執事が陛下に苦言を呈する
「お久しゅうございます、塔の守人ミナレット様。ああ、叔父上もお元気そうで何よりです。執事姿もすっかり板についていますね」
陽の光のような明るい金髪を緩く巻いて横に流し、仰々しい肩飾りの付いた真っ白な上着をさらりと纏った姿はまだどこか服に着られているように見えるが、フリートさんとよく似た顔で優雅に一礼した御仁を前にして、最近こんなことがあったなと、誰かさんが来られた日のことを思い出す。
こういうのも、既視感というのだろうか。
つい先だって、陛下(元)がお越しになったというのに、またもや陛下(現)がお越しになるとは。
頻繁に要人が訪れるような我が家ではないのだが。
しかもフォワード現国王陛下に至っては、上下を白一色で揃えた国王陛下の正装姿でのお越しだ。
マントを羽織られていないだけ、略式と言えばそうなのだが、正装であることに変わりはない。
何か式典でもあったかと考えてみるが王家のしきたりに疎い私に思いつくようなものなどなく。
思いつくとしたらただ一つ、あるにはあるのだが。
「これはこれは朝も早いお時間から、フォワード国王陛下におかれましては、先触れもなく、如何されましたでしょうか?」
私がもしやと、あることを思いついて声を上げるよりも早く、棘を全く隠そうともしないフリートさんの言葉が飛んでいった。
その口調にかすかな怒りを感じる。
これは、あれですか、先触れも出さないような子に育てた覚えはありませんとかいう、親心的な何かですか?
「塔の守人様の御身がこの地を御するにお忙しいことは陛下もご存じのはず、ですよね?それをこのようにご都合を顧みることなく訪って」
「火急の用あってのことなのです、叔父上。先触れも出すには出したのですが居てたっても居られず、つい追い抜いてしまいました」
相変わらずなフリートさんの物言いに食いつき気味に答えたフォワード国王陛下の言葉に、やはり、と思う。
つい、で先触れを追い越すほどの火急の用といえば。
「フォワード国王陛下はまだ、西の塔の守人にご挨拶なさっておられないのですか?」
突如始まったフリートさんのお説教に、でも、だって、と言い訳を並べていたフォワード国王陛下が私の問いかけにびくりと肩を振るわせ、ゆっくりこちらに振り返る。
その蒼玉の瞳は雄弁で、私の問いを肯定するように揺らめいた。
これは、本当に火急的速やかに対処しなければいけない案件だ。先触れを追い越したとて仕方がない。
フリートさんが我が家に来る前に西の塔は建ったというのだから、その塔の守人がこの世界にきて優に半月は経過していることだろう。それなのに国王陛下との挨拶もまだということは、すなわち、塔から顔を出していないということ。
これは由々しき事態だ。
思ったよりも深刻な話を持ち込まれ、さて何から手をつけようかと算段をつけはじめたところ、傍らから前国王陛下の地の底から這い上がってきたような低い声が響いた。
「フォワード国王陛下、西の塔の守人様にご挨拶もまだとは、一体どういうことなのでしょうか?」




