第六章 最後の笑い
第六章 最後の笑い
樽井はヤクザである父親と二人で住んでいた。私が小学校2年の時、樽井が小学校3年のときには母親は彼らを置いて出ていっていた。父親は刑務所との往復で樽井自身が小さい頃は知人宅、父親の義兄弟の家を彼方此方、仮の住まいとするしかなかったようだ。
「洋一!俺の家来になれ!」
「いいよ。家来になるよ}俺も無邪気だった。
が、そのころから
「悪」への猜疑心。いわば正義感も芽生え始めていた。
「樽井さんとは付き合わない方がいい。」子供心にそう決めた。
なにせ家来になったその日。俺は暴走族だったであろう車スカイラインGT-Rから車上荒らしをした。小学校の2年生だった。
後ろめたいがお菓子を腹一杯くった偽満足から、その日は母親を正視出来なかったことを覚えている。しかし、何も無かったように母親はいつも通り優しい。
「悪いことはしては、お母さんを泣かせる。それだけは駄目だ!」
しばらく樽井とは会わなかった。
家来の話は忘れたろうと思っていたが、あのとき樽井が嬉しそうに俺を見ながら笑ったのは最後の笑顔だったようだ。
それ以来、俺を見るといつも怒ったような顔だ。家来の一件がある故、俺も何も言えない。
家来のような主従関係など一切、無視したからであろう。
鶴崎を投げた帰りに樽井さんの怖い顔に出くわした。
「こんにちわ」と頭を下げたが
何も返答は無い。ただおまえなど眼中にはないとでも言わんばかりに遠くを見ながらすれ違ってくれた。」