執事の主と、初めての神気
白い部屋に揺蕩う、真白の光の玉。
数は十にも満たないけれど、ひとつひとつがしっかりとした輪郭を持ち、力強い神気を感じる。
試しに近くに舞い降りてきた一つを指で突いてみれば程よい弾力があり、摘んでみても弾けて消えたりしない。
では、と球体を破る勢いで針様の神気を打つければ、スッと中に吸い込まれていく。
害意を跳ね返さず吸収するあたり、トオルの為人が神気にも顕れているようで微笑ましい。
それにしても初めてで、これとは。
三十年ほど前の我が身を振り返り、トオルの勘の良さに脱帽する。
私が初めて自分の神気に触れた時は、それはもう、大失敗だった。塔の導きの下とはいえ特に細かな説明もなかったので、とりあえず出せるだけ全力で出してみればいいかと思ってやってみたところ、見事に大暴発を起こしまった。挙句、当時まだ現役だった北の塔の守人の領域を侵犯し、警戒警報まで発令させてしまったのだ。
当時は知る由もなかったのだが、私の神気は量も質も歴代最強と言われる程だったらしく、またどちらかというと護りよりも攻めの力が強かった為、神気を放出しただけだというのに北の塔の警戒心を煽ってしまい、災害級の警報を発令させるに至ってしまったらしい。
自分のやらかしたことの次第を把握することもできずに私は呆然とすることしかできなかったのだが、警報発令とともに瞬時に駆けつけてくれた北の塔の守人が荒れ狂う神気を宥め、王宮や各所への対処までしてくれた。
そのうえ、引退を期に諸国を漫遊しようとしていたにも関わらず、覚えの悪い私が神気を自在に操れるようになるまで、神力との付き合い方を懇切丁寧に教授してくれた。
私が塔の守人として機能できるようになったのは、偏に北の塔の守人のおかげである。感謝の念は溢れるほど尽きない。
時折どこからか便りが送られてくるので今もどこかで悠々自適な漫遊生活を送っているであろう師を思いながら、ちらりとトオルの様子を窺い見ると、フリートさんが用意してくれたお茶を手に自分の神気が見せる神聖な光景に目を輝かせながらも、少し脱力しているように見える。
それはそうだろう。
神気なんて無縁の世界からやってきて、訳も分からないまま私の雑な手解きで身の内を巡っている神力などというよく分からない力を放出したのだ
しかも、元はこの白い部屋から一切出ることの叶わない虚弱な身の上である。内包する神力も私に比べればその量は元々のトオルの体力で扱えるほどごく僅か。
その僅かな力を放出したのだから疲れもするだろう。
まぁ、この真白な神気の質を鑑みるに極上と言えるから、この量でも王宮一帯を護ることができそうだし、ここに来て健康体となった今のトオルであれば、これから神力も増していくことだろう。
もはや、伸び代しかない。




