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執事の望みを聞いてみた①

「よくお似合いですよ、フリートさん」


 跪き、私を見上げる姿勢から微動だにしないフリートさんの掲げられた両手の平から鍵を持ち上げ、その首にかけると、紫紺の襟締めの上で金の塔が揺れた。


 装飾の類いの一切ない装いの中できらきら輝くそれは、ともすれば玩具のように見える形をしているにも関わらず、落ち着いた色合いを持つフリートさんの魅力を引き立てている。


 せっかくなので、両手を取って立ち上がってもらい、全身を検める。


 執事として我が家に来られた時から気づいていたのだが、フリートさんが着用している漆黒の執事服は、私が愛してやまない彼の書物の有能執事のお仕着せを模したもので。

 基本的に白い装束の多い国王陛下時代にはついぞ見なかった色を纏うフリートさんは、はっきりいうと今まで見たどの衣装の時より最も麗しく私の目に映り、私が有能執事贔屓だということを差し引いてあまりある魅力を湛えている。


 今も、目の前に立つ姿は執事然としているのにどこか高貴で、ここが塔の一室だということを忘れそうになる。


 本来ならば、令嬢達からの引くて数多だったろうに。

 あんなことさえなければ、私との名乗りの儀に心が引きずられてこんなところで余生を過ごすことも、なかったはずだ。


 名乗りの儀によって結ばれた、治世者と塔の守人との絆は深く、時には伴侶とのそれをも凌駕すると言われている。

 伴侶のいないフリートさんにとって私たちの絆はきっと、唯一無二のものになってしまっているに違いない。


 それはなんと、哀れなことか。

 塔とこの地に強制的に心結ばれて。

 そのことに異を唱えることも出来ず、私を大事にしてくれるフリートさんの、なんと健気なことか。


 返品王子などと揶揄されず、どこかの令嬢と結ばれていたのなら。そもそも婿入り先で幸せな結婚生活を送ることができていたのなら。

 もしもの話をしたところで詮無いことは充分すぎるほど分かってはいるけれど、惜しむ気持ちは止めどない。


「トゥワ様?」


 過ぎたことをつい思い出し、押し寄せる当時の気持ちに目を伏せていると、フリートさんが心配気に両手を伸ばしてくる。


 長く浮いているから疲れたと思われたのか。

 フリートさんの腕が、いつものように私を掬い上げようとするので、少し距離を取る。

 褒賞の授与は、まだ半ば。

 今はまだ、その腕に抱えられてはいられないのだ。


 私の腕の長さ分だけフリートさんから離れて、畏まった空気にのせて声を上げる。


「では、続きまして。私からの褒賞としまして、私が出来る範囲内で、なんでも望みのものを差し上げます」


 いつぞや目の前の御方から自分に向けられた言葉に似た台詞を吐けば、揺らめいていた金青の瞳に急に焦点が合って、力強く見据えられる。


「なんでも望みのものを……、よろしいのですか?」

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