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執事が欲しいと言ってみた

 どうしてこうなったのか。

 よくよく考えると自業自得な気がしないでもないが、ことの発端はこうだ。




 天と地の災いを鎮めたとして、国王陛下から褒賞を賜る事になって、久方ぶりに王宮を訪れた。


 てっきり謁見の間に通されるのかと思いきや、賓客用の応接室に通されて、驚いた。

 褒賞の授与であるから感謝の意を表しての特別待遇なのかと無理矢理納得したところで、国王陛下から過分なお褒めの言葉を賜り、なんでも望みのものを(常識の範囲内で)与えると言われた。


 なんでもいいなら、有能な執事が欲しいなぁ。


 国王陛下の言葉に、咄嗟に思ったことだった。

 普段なら望むものをと言われても、これ以上中央権力に関わりたくはないので、そっとしておいてくださいと不可侵の約束でも取り付けているところ。

 自分のことなら大抵は神術でどうにかできるし、外への用事があれば人形(ひとがた)を使役すればいい。

 永年ずっと一人で生きてきたのだ。

 今更他人の手を煩わせることなど皆無、なのだが。


 今思えば、この時の私はちょっとした酩酊状態にあったのだと、思う。

 天の騒めきと地の震えの余波を抑えるために、ここのところ割と無茶をしていた自覚はあった。

 けれどまさか、神経が振り切れてしまうほどだったとは思いもよらなかった。

 そこへもってきて、最近嵌まりに嵌まっている小説(少し頼りない青年貴族と比類なき有能執事の冒険譚)の最新刊が思いもかけず手に入り、国王陛下との謁見を翌日に控えているにも関わらず、夢中で読破し終えたところだった。

 冤罪で国外追放の憂き目にあった青年を陰に日向に支え、青年の名誉を回復させるために冤罪事件の真相を暴くに至った執事の有能さに、有り体に言えばすっかり心酔していた。


「有能な執事が欲しいなぁ」


 それはもう、咄嗟に思ったことがそのままの形で口から漏れてしまうほどに。


 公式の場では決して口にしないような言葉が自分の声で聴こえてきたことに驚いて、すぐさま酩酊状態からは覚めた。

 普段酒類は嗜まないので知らなかったが、どうやら酔うと気が大きくなり口が軽くなる質らしい。

 気をつけよう。

 心に刻んで、これ以上粗相を働かないように唇に封印を施す。

 一方、突然執事をおねだりされた国王陛下は一瞬その金青の目を丸くしたあと、何やら愉快な顔をされた。

 なんだかよくないことを考えているような、悪巧みの算段をつけようとしているような、そんな笑みを浮かべた国王陛下は、私の砕けた口調を咎めるでもなく、満面の笑みで望みを叶えると請け負ってくださった。


 失態を咎められなかったことに安堵した私は、国王陛下も報酬が案外安くついたと喜ばれているのかな、などと呑気なことを思いながら御前を辞した。

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