執事の望みを聞いてみた③
「大事なことなので重ねて申し上げますが、トゥワ様の御足となる我が望み、叶えて頂けませんでしょうか」
聞き間違えであって欲しいという儚い希望は、念押しのように告げられた二回目のフリートさんの言葉によって脆くも崩れさる。
耳が捉えた言葉が信じ難く、じっと私の目を見上げるフリートさんの瞳の奥を探れど、真意は計り知れない。
トゥワ様の御足。
二度ともそう聞こえたからには、フリートさんのお望みが私の足になることだというのは間違いないようなのだが。
「フリートさん、その、私の御足、というのは」
「その言葉の意味、そのままでございます。トゥワ様の御足として、西の塔へ向かわれる際は私が馬を駆りましょう。もしも辺境の様子が気になるようでしたら、トゥワ様の御身の負担にならぬよう旅程を組み、万全の編成でもって向かわせて頂きます」
「それは、大変助かりますが」
これは暗に、神術を使って勝手に一人であちこちへ顔を出していることを、責められている?
確かに、ふと思いついてトオルの顔を見に西の塔へ転移したり、辺境の現状が気になって遠見の術で様子を窺ったりはしているけれど。
「食堂へ来られる際も、神術など使われずともこの腕にてお連れ致しますといくら申し上げても頑なに固辞なさいますので、褒賞としてトゥワ様ご本人からお許しを頂けましたら、いつか神術をお使いになれなくなった時にも都合がよろしいかと」
またまたとんでもないことを言い始めたフリートさんは、大真面目な顔をなさっていて、本当に都合がいいと思っていらっしゃるようだ。
「そうして私の足になったところで、フリートさんになんの得があるというのです?」
「トゥワ様に御足として認められれば、この先どこへ行かれる時も随行できますでしょうし、命じられずともこうしてどこへなりとも抱えてお連れすることも叶いますので、私にとっては得しかございませんが?」
私にとって都合のいいことばかり言われて戸惑い問えば、笑みを深めたフリートさんに掬い上げられ、立てた腿の上に座らされる。
先程より近づいた距離で金青の中の真実を見つめれば、嘘偽りなく、そう思っているようで揺るぎない。
本気で得しかないと思っていらっしゃる……。
なんでも望みのものをと言ったのは私だが、元国王陛下でいろいろあちらに置いて来られたとはいえ王族のフリートさんを自分の足になどと、不敬以外の何ものでもないことをおいそれとできようものか。
だがしかし、戯れではなくフリートさんが本心からそれを望んでいるのも確かなようで。
貴い御身に授けるには忍びないけれど、私が差し上げられるものなど大してないのだから、執事のフリートさんが本当に心から望まれているというのであれば。
その望みを叶えることに、否やはない。
「私、塔の守人ミナレット、トゥワは、我が執事フリートのこれまでの献身に感謝と敬意を表して、我が足として働く権利を与えます」
私を囲う腕からそっと抜け出して、姿勢を正してフリートさんの真正面に立ち高らかに宣誓すれば、素早く立ち上がり胸に右手を当てたフリートさんが深々と礼の形を取る。
「謹んでお受け致します。有り難き幸せにございます」
顔を上げたフリートさんは、ここ一番の笑顔でまた私をその腕に掬い上げた。




