はどうするのかと」


 あの時僕は体内に残った弾丸と一緒に粉微塵にされた。だけど僕は粉微塵にされても復活する再生能力と共にここにいる。もちろん粉微塵になった弾丸は僕の足元で粉となっている。


 アイアンニートは爪が甘かったんだ。あの時僕とアンリにキスをさせた時点で、計画も何も無くなっていて、計算していたのは誤算だった。全て大きなアンリの胸、ではなく掌の上で踊らされていただけ。


 とは言うものの、粉微塵にされた時は正直死んだと思った。


「もう粉微塵にされたくないぞ」

「大丈夫じゃ、今度は優しくしてやる」


 粉微塵にするのに優しくするもしないもあるのだろうか。


 何痛みはない一瞬だ。とも言わんばかりの発言だけど、一瞬の痛みもなく記憶が数分なくなるのは本当にもう嫌だ。


「くっそ! アサシン! 人質を連れてきなさい!」


 アンリの仮説のとおりにアサシンを呼ぶも、アサシンは一向に楽を連れて姿を現さなかった。


「あぁ、そうそう、実は言い忘れておったのじゃが。ジェミニの事じゃ」

「何故今になってジェミニの話を、ま、まさか!」

「そうそう。思っている通りじゃが、アサシンとやらはジェミニじゃ」

「はぁ?」


 アイアンニートではなく今度は僕が驚いていた。


「アサシンがジェミニだって? そんな訳あるかよ、だってあいつは僕の首を絞めたんだぞ?」


 そうだ、病院でだって、寝ている僕の首を絞めて殺しに来ていたし、あいつの発言も侵略者と同じような発言だった。だから信じられない。


「あれはね、事情があったの」


 僕がジェミニのことを否定した直後に頭上から何度か対話して聞き慣れた声がした。


 屋上から小さい影が段々と大きくなってきて、僕達の後ろへ着地した。


 彼女の肩には僕の親友である、蜂寺楽が巨体を力なく伸ばしながら、寝ていた。


「アサシン! お前は本当にジェミニなのか!」


 アイアンニートの顔はいつの間にか老けに老けていた。顔の横にある狐のお面も黄色く濁り、まるで油揚げのように色褪せていた。


「当たり前です。私があなた如きに操られるとでも? 狐は狐でも騙し合いが不得意な狐ですね」


 未だに信じられないがジェミニは楽を優しく、花壇に寝かせた後にフード姿のまま僕に近づいてくる。


「では、白銀さん。そのツェペシュでやってしまいましょう」

「なぁ、アンリ、僕はこいつを信じていいのか?」


 気兼ねなく話しかけてくるジェミニに対して、不信感を覚え、アンリに問うも。


「私を信用せい」


 とだけ言われた。僕は深いため息をついてから、目の前にいる標的アイアンニートに向けてツェペシュを構える。


「嘘だ! こんなことがあるはずがない!」


 自分が本当に得たものが何もないことを理解したアイアンニートは無残にも叫ぶ。


「あるはずがないって事は決してないんだよ。あるはずがないことはあるとして、言葉にしたら唯一つ」


 そんな自暴自棄になりかけのアイアンニートに対して僕は語りかける。


「それはな、奇跡って言うんだよ」


 アイアンニートに向けて、ツェペシュを遠投する。


「やめろやめろやめろやめおおおおおおおおおおおおおおおおおい」


 ツェペシュを防ごうとアイアンニートは弱り切った尻尾でガードするも、その尻尾ごとツェペシュは心臓の位置を貫いた。ツェペシュの矛先にはアイアンニート自体の本体が地球の空気に触れて粉となって消えて行った。


 これで僕のアンリの弔い合戦は終わりだろう、アンリ死んでないけど。


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