陛下が我が家にお越しです
「お初にお目にかかります。塔の守人ミナレット様への褒賞として国王陛下の命にて参りましたフリートと申します。貴方様の手となり足となり誠心誠意お仕え致しますので、どうぞよろしくお願い致します」
短く切り揃えられた白金の髪をきっちり後ろに撫で付け、飾り気のない漆黒の三揃いに身を包んだとて隠しきれない高貴な風格を身に纏ったまま、優雅に一礼した御仁を目にして、嬉々として軽く浮き上がっていた爪先が静かに着地した。
久しく使っていないはずなのに、滑らかに開いた扉を一旦閉じて状況を確認したい衝動と抗いながらも努めて平静を装い、優しげに弧を描いた金青の瞳を見上げた。
心を見透かす、未明の空を思わせる静かで深い青。
この瞳を、私は知っている。
この瞳の色を、私はよく知っている。
そして、この瞳の奥で燻る神気の色のことも、私はよく知っている。
常よりだいぶ地味な装い、というかまるでお仕着せのような格好をされてはいるが、目の前の御仁がこんなところに居るはずがない、寧ろ居てはいけない尊い御方であることに間違いはない。
「なぜ、ここに?」
当然の疑問が口から漏れ、つい眉を顰めてしまう。
今日この日にその装いでお出ましになったと見れば、その理由に察しはつくが、なぜ貴方様が?と問いたい。
何がどうしてそうなったのか。そこのところの理由が皆目検討もつかない。
ついじとりと見上げたこちらの視線を物ともせず、これまで見たこともないような柔らかい笑顔を浮かべ続ける自称フリート様。
お初にお目にかかります、などと先程仰っていたがそれに関しても、なぜそのようなことを?と問いたい。
姿や声に関しては他人の空似と言われてしまえばそれまでだろうが、他の誰でもない、塔の守人である私が、その瞳の奥の神気の色に関して見間違えるはすがない。
そんなことは、この目の前の御仁もよくご存じであるはずなのに、なぜこのように他人のふりなどしているのか。理解に苦しむ。
さてどうしようかと思っている間に、するりと扉の内側へ入ってこられた御方は、私の質問には一切答える気のないご様子でずっとこちらの出方を窺っているように見える。
このままでは拉致が明かない。
応えが返ってくるかは分からないが、とりあえず今一番確認したいことを聞いてみることにする。
「ハンフリート国王陛下、ですよね?」
お読み頂きありがとうございます。