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第40話 え? これって私が悪役令嬢ってヤツ?③

 「だからね、この地味な子がね、美人なお嬢さんを一方的に罵った挙句に急須をぶちまけたんだよ。きっと、美形のお兄さんに片思いしていて、振り向いて貰えないもんだからお嬢さんに嫌がらせしたに違いないよ!」


 ……そんな幼稚な短絡思考だったのか、お嬢さんよ。あなたの脚本だね。史桜や菜乃が堂々と携帯で録画しているのに誰も咎めないし気付かないとか、色々お粗末過ぎでしょ……


 馬鹿馬鹿しく思うけれど、瑠伽の言動が気になって目が離せない。彼は、沈痛な面持ちでお嬢を見つめながら近づいていく。一度も、私に目を合わせてくれない……。やっぱり、そうだよね。


「そうそう、あたしゃ一部始終この目で見ていたからね、間違いないよ」

「そうだそうだ!」「不細工の嫉妬見苦しいぞ」


 瑠伽は一旦立ち止まると、先ずはおしゃべりおばさん二人組を一人ずつじっと目を合わせ、その後取り囲んでいる外野を端から一人一人視線を合わせて行く。その中には菜乃と史桜、そして蓮が居たが彼らは揃いも揃って瑠伽に強い怒りの眼差しで返した。しかし、共通して全員が固唾をのんで瑠伽の一挙一動に注目していた。彼は一人一人静かに視線を合わせる事で、烏合の衆を黙らせる事で、この場を瞬時に支配してしまった。


 やがて、瑠伽は言った。カフェ内に、彼の凛とした声が響き渡る。


「静かにしてくれないか。僕には、君達が断罪している子の方こそが、一方的に言いがかりをつけられ罵られているようにしか見えない。何より彼女は、聡明かつ高潔な人だ。間違ってもそんな稚拙で卑怯な事をする人ではない。これ以上は、君たちに不利になるだけだから辞め給え、見苦しい。もう二度と、こんな事しないで欲しい。君たちの品位が下がるだけだから」


 ……あれ? あれ? もしかして私の肩を持ってくれた?……


静かに、淡々と述べる彼の声色の中に、隠し切れない怒りが込められている。その怒りは、どこに? 誰に向いているのだろう? 烏合の衆? それとも、こんな愚行をしでかすまで彼女を追い詰めた(?)瑠伽自身への怒り? 恐らくは後者だろう。


 小夜子嬢は、ハンカチを取って瑠伽を見つめていた。大きな漆黒の瞳が潤み、長い睫毛に溜まった涙が水晶の飾りみたいに美しく輝いている。息を呑む程、綺麗だ。まるで朝露に濡れた白い牡丹のように。こんな美女に潤んだ眼差しを向けられて、冷たく突き放せる男がこの世に存在するだろうか? まして、自分に想いを寄せらているのなら尚更……。

 ただ、白目も目元も鼻先も、何一つも赤くなっていないから、嘘泣きである事は確定だ。だが、恋という名の病で色眼鏡をつけた瑠伽に、それを見抜けるかは疑問だ。仮に、見抜けたとしても余計に愛しく感じるに違いない。


 私の状況を見ただけで判断し、私の肩を持ってくれて嬉しかった。それだけで、満足すべきだ。元々、私たちの間には兄妹愛しか存在していないのだから。


 瑠伽は小夜子嬢のすぐ目の前で立ち止まった。見つめ合う二人。漫画で描けば、二人の背景には深紅の薔薇の花が咲き乱れている事だろう。この後の展開を予測出来るが故に、この場から即退場してしまいたい。けれども私のプライドが、それを許さなかった。

「ポンパドール夫人」を目指す身としては、今後の己の立ち位置を再確認し、かつ二人をサポートする為にもしっかりと把握しておく必要がある。


 彼が小夜子さんを見つめる眼差しが、愛し気と言うよりは痛ましそうに見えてしまうのは……《《嫉妬》》という醜く濁ったフィルターがかかっているからだろうか。


 「……小夜子、どうしてこんな事したんだ? 不満があるなら僕に言うべきだろう?」


 ややあって、瑠伽は彼女に優しく声をかけた。どの様子は、さながら幼子(おさなご)あやす保護者のようだ。


「お久しぶりにお逢い出来ましたのに、ご挨拶ですわね。その人の事は無条件に信じてしまいますの?」


 お嬢は完全に甘えて拗ねている。それだけ、瑠伽が自分に盲目的な愛を捧げている事に絶大な自信があるのだろう。


「彼女は決してそんな事をする人ではない、と断言出来るからだ」


 もしこの一連の出来事が『令嬢モノファンタジー物語』なら、ここでどんでん返しの「ざまぁ展開」が発生するだろうけれど。残念ながら私はヒロインではない。それも当て馬ポジションにつき、そんな奇跡は訪れない。ヒロインは小夜子嬢なのだ。


 その証拠に、ほーら……


「酷いわ! 久しぶりに逢う恋人への仕打ちが、別の女を褒める事だなんて!……うっ、うっ、くすん……」


 はい、またもやハンカチを取り出して両手で目を覆って《《嘘泣き》》が始まりましたよ皆さん。瑠伽は嘘泣きとは気付かないか、気付いても『可愛いヤツ』とキュンと来てしまうか、どちらだろう?


 「はいはい、ほら……」


あ、後者の方みたい。その証拠に、『仕方ないな、こいつ』と言うようにして彼女を腕に引き寄せてるし。


 「そういう時は『寂しい、逢いたい』って素直に僕に伝えれば良いんだ。他の人に迷惑かけて良い事じゃないぞ」


 瑠伽は腕の中の彼女をあやすようにして、右手で軽く背中を叩いている。


……あぁ、瑠伽はきっと小夜子さんを選ぶ。分かりきっている事なのに、何だろう? この空虚感は……


 気付けば、私に寄り添うようにして左斜め後ろに控えている蓮が居た。更に、心配そうに私を見つめる史桜と菜乃の視線を感じた。(一応、菜乃と史桜に万が一被害が及ぶのを防ぐ為、帰りも各自バラバラで……と決めてある)有難う、皆。私は、大丈夫。


 「すまなかったな。だけど小夜子の事をこのまま放っておく事は出来ない。御免、ここは引いてくれ。会計はこちらでしておく。後で連絡する」


 瑠伽は感情を殺した抑揚のない声で言った。その眼差しは、胸に顔を埋めて泣いてる小夜子嬢に注がれたまま、ただの一度も私に交わる事は無かった。


 ……惨めだ。ここは潔く颯爽と立ち去らねば! 気ばかりが焦って空回りする。いっその事この場で失神してしまえたら楽なのに……


 瑠伽、菜乃、史桜が一斉に抗議を申したてようと大きく息を吸ったのを感じた。気持ちは有り難いけど駄目、これ以上惨めな気持ちにさせないで! 我儘で御免。


 「私は大丈夫!! 勿論よ、彼女についていてあげて」


最後のプライドを掻き集めて、笑顔で瑠伽に告げた。そうする事で、蓮たちの反論を防いだ。せめて、何でもない事!!


 精一杯の笑顔で瑠伽に視線を合わせ、踵を返し入り口を目指す。堂々と背筋を伸ばして、口角を上げる事を意識しながら。


ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

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