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アンゴルモアの皇女と創る平和  作者: 須田原道則


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002

 体が重くなったり、軽くなったりしている。重くなる度に呼吸するのが辛い、まるで何かが僕の上で飛び跳ねているような気がする。目の前はとても真っ暗だ。なんでだろう、僕はどうなったんだっけ? 何をしていたんだっけ?


 未だに続く胸の圧迫感を不快に思い、真っ暗な視界を明瞭にするために目を開ける。


 すると目と鼻の先には銀色に近い白く長い髪を乱れさせ、小さい顔の頬を赤く染め、今まで運動していたかのような肩で呼吸をしながら、とても可愛い少女が目を丸くして僕を覗くように見つめていた。


「起きた、起きたか!」


 少女は僕が目を開けたことに大喜びし、さっきまでやっていたであろう、僕の胸の上でぴょんぴょんと飛び跳ねた。


 一体全体どんな状況なのかが理解できなかった、どうして僕は目の前にいる少女に乗っかられているのだろうか。どうして僕は仰向けで横たわっていたのだろうか。そんな疑問を抱えつつ胸のあたりに微かな痛みを覚え、顔が歪む。


「む、痛かったか? まだ慣れてないのか。まぁそりゃ胸を貫かれれば痛みは残るか」


「かほっ! けほっ!」


 胸を貫かれただ? と言いたかったが、息が詰まってまともに言葉が出ずに咳を少女の顔にかけてしまう。だけど少女の顔にかかったのは咳だけではなかった、赤く水に近い粘っこい液体が口元についた。


 もしかして吐血した? 生まれてこの方吐血など一度も経験したことが無い僕は困惑していた。外傷や内傷を調べるために少女の顔から視線を落とす。


 自分の体を見る間に見た景色は少女の服装、少女は無敵と書かれた身の丈と同じくらいの白いTシャツを着ていた。趣味嗜好をとやかく言うことはないが、似合ってはいない。


 僕の胸には前まで無かった丸い傷跡ができていた。


 傷は何事もなかったようにふさがっているが、確実に肉を抉り取ったであろう手術痕のような跡だけがくっきりとできている。この痛々しい跡を見て僕はだんだんと記憶が鮮明に蘇る。


 黒い空から落ちて来た眩しい光。焼けるような痛みを肌に感じ、大きな地響きの後に目を開けると、最後には胸に風穴が空いた。


 頭の中で目を閉じる前までの記憶が復元され、僕に起こった不可解な出来事を思い出し、状況を把握するために体を大きく起こし、起きあがる。


 上に乗っていた少女は僕が唐突に起きあがったことで、受け身も取れず後ろから転がって行き、後転を失敗したように横にコテンと倒れてしまった。


 僕はまず空を見上げた、空は黒くもなく青くもなかった。空は赤黒かった、真っ赤に染まりあがり、まるで近くで火事を見ているようだ、微かに焦げ臭いにおいもする。


「突然起きあがることはないだろう。でも起きあがれるほどには回復したことと言うことか」


 空を見上げている顔を下ろし、少女の方を見る。少女は既に起きあがっていて、仁王立ちで僕を見下すかのように立っていた。今まで体の上に跨がれていて分からなかったけど、少女の服装は本当にTシャツ一枚だった、膝上までの長さの丈で、そのおかげで手も袖口からは出ず、肘のあたりに本来の手があり、袖がブラブラと垂れている。下に履いているものは無地の下着だけであろうと予測してみる。


「そうあんまりジロジロ見てくれるな。私もこんな姿になってしまったことを悔いているのだ」


 僕は状況が理解できずにいる。少女は悠々と胸を一回叩いて話すが頭の中が真っ白な僕は、その行動を自分に当てられていると思いこんだ。


 再び胸を見る、やはりそこには服を貫通し更には胸を貫通した跡がある、背中を手で触ってみるも右肩甲骨あたりの服が無かった。


 言葉を喋ろうとするにも、大きく呼吸をすると肺が潰されるかのように痛くなる。今も試してみたもののまた咳き込みそうになってしまう。これでは少女からは情報は貰えない、と言うかこの少女は何なのだろうか、妙に体と顔に似合わず大人びた言葉を使うし、服装が現代日本では虐待かと思わせる服装だし、それに僕が胸を貫かれたことを知っている。


「おい! どこへ行く!」 


 もっと情報がほしい。僕はそう思い、少女の声に反応せず河川敷を駆けあがり堤防の上に到達する。そこで見た光景は燃える街だった。交通便は一切動いておらず、電気すらついていないのに明るくて、電気の代わりの照明は赤く燃え上がった街だ。高層ビルが四分の一になっていたり、電波塔が跡かたも無くなくなっていたりしている。聞こえてくる音は風の虚しい音と共に微かに聞こえる悲鳴。


「どうなってんだよ」


 僕が起きてから初めて放った言葉は絶望に拉がれた声だった。


「どうもこうもなく、地球に大量の隕石が落ちてきた、そして文明が停止した。いいのぉこの悲壮感に満ち溢れた感じ、街が燃え、それを海が鏡のように映し出し。人々が恐怖し鳴き、叫び、自分だけでもと生き残ろうという美意識、とても素敵だの」


 いつの間にか少女が隣に立ち、高揚感を覚えるかのように喋っていた。こうして並んで立ってみると少女の頭は僕の胸当たりにあり、少女の小ささが感じ取れた。


「君は一体僕に何をしたんだ、君は誰なんだ」


 口の中でしょっぱい血の味を噛みしめながら僕は少女に訊ねた。少女は後ろの地獄の背景を背にし、口元に付いていた僕の血をペロッと舌で舐めとって笑って答えた。


「我、恐怖の大王の一族、アンリなり!」と。


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