執事と主と余生の過ごし方
塔の守人の朝は、遅い。
が、ごく稀に早いときも、ある。
最近フリートさんにやたらと早く寝かしつけられているせいか、今日はまだ日の出から幾分も経っていない時間に目が覚めてしまった。
今は日の出の遅い季節ではあるが、それにしても早朝に変わりはない。
しっかりと目が覚めてしまったため寝台でごろごろと微睡んでいることもできず、ごそごそと起きだす。
水を喚び出し身綺麗にしてから、着替えを、と思って衣装棚から白いローブを取り出そうとした手を止めた。
塔の守人の正装である白いローブと並んで、私の成長を確認した次の日から知らない内に増えた、色とりどりの衣装たち。
塔が用意した白いローブはさすがというかなんというか、成長した私の体に自然とぴったり合わせてきたため、これを機に私の正装を新調するというフリートさんの思惑は潰えたのだが、代わりに西の塔に行くための外着を何点か、と言いつつ、それがいまや衣装棚を圧迫するほどになっている。
トオルの元へ毎日通ったとて、一月はゆうに保つだろう。
ため息を吐きつつ、つい手に取った深青色のローブに似た形の一着を身に着けてみる。
袖や裾に施された豪奢な刺繍やすべすべとした肌触りの良さから、生地の高級さが窺える。
そもそも、元国王陛下が誂えた衣装が高級でないわけがない。それを、こんなにも。
「無駄遣いは良くないですよ、フリートさん」
「何も無駄遣いなどではありませんよ」
気配を感じて声をかけられるよりも先に扉を開ければ、開口一番、否定の言葉を聞かされる。
「これらの衣装は全て、私が父から継いだ領で生産した材料を使い、領内の工房で制作されたものです。農閑期の領民たちの収入源として始めた事業の助けにはなっても、決して無駄遣いなどということはありません」
領主の顔を覗かせるフリートさんが頼もしい口調で言うのを聞くと、やはり惜しいなと思う。
根っからの為政者であるフリートさんを、こんなところで燻らせておくのは、あまりにも勿体なさすぎる。
「フリートさん、今からでも遅くはありません、領地でその手腕を振るわれてはいかがですか?」
「実は当初、トゥワ様が守人様の任を解かれた後は引退した私とともに我が領地にお迎えして静養して頂こうと思っておりました。諸々調整致しまして、いざ当地へお誘いしようという段になって、トゥワ様が褒賞に執事をとご所望されましたので予定を変更し、今に至ります」
「……面目次第もございません」
それならそうと言ってくれれば、という気持ちを超えて申し訳なさに首が肩にめり込みそうになる。
私の妄想が暴走した結果、フリートさんの人生計画をめちゃくちゃにしていたとは。
「トゥワ様がそのように仰る必要はございません。寧ろ、トゥワ様が他者を求める気持ちになられたことに、喜びひとしおでございました」
まぁうん、そうですよね。
フリートさんのお父上が身罷られて傷心していたところに起きた王家のごたごたに嫌気が差して、中央から足が遠のいた私だ。
まさか、誰かを側に置こうと願うなど誰も思うまい。
私だって、自分の言葉に驚いたくらいだ。
「では、私がいよいよ塔の守人でなくなった暁には、フリートさんのご領地に塔ごと転移して、農産物の守人として雇ってもらいましょうか」
「それは、願ってもないことです」
申し訳なさを振り払うように冗談めかして余生の願いを口にすれば、フリートさんが本気の声音で答える。




