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第46話 硝子の花薗②

 瑠伽は一体、何を話すつもりなのだろう? 照れているのか、何やらとても言いにくそうだけれど。小夜子嬢との今後についての惚気話だろうか? 私にとっては非情で残酷な話題だ。極楽の夢を見させておいて、一気に奈落の底に突き落すという……ある意味では、現実的な夢だ。だが考え方によっては、目が覚めて現実世界に戻っても夢で少しは耐性がつくだろうから、そう言う意味では幸運と言えるのかもしれない。物は考えようだ。


 それに……


「そんなことないよ! きみのおとうさんとおかあさんのほうがおかしいよ。たのんでもいないのに、かってにうんだんだから。おとうさんとおかあさんのせいだよ! きみはわるくない! おとうさんとおかあさんは、きみをかわいがるギムがあるんだ!」


 瑠伽が初対面の私にくれた言葉は、時が経てば経つほどその重要な意味を私に投げかけてくれた。

 『私が、見た目、能力全てにおいて努力を重ねたにも関わらず凡人中の凡人なのは「私が悪い訳ではない」頼んでもいないのに「勝手に作った製造元のせい」であって、「製造元は慈しんで保護し育てる義務がある」にも関わらず、罪なき子供に責任転嫁した挙句義務を放棄した両親がクズ!!!』

 この考え方のお陰で、私は図太く底抜けにポジティブに、まさに『雑草の如く』七転び八起の精神で生き抜く事が出来たのだ。大丈夫、どんなに辛くても私には瑠伽がくれた言葉があるから。それだけで、生きて行ける! 瑠伽と小夜子さんを支援して『ポンパドール夫人』のように……


 「……結論から先に言うとね、小夜子とは別れたよ。むしろもっと早そうすべきだったんだ」

「ん? ……えっ?」


 聞き間違えたかな? それとも、優しい瑠伽の事だから言い難くて言い間違えた? 私に対して物凄く失礼だけど、気持ちは理解出来るから許すよ。まぁ、夢の中だけどね。


 「えーと、聞き間違えたかな? 誰と別れるって?」


私との契約破棄の申し出でしょ?


 「小夜子と別れたんだよ」


苦笑する瑠伽。あれ? そうか、願望夢か。


 「……きっぱりと別れるのに手間取った。しっかり別れるまで、真緒理のところに帰る資格はないと思ったから」

「あ、えーと、その……と言う事はつまり……」

(夢の中とは言え、こんな不意打ちどう反応していいのか分からないよ)

「うん、契約結婚じゃなくて、僕と真緒理は本当に結婚して夫婦になるんだ」


 ……何? これ。都合良すぎる夢で逆に興醒めだわ。早く目覚めろってば……


 「真緒理? 聞いてる?」


驚きの余り二の句が継げない私に、彼は右手で私の左肩を軽く叩いた。感触までやたらリアルな夢だ。段々不快になって来た。もう早く目が覚めてくれ!


 「聞こえているよ。でもいきなり何で? あれほど、小夜子さんに夢中だったじゃない!? 運命の女(ファム・ファタール)とか言っちゃってさ。それに、そもそも瑠伽は私に恋愛感情なんか無いじゃん」


 瑠伽からプイッと目を反らし、不貞腐れたように答える。もう沢山だ! いい加減から覚めてよ!


 「御免な、今更こんな事言っても信じられないのも分かるよ。僕が自覚してなかったばっかりに……」


 ……は? 何言ってるの? 同情? 哀れみ? 何だか物凄く腹が立って来た……


 「何それ? 小夜子さんとの事は間違いだったって? 長年ラブラブだったのに、随分とお手軽じゃない」


 瑠伽を睨みつける。もうどうにでもなれ! どうせ夢なんだし。


「長年、僕は小夜子と恋人ごっこをして来ただけだったんだよ」


 カッとなった。椅子から立ち上がり、瑠伽に詰め寄る。


「ふざけないでよ!! 揶揄ってるの?」

「揶揄ってなんかいないよ。ふざけてもいないよ。真緒理にしてみれば唐突過ぎるし、信じられないのも無理ないと思う。自分でも虫が良すぎると思うし。だけどね、さすがに……僕の大事な真緒理にあんな事しでかす人を好きでいるなんて無理だよ。それこそ百年の恋もいっぺんに醒めちゃうよ。動物の命を軽んじたり、人を傷つけて当然という価値観とか。育った環境を鑑みても、あの年齢まで自分の事しか考えられないところとか」


 あくまで落ち着いて穏やかな口調で話す彼に苛立ちが募る。


「それって、その事がなかったら小夜子さんとは未だに続いてた、て事じゃない。随分いい加減ね。それで、私と本物の夫婦になった、なんて言われても信じられる訳がないでしょ!! どうせすぐに小夜子さんと元鞘に決まってるわ!」


 何で、そんな穏やかな目で見つめるの? 


「……本当に、御免な。僕の事を信用出来ないくらい、無神経に傷つけていたんだね。あのね、真緒理」


 瑠伽は私と正面から向き合うようにして、移動した。再び、両手を私の両肩に乗せる。心の奥底まで見透かされるような深い青色の瞳に、不覚にもトクンと鼓動が踊ってしまった。


 「僕は真緒理の事が好きだよ。僕が鈍過ぎる上に馬鹿だったから気付かなかっただけで。本当はずっと前から好きだったんだと思うよ」


 ……未だ醒めない、夢。願望夢……


「嘘つき……」


 ぽつり、と本音が漏れた。胸の奥がギューッ痛くなる。


「嘘じゃないよ」

「だってこれ、夢だもん……夢の中なんだもん……目覚めたら終わりだもん……」


 痛みは喉の奥に移動し、透明の液体が両眼に溢れて目の前が霞む。


「真緒理、夢じゃないよ。これから、信じて貰えるように善処していくから」


 現実? 嘘だ、だって……


「……散々、『真緒理は妹みたいなもの』とか言ってた癖に」


 頬に、熱いものが流れ出した。もう、夢でも現実でも構わない。言いたかった事、言ってやる!


「自分の気持ちに、鈍感で御免」

「小夜子さんとの惚気、散々聞かせた癖に……」

「無神経で御免」

「カ、カフェで……小夜子さんばかり見て、私の事無視した癖に」

「御免、あの時はそうするしかなかったんだ、聞いてくれ……」

「その後、一度連絡しただけで、ずっと音信不通だった癖に……」


 うぅ……ひっく、耐え切れず、嗚咽が込み上げた。


「真緒理、本当に御免!」


 瑠伽は叫ぶようにして声を上げると、私の両肩に置いていた右手でぐっと胸に抱き寄せた。虚を突かれ、そのまま彼の鼓動に耳を傾けた。今までずっと、小夜子さん専用だった彼の腕の中に包まれている。普通なら、違和感や居心地の悪さを覚えてもおかしくない。


 それなのに……


 それはとても不思議な感覚だった。初めて自分の居場所を見つけたような、無条件に安心出来るような気がした。目を閉じて、彼の鼓動に耳を傾ける。



 


ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

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