第五章 背負い投げ 対 背負い投げ
第五章 背負い投げ 対 背負い投げ
数日が過ぎた。もうすぐ私立の高校受験が始まろうとする頃にまた鶴崎に呼ばれた。
「またか?」おどろおどろする俺に鶴崎は被せるように威嚇してきた。
「島君が、体育館に来るようにと・・・」
一人で俊彦の元に向かった。何も怖くは無い。ただ、、、、
俊彦と山中が体育館の床にマットを引いて背負い投げの練習をしていた。
「トシボー。」
いつになく無表情な俊彦に険しさを覚えた。程なくして鶴崎が不良歩きで短い足をがに股にしながら歩いてきた。
「伸一~」俊彦が呼ぶ。
俊彦相手に鶴崎が下手くそな背負い投げを始めた。暫くしたが、そこは不良。十回もせずに終了した。
「洋一。何か俺に言うことは無いか?」俊彦は真剣に聞こうとしている。
俺は何の躊躇も無く「何も。」と答えた。
沈黙が不良達の中で耐えきれない気概が目の睨みの変わっていくのを感じた。
しかし、俺は平気だった。ここには俊彦が居た。
そこで俊彦は提案をした。
「伸一と洋一。背負投げをお互いに投げ合え!」
スットンキョンな声を出したのは鶴崎伸一だった。
「こいつに背負いを教えたんですか?こんなマンニに、、」
不満そうな鶴崎だったが私も不思議だった。
「あんたが俺たちの番長ね?」鶴崎に私は不満そうに言った。
「なめるな~」鶴崎はこんな言葉しか知らないようだ。
鶴崎が相手では違和感だらけであった。闘争心むき出しだ。殴らんばかりに引き手に投げ手を捕まえようとするが鶴崎の場合、殴るのが好きらしい。
「伸一!背負い投げぞ!」
鶴崎は俊彦に促されて投げを打ってきた。投げられるわけがない。俺は本気だった。
しかし
「洋一!練習ぞ!投げられろ!」と俊彦からの罵声が飛ぶ。
「んじゃ。どうぞ!」と馬鹿にしたように鶴崎に言う俺はまた鶴崎を逆上させた。
思いっきりマットに投げられた。
が素人の俺が全く痛くは無かった。
「次、洋一!伸一を投げろ!」
右で投げてみた。これは俺が番長では無いと言うことで左の背負い投げは封印した。鶴崎は痛がってるが致命傷ではないようだ。
「それじゃあ気の済むまで投げろ!」
逆上してるが腰が痛い鶴崎は気合いだけで投げるが、俺は痛くも痒くもなかった。
俺自身が不思議だった。
そこで俊彦が「洋一、本気で左を使ってみろ!」
素人の私は鶴崎を左の背負いで思いっきり投げた。鶴崎は過呼吸を起こすくらいの仰向けになりながら息が苦しそうだった。
「何が苦しい?」俺は鶴崎に心配しながら聞いた。
答えられないくらい苦しそうだ。そこに俊彦は無理矢理、鶴崎の体を起こして私の前に鶴崎を突き出し。「投げろ!」と言う。
二三度繰り返し軽く投げてみた。鶴崎は死にそう見えた。
「洋一、思いっきり投げろ!」俊彦に容赦ない。
「トシボー。変わって練習してくれる?」と気の弱い俺はトドメなど刺せる訳もなく俊彦に丸投げすることにした。
「何回?」俊彦は聞いた。
「百回」俺は一瞥して、不良は大変だと思いなながら背負い投げの練習をする二人を後にした。遠くに「俺が知らないとでも思ったか!」と俊彦の声。
「樽井さんが、樽井さんが、、、」と鶴崎の声。
報復は報復の応戦になるし終わらないのが戦いなのかもしれない。どこかで止めないと不良の連鎖は続くのであろう。」
「樽井がなんてー」
俺は体育館を後にした。