執事と主と、我が家の夕餉
楕円形で黄色く、揺らすとふるふると震えるこれは、初めて見る卵料理ですね!膨らんでいるのは、中に何かが入っているからですか?それとも中にも卵が詰まっているのですか?
それと、これは!固いパンが柔らかく食べられる汁物、私の好物じゃないですか!とろとろになった根菜の風味が溶け込んだ汁を吸ったパンが、カリッと焼かれて香ばしいのに口溶けが良くて、何度食べても自然と頬が緩んでしまう、逸品!
いろいろあって疲れた体はもちろん、心にも優しい食事を作ってくれたお礼を述べようと右隣を見遣ると、なぜだか食卓にも付かず立ち尽くしているフリートさんと目が合う。
名乗りの儀が終わってから、いやもしかしたら名乗りの儀の最中もずっとだったのかもしれないが、フリートさんの顔は強張ったままで。
西の塔から我が家に帰ってきて、遅くなったから夕餉は簡単なものでと言った時もフリートさんは表情を変えることなく、何かを発散させるように猛然と食材を切ったり焼いたりして、あっという間に美味しそうな料理を食卓に並べてくれた。
早く食べたいから簡単なものでと言ったわけではないけれど、フリートさんの目にも止まらぬ早業を見ることが出来て心中大盛り上がりな私と、こんなに美味しい食事を用意してくれながらも金青の瞳に影を落とすフリートさんとの間に気持ちの温度差を感じて、つい黙ってしまっていた。
何か慰めになるようなことを言えればと思うものの、うまく言葉が紡げない。
こんな時に語るべき言葉を持たず不甲斐ない私に、フリートさんがまた跪き、首を垂れる。
「トゥワ様、申し訳ございません。トゥワ様のお力が辺境でご活躍だった頃よりも勢いがないこと気づき、私が王を辞すればトゥワ様が守人の任を解かれ、自由になられると思っておりましたが、浅慮でした」
深く悔いるような声で話すフリートさんの言うことは、何も浅慮ではない。
この地を治める者が代替わりすれば、塔の守人が時の治世者と交わした名乗りの契りは一旦白紙に戻る。その時に塔の守人がその責務を果たさないような状態であれば次代の守人が召喚される。
これが塔の守人にとっての常識であるし、今回のようなことは前代未聞の出来事だろう。
フリートさんの予想を超える結末を迎えてしまったことに忸怩たる思いを抱いてらっしゃるようだが、それは違う。
「私が守人であり続けることに、フリートさんが責任を感じる必要はどこにもありませんよ。神気に翳りが見える中、私一人だったら守人を続けることを躊躇したかもしれませんが」
一人でこの地を守って、トオルを導いて、とそこまでのことをやりこなす胆力は以前の私には恐らくない。
でも今の私には。
「ただの、塔の守人でしかなかった私が、今や主と呼ばれる身の上。養うべき方ができたのですから、ちょっとやそっとのことでは儚くなんてなれませんよ」
誰よりも、この身を案じて気遣ってくれる人がいるのだ。勝手にいなくなったり、できようはずがない。
辺境時代よりも今の方がきっと強いですよ、と私が笑えば、フリートさんもその綺麗な顔をくしゃくしゃにして、ようやく笑ってくれた。




