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執事と主のいつもと違う朝

 我が執事フリートさんの朝は、早い。


 まだ私が前日の夜を引きずって、書物に埋もれながらもそろそろ瞼が重くなってきたと感じる早朝と呼ばれる頃には、活動をし始めている。

 塔の中でフリートさんの気配がふわりと立ち上り、静かにそこかしこに漂っていくのを感じて、今日も一日が始まるのだなぁなどとぼんやり思いながら窓の外に目を遣ると、何やら体を動かしているフリートさんが見えたりする。


 今朝も、そうだった。


 星々の巡りに異変がないかを確認し、トオルの神気が夜空に浮かび広がっていくのを見送っていたら、いつのまにか空が明るくなっていた。

 宵の明星の位置と大きさに違和感があるもののまだその輝きは銀色で、トオルの神気もこの南の塔に届くくらいには浸透している。


 このまま行けばこれから起こるかもしれない災にも充分備えることができるだろう。


 観測結果に安堵してふと視線を落とすと、眩しそうに空を見上げているフリートさんと目が合った。


「おはようございます」


 声は微かにしか聞こえないけれど、唇の動きと穏やかな笑顔から朝の挨拶をされている事に気づいて、私も手を挙げて挨拶を返す。

 フリートさんが塔に向かって来るの見送りながら、挙げた手の違和感に首を傾げながらナイトドレスの袖口を見てみると、上腕の中程に留まっていることに気づいた。

 ゆっくり腕を下げると袖口は手首から少し上の方に位置をとる。ちらりと足元を見れば、脹脛の中程の位置で揺るフリルが目に入る。


 どうやらまた、気付かぬうちに着衣が縮んでしまったようだ。


 このナイトドレスは、最近夜間作業の増えた私にとフリートさんが新たに仕立ててくれたもので、保温性に優れている上にさらりとした手触りが最高の逸品だ。

 元来堅苦しい装いを好まない私の要望が聞き入れられ、少し余裕のある丈で仕立てられた物であるはずのそれが、縮んでいるという事実を訝しく思う。

 フリートさんは、私の着衣が縮む事を喜んでくれるけれどそれは、私の身体が成長しているという事を意味しているわけで。それは、塔の、私に対する制御が緩くなっているという事を意味する。

 遠からず、私が塔の管理下から解き放たれ、守人としての役目を終える事の前兆でもある。

 トオルが西の塔の守人として招ばれた時から想定していた事ではあるけれど。


 今はまだ、時間が欲しい。いま少しの猶予を。


 逸る鼓動と焦る気持ちを抑えようと、ぐっと握り拳を作ったところで、フリートさんの気配がすぐそこ、天望回路入り口まで迫っていることに気づいて、振り返る、と。


「トゥワ様。少々お時間頂いても、よろしいでしょうか?」


 地上から最上階まで、この短時間で。

 しかも自力で登って来たであろうに息を乱すこともなく、それはもう大層爽やかな朝の空気を纏った我が執事殿と、目が合った。

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