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執事は最後まで見届けます

「それにしても、この厨房の様子は一体どういうことですか?」


 昨日、まだハンフリート陛下だったフリートさんをお通しした時には殺風景だった厨房が様変わりしていた。


 様変わり、というか別世界である。


 今座っている椅子もなんだかふかふかしているし、白い布をかけらた卓には私の朝食の他に花瓶に生けられた花が飾られている。


 奥の炊事場を除けば、調理器具が所狭しと並び、何やら食材のようなものも見え隠れしている。


「この朝食の食材もそうですが、一体これらはどうされたのですか?」

「これらはトゥワ様への褒賞の一部に過ぎませんのでお気になさらず」


 また褒賞ときた。

 一応目を通した褒賞目録には、食材や調理器具の贈与はなかったように記憶しているが。


「ここに、今後一切の生活を補償する、とありますね?」


 あまりにも疑わしい目で見ていたからか、どこから取り出したのか、褒賞目録を目の前に掲げて該当部分を指差すフリートさん。


 確かに、「今後一切の生活を補償する」と明記されてはいるけれど、それってこういうこと?


「今後一切の生活を補償された上、こんな領地やらなんやらをいろいろ頂くなんて、今回そんな大層なことしていませんよ、私」


 あまりに過ぎた褒賞に焦っていると、フリートさんの長い指が目録の先頭の方へとすっと動いていく。


「ここに、今までの功績を讃えて、とあるでしょう。褒賞授与の場でも申し上げたはずですがお聞き漏らしでしたでしょうか?」


 すみません、お聞き漏らしていました。

 てっきり此度の一件に対する褒賞だと思っていたし、だいぶ眠気にも襲われていてハンフリート陛下の御言葉は私の頭を素通りして行きました。すみません。


「だからもう、無茶をなさらなくともここを守っているだけでいいんですよ、貴方様は」


 座する私と目線を合わせるためか、また跪いたフリートさんの金青色が揺れる。


「どこまで知っているんですか?」

「王宮の西に新しい塔が出現しました。フォワードの治世はその西の塔がこの地の守人になるかと」


 もう次代が顕現していた。

 今となっては、私の力もあまり当てにはできないことだし、新しい塔が建ったのならば、安泰だ。


「これからここがどうなるのかは私にも分かりません。それでもこのまま私の執事でいるおつもりですか?」


 フリートさんが相当の覚悟を持ってここへ来たことは理解しているけれど、塔の存続さえ危うい状態であることを告げて、最後確認を取る。

 答えはなんとなく、分かっているけれど。


「海が荒れ、大地が揺れたおり、この身を救ってくださったのはトゥワ様でした。あの時より、この身はいずれ貴方様に捧げようと誓ってきました」


 そんな昔のことを、と思うが助けられた方からすればそんなことではないのだろう。


「辺境にてお側でそのお人柄に触れ、王となってからもずっと貴方の細やかなお心遣いに触れてきました」


 私の倍ほどの大きな体をしているというのに、随分小さく見えるのは、私の左手を握るその指先が細く震えているからだろうか。


「ずっと貴方様に焦がれてきたのです。だから、貴方様の最後となるその日まで、お側に置いてはいただくことは、できませんでしょうか」


 祈るように、私の左手に額をつけるフリートさんの後頭部を空いている右手でゆっくり撫でていく。手負いの獣の気を鎮めるように。フリートさんの心が安らかになるように。


「そこまで言うなら仕方ないですね。じゃあ、次からは、一緒にご飯、食べてくださいね」

お読みいただきありがとうございます。

お話はここで一区切りとなります。

次回からは執事と主の日常のお話になります。

よろしくお願い致します。

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