執事の父と主の庭の青い花
執事の主が少ししんみりする回です。
「トゥワ様は今も花を咲かせるのがお好きなのですね」
衣装の着付けを終えたフリートさんは流れるように私の髪を手に取って、木製の櫛で解いていく。
珍しく早起きしたせいか、その丁寧な手つきに眠気が誘われる。
「花は見るのも咲かせるのも好きですねぇ。ご存知かもしれませんが、この近くにね、父様陛下の庭園がありまして。そこの手入れをするのは、花を咲かせることと同じくらい好きなんです」
「守人様の花園、ですね」
「ふふふ。そういえば、父様陛下はいつもそう呼んでらっしゃいましたね」
ご自分で丹精されて見事な花園を作られたのに、何故かご自分の名前では呼ばれなかった。塔の側にあるのだから守人様の領域でしょう?と笑ってらしたが、私の中では昔も今もあの一角は、父様陛下の庭園、だ。
公務でお忙しいのに、私の世話を焼いてくれたフリートさんのお父上である、私の最初の国王様。
植物が好きで、この世界にはない青い花を咲かせようと、あの庭園で楽しそうに試行錯誤されていたお姿は昨日のことのように思い出せる。
最後にあそこでお会いした時は、私の瞳の色を陽に透かしたような紫色の花が地面を覆い尽くしているのを、満足そうに見つめて、綺麗だね、と微笑んでらした。
あともう何回か交配を繰り返すと青い花が咲くけれどもうこのままでもいいかな、とまるでもうご自分がここには来ることがないようなことを仰って。
後から考えるともうあの時は、お体に異変を感じていらっしゃったのかもしれない。
その後すぐに床に臥せられて、もう二度と会えなくなってしまった。
「父様陛下の研究を引き継いで、この度やっと真に青い花を咲かせることができそうなのです」
私の瞳に似た色のままでいいと、言われたけれど。
私は王家の者のみがその瞳に有する青で、父様陛下の庭園を埋め尽くしたかった。
雨上がりの雲間から見える空のような透き通る青を、もうこの目で見ることは叶わないから。
「父上には敵いませんね」
「賢王と謳われた方が、何を仰いますか」
亡き人を思い、込み上げる寂しさを誤魔化すようにフリートさんを振り返れば、こちらはこちらでなんとも言えない表情をなさっている。
「もし私が賢王と称されるのならば、それは兄上のおかげです。私はただ、幼い頃に兄上が語った理想の統治者の姿を演じていたに過ぎないのですから」
私の髪を編み込みながら、なんでもないことのように仰るが、誰もが理想像をその通りに演じられるというわけではない。
そこにはフリートさんの才覚と努力が確かにあったはずだ。それなのに。
返品王子と言われ貶められたからだろうか。
フリートさんの自己評価ははっきり言って地平すれすれで、もしかしたら、地中を潜る勢いかもしれない。
兄王の跡を継いで、短い間に国に蔓延る多くの問題を解決に導き、泰平の世を築かれたというのに、これだ。
理不尽な目にあったフリートさんのことを思えば微睡も遠ざかり、胃の奥の辺りからふつふつと怒りが込み上げてくる。




