陛下が執事になるようです
「さいよう?」
「ええ。返品しないということは、こちらに執事として置いていただけるということですよね?」
まんまとしてやられた。
ハンフリート陛下の満面喜色の笑みが憎い。
どこからが計算かは分からないけれど、追い返せない言質を取られてしまった。
さすがは魑魅魍魎が蔓延る王宮を八年統べられた方は違うな、などと関心している場合ではない。
返品は、しないけれど、ここに置くというのも問題がある。いや、問題しかない。
なんと言ってお引き取り頂こうかと考えていると、ハンフリート陛下の長い腕が膝をついた私の体をまたもや掬いあげて、今度は自分の腕に座らせる。
お互いの顔が同じ高さになって近い。
「ハンフリート陛下?」
「フリートです」
「ふ、フリート様?」
「あなたの執事ですので、呼び捨てで」
「無理です」
どうにかしてお引き取り頂こうというのに、呼び名の話になってしまい、物理的にも精神的にも身動きが取れなくなる。
「ふ、フリートさん?あの、私の見た目がいくら幼子のようとはいえ、これはちょっと」
「女性に膝をつかせるなど執事にあるまじき失態でしたので、今日はミナレット様の御御足の代わりとしてお使いください」
「下ろしてください」
何を言っているのか分からない。
執事が主の足になるなど、聞いたことがない。
少なくとも私が愛読する書物の二人はそのような関係ではない。
「あちらのことはフォワードに全て引き継いできたので、何も問題はありません」
私を椅子に座らせて、またその前に跪いたハンフリート陛下、もとい、フリートさんが優しい笑みを添えて言う。
フォワード様とは、ハンフリート陛下のお兄様の御子、つまり甥で王太子だったはずだ。先頃成人を迎えられたばかりだったように記憶しているが。
「もともと、フォワードが成人するまでという期限付きの王位でしたので、ちょうどいい頃合いだったのです」
「それで執事に?」
「この身がミナレット様のお役に立てるのなら、これ以上の喜びはありませんので」
もう本当に何を言っているのか分からないけれど、フォワード様に王位を譲ってまでこちらに来られたというのならば、もう仕方ない。
「執事を雇うのは初めてなので勝手が分かりませんが」
「私も執事としてお仕えするのはミナレット様が初めてですので」
「よろしくお願い致します」
二人の声が合わさったのがなんだか少し面映かった。