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Fight11:虎穴

 2人はそのまま駐車場を通り過ぎて、スーパーマーケットの廃墟の前まで来ていた。本物の廃墟のようで壁などは塗装が剥がれて、そこら中に落書きが描かれている。窓など中を覗けるような部分は全て厚い板が打ち付けられて、中の様子が分からないようになっていた。


 正面の自動ドア部分は窓と同様に板が打ち付けられて入れないようになっている。しかし建物の裏にある勝手口だけは板がなく、ノブを回してみたら僅かに開いた。入るならこの勝手口からしかないようだ。


「……どうかしら。ここには『敵』がいると思う?」


「さてな……」


 中が見えないようになっているのも、この勝手口だけ開いているのも怪しいと言えば怪しい。この島はかなり広いようなので闇雲に探し回って残りの敵が見つかる保証もない。とりあえず調べてみる価値はあるかも知れない。但し……



「念のため中を調べてみる。俺1人(・・・)でな。お前はここで待っていろ」



「え……!? 馬鹿言わないで。私も行くわ!」


 予想通りの反応を返してくるリディア。だがマーカスはかぶりを振った。


「冷静になれ。ここに本当に敵がいるかも分からんし、空振りに終わる可能性の方が高い。それでいて中からも外の様子が解らないようになってるから、2人とも中に入ったら誰かが近づいてきても把握できん。なのでどっちか1人はここに残って見張ってる必要がある」


「……! そ、それは……」


 マーカスが正論(・・)を説くとリディアの勢いが弱まる。


「空振りに終わるかも知れんが、反面何があるかも分からん。なら俺が行く方が合理的だろう? 解ったら大人しくここで待っていろ。いいな?」


「……分かったわ」


 不承不承という感じで頷くリディア。不服ではあるだろうがここは納得してもらう他ない。実際には広い島の事、そうそう新たな敵が向こうからやってくる事もないだろう。ここは裏手で目立たないし、誰かに見つかる危険も少ない。ここで待っていれば安全だろう。


 ただこの廃墟の中に何があるか分からず、マーカスが確実にリディアを守れる保証がなかったので方便を用いただけだ。


「では行ってくる。広さからして15分程あれば戻ってこれるだろう」


「解ったわ。……気をつけて」


 心配そうな、そしてもどかしそうな様子のリディアを外に残し、マーカスは勝手口のドアを開けて素早く中に入り込んだ。そしてドアを閉めると、リディアが変な気を起こさないように中から鍵を掛ける。これで彼女は入って来れない。




 窓は全て締め切られているが天井には僅かな隙間がいくつもあり、そこから漏れ入る明かりで最低限の視界は確保されている。


「…………」


 マーカスは油断なく周囲に視線を走らせながら慎重に足を進める。内部は廃材やゴミなどが至る所に転がっている。入ってすぐは廊下になっていて、その先に従業員用のバックヤードのような部屋があった。反対側には仕入れや品出し、調理など多目的のための倉庫スペースとなっているようだ。


「……!」


 そしてそこに……誰かがいた。こちらに背を向けて一心不乱に何かをやっている。マーカスがドアを開けて入ってきた音に気づいていない様子だ。キィィ、キィィという何かを研ぐ(・・・・・)ような音がその人物の動きに合わせて鳴り響く。


 その人物は倉庫スペースの中央に置かれた大きな台に向かって、身体を前後に動かしている。


(どうする? やり過ごすか?)


 気づかれていないなら先に他の場所を調べてもいいが、そうすると常にこいつに気づかれないように気を配り続ける必要があるし、今なら不意打ちができる。マーカスは先にこいつを倒しておく事に決めた。この島にいる自分達参加選手以外は全て『敵』という認識でいいはずだ。


 慎重にそいつの背後に忍び寄るマーカス。だが床に散乱したゴミが爪先に当たってしまい、思いの外大きな音を立てた。


「……!!」


 そいつの動きが止まった。不意打ちは失敗だ。マーカスは相手が振り向く前に一気に突進した。そして低い姿勢からそいつの背中目掛けてストレートを撃ち込む。だがそいつは意外なほど素早い動きで横に跳んでそれを躱した。それによってマーカスはそいつと初めて正対する事になった。



(……! なんだ、こいつは……!?)


 それは体格が2メートル近くありそうな大男で、オーバーオール姿に黒い革製のエプロンを掛けていた。そして頭には目の部分だけが開いたずだ袋のようなものを被っていた。筋肉は盛り上がり、その手には刃渡りが長いノコギリを所持している。それも……両手に一本ずつだ。


 明らかに今までの『敵』とは様相が異なる。最初のマーカスの奇襲を躱した動きも中々の身のこなしだった。


(おいおい、とんだボスキャラ(・・・・・)がいたもんだな!)



「ウゴアァァァァァァァッ!!!」



 ノコギリ怪人が野獣のような咆哮を上げて二振りの鋸を振り被って突進してきた。その巨体に似合わぬかなりの速さだ。


「……!」


 マーカスは相手の迫力に惑わされないように極力冷静に敵のノコギリに意識を集中させた。敵がノコギリを振り下ろしてくる。それを躱したマーカスがカウンターで反撃しようとするが、そこにもう一本のノコギリが横薙ぎに振るわれる。


「ち……!」


 マーカスは舌打ちして飛び退る。あのノコギリを一発でも食らったらその時点でアウトだ。リディアを外に残してきて正解だった。彼女をこんな化け物と戦わせる訳にはいかない。



 大男が今度は二振りの鋸を一斉に振り上げて襲ってきた。マーカスは再び後ろに下がって距離を取る。ゴミが散乱していて足場が悪いので細心の注意を要求される。


 幸いというかノコギリの軌道自体は単純で、冷静に見極めれば躱す事はできそうだ。無論避け損なったら最悪一撃で致命傷だが、このゲームは自分の命を賭けねば何も手に入れられない。


「ぬんっ!」


 マーカスは決心を固めると敢えて自分から前に出た。大男が迎撃してくる。まず右腕のノコギリを振り下ろしてくる。これは予想通りだ。彼は身を屈めるようなスウェーでノコギリを躱す。大男が当然今度は左腕のノコギリを薙ぎ払おうとするが……


「ふっ!!」


 マーカスはその前に瞬速のストレートを大男のずだ袋を被った顔面に叩き込む。大男が怯んだ。だが踏み止まると怒り狂って左腕のノコギリを振るうが、マーカスはそれを半歩下がって躱した。そしてやはり右腕の追撃が来る前に再び踏み込んで、今度はローで下腿部に蹴り込む。


 武器を両手に持っているからといっても、それを操る頭は一つなのだ。よほど訓練しなければ二振りの武器を効率的には使えない。マーカスは大男が武器を振るう隙を見切っていたのだ。



 その後も同様の攻防が何度か繰り返され、マーカスの攻撃がその度にヒットした。大男の動きは大分鈍ってきていたが、それでもまだ倒れる気配がない。


(ち……見た目通り相当なタフネスだな。これ以上時間を掛けるのは得策じゃないな)


 マーカスは一気に勝負を決めるべく攻勢に出る。だが同時に大男もノコギリを挟み込むように同時に振るってきた。マーカスは大胆に大きく屈み込んでノコギリの刃を躱す。頭上スレスレを刃が通過する感触。一瞬肝が冷えたが、何とかやり過ごせた。そして奴が攻撃を空振りした瞬間を狙って、飛び上がるようにアッパーカットを叩き込んだ。


「……!!」


 大男が如実に怯んだ。マーカスは間髪を入れず追撃。飛び膝蹴りを奴の顔面にクリーンヒットさせた。大男の巨体がもんどり打って倒れ込んだ。



「…………」


 マーカスはそれでも気を抜く事なく敵を見据えるが、大男が起き上がってくる気配はない。KOだ。それを確認してようやく息を吐いた。


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