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第41話 当て馬役の心得①

 現実の事、何も考えたくない。今は何もしたくない。だから気が済むまで現実逃避をしている。自室に籠り、ベッドの上で惰眠を貪りゴロゴロゴロゴロ。目が覚めたら、頭の中を空っぽにして楽しめるラノベや漫画を読み漁ったり。


 三度の食事とおやつは、蓮が部屋へと運んでくれるし。お手洗いも浴槽も自室にあるから、どこにも出歩かなくて済む。なんという贅沢なのか。……というのも、蓮から体調が完全に回復するまで『外出禁止・仕事禁止令』を言い渡されたからなのだけれど。



 あれから蓮と帰路についた。蓮は特に声をかける事はせず、ただただ私を気遣ってくれた。それがとても嬉しくて有り難かった。知らぬ間に緊張していたのか、全身が酷く怠かったし。一言でも言葉を発したら、泣き崩れてしまいそうだったから。しばらく何も考えたくなかった。


 ……瑠伽は、一度も私と視線を合わせなかった。ただ一心に小夜子さんだけを見ていた……


 その事実だけが、頭の中を竜巻みたいにループしていた。頭痛が酷く、何かを思考したら気が狂ってしまいそうだった。


 帰宅してしばらくすると、菜乃、史桜の順に訪ねて来た。我が家で夕飯を食べながら、カフェでの件を一同で話し合う予定だった。


 「全くさぁ、あれはどういうつもりなんだろうね、瑠伽の奴」


菜乃はプリプリ怒っている。有り難う、私の代わりに怒ってくれて。でも頭が割れるように痛い……


 「考えようによっては、罪悪感と恥ずかしさでお前に合わせる顔が無かったから……という風に受け取れなくもないがなぁ。しかしなぁ……」


史桜は思案顔だ。ホント、有難うね。物凄く体が怠い……


 ……瑠伽は、一度も私と視線を合わせなかった。ただ一心に小夜子さんだけを見ていた……


 その事だけが、私の思考全てを支配している。それ以外考えられない、考えたくない。


 「それにしても、粗末なほど低俗な手口でしたねぇ。旦那様から、何かしら連絡があると思うのですが……それ次第で……奥様? 奥様!?」


 蓮が何か言っているけど、言葉が聞き取れない。頭が痛い、吐き気がして目が回る……ダメだ、心配かけたら。とにかく、皆にお礼だけは……


 「ごめんね……有難う……」


しっかり言えたかどうか分からない。ただ、史桜と菜乃が「真緒理!」と名前を叫んだのと、蓮が名前を呼びながら私に駆け寄り、両腕を広げた。それ以降、視界が暗転しプツリと記憶が途絶えた。


 目を覚ましたのは二日後の昼過ぎだった。自室のベッドに仰向けえ寝ており、いつの間に着替えたのかパジャマ姿で左腕に点滴の管が通っていた。あの後意識を失ってしまい、皆に大いに心配をかけてしまったらしい。蓮が呼んでくれた医者によると、過労と栄養失調という事だった。そう言えば、この所眠りが浅かったし、ろくに食事を取ってなかったかもしれない。面目ない……


 このような経緯で、蓮はショップの仕事も代理でしてくれたりなど、「兎に角最低一週間は外出禁止、療養してください。お体が回復されてからいくらでも悩んで考える時間はありますから、今は何も考えずゆっくり休んでください」との事で現在に至るのだ。


 今、ベッドの枕を背もたれにして読んでいるのは……


~・~・~・~・~・~・~・~・~


 【聖女は王太子に溺愛される】『プロローグ』より


 ~王太子と悪役令嬢〇○の婚約お披露目パーティーにて~


王太子「○○、お前との婚約を破棄する……」


 ……いやいや、国とか家柄とか政略結婚とか、様々な理由が複雑に絡み合っているから王太子の一存で婚約破棄とか無理だから。勝手にそんな事しから、○○への侮辱罪になるし、聖女も婚約者がいる王太子を略奪した罪に問われるよね……


 王太子「私は、愛する聖女△△と婚約する事にする」


……ないない、悪役令嬢と婚約中なのに他の女と親密に……とか浮気男のクズですやん。それと、聖女? 婚約者がいる相手と親密になる時点で聖女ちゃうし。聖女なら婚約者がいる相手付き合うの断るでしょ、しかも王太子と婚約者から略奪してまで婚約とか、相当な腹黒野心家か何も考えていないお馬鹿《《性》》女か……


 王太子「○○、お前が△△にした嫌がらせの数々は全て調べがついてる! 更に、△△を毒殺しようとした事、許し難い!」


 〇○「ち、違います! (あなたに振り向いて欲しくて)△△に嫌がらせをした事は認めますが……」


 ……あなたも嫌がらせとか駄目でしょ。気持ちは分からなくもないけど、それをしたら益々相手の気持ちは冷めるし嫌われちゃう上に、王太子は△△への想いを益々深めちゃうよー。逆効果だよ……


 王太子「よって、お前を死刑に処する」


……おーい、いくらなんでも婚約お披露目パーティーとやらで婚約者を貶めた上に他の女と婚約して更に死刑とか……しかも独断で。王太子よ、キミが国王になったら大変混乱した世の中になるね。しかも王妃が略奪《《性》》女とか最悪です。国の行く末が心配になるよ……


 ~王太子と△△を〇○から守るようにして、五人の王室護衛騎士が〇○に剣を向けた~


 ……て、うわぁ、無抵抗で丸腰の御令嬢に王室護衛騎士が揃いも揃って剣を向けるとか有り得ない、鬼畜! これがもし仮に、聖女が腹黒強欲《《性》》女で《《悪役》》(そうそう、悪女ではなくて悪役の令嬢なのよね)令嬢が冤罪だった場合、王太子も王位剥奪で幽閉が追放、《《性》》女は爵位剥奪、幽閉か追放か処刑、となるよね……


~・~・~・~・~・~・~・~・~


 と、このような突っ込みはファンタジーにつき華麗にスルーして、お約束の王道テンプレ展開を楽しむのが『粋』なのだ。


 今読んでいつのは聖女がヒロインの物語だが、今回断罪された悪役令嬢が主役になる話も人気だ。この場合、現在から小説やゲームの世界に異世界転生した子が悪役令嬢に……という王道展開で。ヒロインは断罪・追放・死亡フラグをへし折る為に奮闘するのだ。これもまた楽しい。どちらも「ざまぁ」展開がある事が大半で、見所の一つだ。


 だがこれは現実には有り得ないフィクションだからこそ楽しめる訳で。

それというのも、この世知辛い世の中。親切で真面目で誠実な努力家が、その時の運とタイミングによっては必ずしも報われるとは限らない。それどころか、何事にも適当で人を出し抜き陥れる事に何の罪悪感も抱かない奴の方が人生『イージーモード』だったりする事が多い。


 だからこそ、多くの人は日ごろの鬱憤を晴らしカタルシスを求める為、断罪・追放・死亡フラグを回避してハッピーエンド、そんな目に合わせた奴らに復讐・ざまぁ展開のファンタジーが好まれるのだ。


 今回のカフェでの出来事も、このようにして軽く流して楽しめたなら……どんなに良かっただろう。だが、現実は無情だ。当て馬役である私には尚更。瑠伽からは、あの日の深夜に一言だけ


 「本当にごめん、今はそれしか言えない」


とLINERが入っただけで何の連絡もない上、家にも帰って来ない。


 けれども、長年沁みついた当て馬キャラ体質の経験により、ハッキリしている事がある。


 ……瑠伽は、一度も私と視線を合わせなかった。ただ一心に小夜子さんだけを見ていた……


 事実をそのまま受け止めるべし。僅かな期待など一切してはならない。また、それ以上に悲観的になる必要もない。これである。




 

ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

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