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未完成な背負い投げ
第四章 未完成な背負い投げ
なんてことは無い。柔道の練習のようにキツくは無いのが不良の指導だった。俊彦は専ら山中を投げようとする。山中は上手く投げられる。素人にしては背負い投げも綺麗だ。俊彦に関して右からも左からも投げを打てるようだった。
「トシボー、バスケ部で何してたんです?」トシボーとは俺の俊彦を呼ぶときのニックネームだった。
俊彦はバスケ部で中学のレギュラーでもあった。真面目に出来れば勉強が出来なくても評価してくれる大人も居たのかもしれない。
「俺はもう中学は卒業。洋一は左の背負いを覚えろ!」
私は、そう客観的に自分の背負い投げを見ることは無かったが俊彦にも中山にも「上手い」
と言われるくらいに上達した。これは不良少年の背負い投げに過ぎないと、私は高校に入った後に気づくような始末であった。
「これでいい。もう俺が左の背負い投げに関して教えることは無い。」
「柔道部に入れと?」
「入るね?」と俊彦。
「いや、俺は剣道を続けるよ。」なんとなく訳の分からないやりとりをしながら「左の背負い投げ」の練習は終わった。