表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンゴルモアの皇女と創る平和  作者: 須田原道則


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/40

022

 祭ちゃんは僕と一緒付いて来てくれて、本当に色々と世話をしてくれている。今も、病室のベッドの横で御影さんから貰ったフルーツ盛りの中に入っていたリンゴを果物ナイフで丁寧に剥いてくれている。


「咲君、うさぎさんが良いですか? それとも、たこさんですか?」

「いや、ウインナーじゃないんだから、まぁ食べられたら何でもいいから、祭ちゃんのおススメで」

「そうですか、では本気を出しますね」


 どこか祭ちゃんの気迫が変わったかと思うと、すごい勢いでリンゴの皮を剥きだした。僕は常に思っていた祭ちゃんには速さと注意力が足りないと。だが今の祭ちゃんは十分に速さと言うものを凌駕している。これは光だ。


 左手に持っているリンゴを高速で回して、その速さで右手に持っている果物ナイフを若干の力を入れるだけで、だんだんと形が出来上がって行く、これは皮むきなどと呼べるものではない。この行為はアートなのだ。


 変な実況している間にどうやら皮がむけたようだ。


「できましたよ、どんちゃんです」


 そう言って渡されたのが、狸なのか判らないが、愛苦しい動物が模られている一口サイズのリンゴだった。


「ありがとう、時に祭ちゃん、どんちゃんとは?」

「このたぬきさんの名前ですよ、忍者のペットだったんですよ」

「へ、へぇ」


 どこぞの忍者は狸を飼うのか、しかもどんちゃんってネーミングセンスが抜群にないな。信楽君でも良いんじゃないか。いや、あれは店前に居て、堅いし愛苦しさはないな。僕も相当ネーミングセンスがないようだ。


 引き気味に狸を観賞しながらリンゴを齧る。うん、少し冷やして正解だったようだ、瑞々しいリンゴの果汁がひんやりと口の中を伝わって行き、喉の奥へ涼しさを残しながら消えて行った。


「あとですね、こちらはアライグマのラ君です」

「アライグマ? たぬきに似てるね。これはどんなバックボーンがあるの?」

「これは高度な知能を携えた宇宙系アライグマです」

「そ、そうなんだ」


 もう一つのリンゴには何やら近未来な服を着てバルカン砲を持って乱射しながらロックンロールと叫んでいる吹き出し付きのアライグマが模られていた。何故祭ちゃんはこんなにも不思議な設定を持った動物のリンゴの皮むきアートにしたのだろうか。その事を知るのは祭ちゃんだけだ。


「はい、祭ちゃん」


 そんな祭ちゃんが作った不可解なキャラクターが模られたりんごを一つ爪楊枝で指してから祭ちゃんの口の前まで運んで行く。


「ふぇぇ、じ、自分で食べられますよぉ」


 この世でふえぇと言える人物が残っていたとはな。つい癖で口に運んでしまった。いつもいつも食べさせろと口うるさい奴がいたからな。


 あ、やばい、ちょっとネガティブ思考になってきている。さっきからアンリの事を思い出してばかりである。別に思いだすことは悪いことではないけど、まだそこにいるんじゃないかと思っているのかもしれないな。脳は忘れようとしても、体は覚えているものだな。


 思い耽っていると、祭ちゃんがまだ口の前に差し出していた、リンゴをパクリと一口で食べてしまった。


「美味しいですね」


 シャリシャリととても美味しそうな音を立てながら幸せそうな顔をしている。


「そうだね、美味しいね」


 そんな祭ちゃんを見て、僕ももう一口お皿に置かれたリンゴを爪楊枝で刺して齧る。


 それにしても笑顔とはこんなにも人の心を癒してくれるんだな。笑いあって食べることはこんなにも大切だったんだな。


「そうだ、今度、咲君の家へご飯を作りに行っても良いですか?」


 果物ナイフを鞘に納めて、元あった棚の上に置いてから、ポンと手を叩き祭ちゃんは言った。


「いいけど、急にどうしたの?」

「いつか、みんなで囲んでご飯を食べられるように前練習です」


 あぁそうか思い出したぞ。それに判ったぞ今日祭ちゃんが強気な理由が。祭ちゃんは過去の自分と僕を重ね合わせているんだ。アースクラッシュ後の祭ちゃんは身体的にも精神的にも、疲労困憊していて見ているこちらが辛いと感じるほどだった。それでも僕と楽はいつも通りに接した、そして祭ちゃんの笑顔が戻るまで隣や近くに絶対いた。そうして祭ちゃんを励ましていたんだ。


 そして今の僕がその時の祭ちゃんと同じなんだ。家族を失い、途方に暮れた心に居場所をくれようとしている。


「うん、じゃあ僕も腕を揮うよ。一緒に作ろうよ」


 僕はその気持ちに応える。


「いいですね、コラボメニューですね。私前菜作りますよ」

「レストラン方式だね、いいね、燃えてきたよ」


 一体何を作ろうか、僕の頭の中では色々なレシピが浮かび上がる。祭ちゃんの思いに気づき応える為に僕は笑顔を作る。作り笑顔ではなく、この時、この場を楽しんでいる笑顔だ。


「私も燃えてきましたよ」

「あ、でも一つ悩み事があったんだ」


 僕は料理を作り合う際に一つの奇妙な事を思い出す。


「なんですか?」

「いや、僕が作る料理たまに甘くなる時があるんだよね。この前、アンリの為に作った胡瓜の浅漬けも甘かったし」

「お塩とお砂糖を間違えたんじゃないんですかね? 私もしょっちゅうありますよ!」

「それ、料理を作るにおいてすごく欠点な気がするんだけど」

「そ、そうですよね・・・でも私頑張ります!」


 グッと拳を握ってガッツポーズをする。


 そんな祭ちゃんを見て僕もついふふっと笑顔をこぼした。


「どうして笑うんですかー」

「いや、ごめん、祭ちゃんと話していると面白くって」


 すると祭ちゃんも同じように笑ってくれた。


「そうですね、私も面白いです。お顔で表すとこんな感じです」


 二人の笑い声が室内に響き渡る。渡りすぎて看護婦さんに注意されてしまった。それでも僕達は声を抑えて笑いあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ