第二回婚約者会合 相応しい宝飾品を
「あとは宝飾品だね」
黙って私達の会話を聞いていた殿下が口を開いた。宝飾品か……うへえ……
「あら、なあにそのお顔。王家所有の宝飾品が選び放題なのよ。気に入らなければ新しく作ればいいだけじゃない」
「なんかさあ……今の自分総額いくらだろって思ったら動くの怖くなるんだよね……」
「難しいお人ねえ……気にすることはないわ。自らを美しく飾るための品物に過ぎないのだから。大切なのは美しさを増した自分よ」
ドレスや化粧なんかと一緒よ、と彼は言う。そうは言ってもさあ。怖ってなるじゃん、怖って。
「ふふ、カナンはガラスで良いと言っていたからね」
「良い訳ないでしょう。一目でイミテーションだとわかるわよ。まあイミテーションだとわかったところで私の美しさが損なわれるわけじゃないけれど……あら、困ったわね。良くなってしまったわ」
彼は頬に手を添え小首を傾げた。ガラスでよくない? いやまあ、着けるのバスティアンじゃなくて私なんだけど。
ガラスに心を残したままの私を置いて、殿下とバスティアンの話は進んでいく。
「以前流行ったときはどんな飾りを?」
「髪に生花を挿したそうよ。ブーケのように、小花も合わせて色とりどりに」
はー、ブーケを頭に。いつの時代もお洒落は気合いと戦いだね。
「それさあ、萎れないの?」
「髪にボトルを仕込むのよ。水を入れてね。失敗はあったそうだけど……そうね、花はいいわね。でも煌めきが欲しいわ……生花に大きな宝石を仕込むのは難しいわね……ガラス……宝石やガラス細工で花を……いえ、それだと厚みが出てしまう。薄く透けるような繊細さが欲しいのに……」
バスティアンは顎に手を当て、悩ましげに呟きをこぼす。理想はあるのにまるで雲のように掴まえられないと眉根を寄せて。すごい、苛立たしげでも仕草が美しい。爪を唇にあてる仕草が艶っぽい。すごい。
「……いや、1つ心当たりがある」
暫く沈黙が流れた部屋に、殿下の声が落とされた。
「旅の途中で、特定の条件で硬化する粘液を出す魔物がいた。形作った細いワイヤー等をあの粘液に浸して膜を作り、硬化させれば」
「フェリクス! あなた素晴らしいわ!」
「私ならすぐに採取してこれる。採ってこよう」
すぐに……また聖鳥利用するつもりだこれ!? そんなほいほい私用で聖鳥呼んでいいの!? 勇者が言い出したからいいのか? …………いいのかな!?
「それなら花芯に宝石を使うことも出来るね」
「そうしましょう! 一刻も早く採ってきて頂戴。試作を重ねなければいけないわ」
「うん、この後すぐにでも行こう」
王太子殿下のフットワークが軽い。私は全て流れに身を任せることにした。そもそも魔物の粘液で作った花が想像できんのよ。やる気に満ち溢れたバスティアンと殿下に任せよう。そして結果を粛々と受け止めるのだ。私はただ黙って、スケジュールを決めていく2人を見守った。
「ティアン、簡単なイメージ図を書いてもらえないかい?」
粗方の予定が決まったころ、殿下がそう言い出し自分のデスクから紙とペンを持ってきた。
「いいわよ」
バスティアンはそれを受け取り、さらさらと紙にペンを走らせる。すごいな、絵も上手い。流石元王族、美の伝道師だ。
「私も書き留めておきたいわね……フェリクス、あと数枚紙を頂戴」
「わかったよ」
ああでもない、こうでもないと数枚の書き損じを出しながら、バスティアンはペンを走らせていく。描かれていくドレスを身に着けた人物はどう見てもバスティアンだった。着るの私だって忘れてない? 大丈夫そ?
まあやる気が溢れているのは良いことだ。自分のためにきっと良いものを作ってくれることだろう。私はそれを享受し広告塔となる。うん、適材適所だ。
「できたわ」
殿下も数度意見を出し、イメージ図が完成した。描かれたのは花飾りを頭に付け、柔らかそうな布を足元に広げるたおやかな立ち姿だ。いいですね、腹回りが楽そうなのが本当にいい。後ろの裾めちゃめちゃ長いのが心配だが、まあ花嫁がひとりで歩き回ることはないだろう。きっと殿下が支えてくれる。こけそうになったら。
ほうほうと頷き感心する私に、殿下がそのデザイン画を差し出した。うん? 私が持ってても宝の持ち腐れじゃない?
首を傾げる私に、殿下は微笑んでその使い方を教えてくれた。
「カナン、これをマリーアンヌ嬢に見せると良い。彼女ならきっと上手く使うよ」
花飾りのイメージは、「アメリカンディップアート」をご検索ください。









