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第38話 え? これって私が悪役令嬢ってヤツ?①

 ……気拙い……控えめに言って気拙い…… 


木目を活かした長方形のテーブルの向かい側には、藤色の江戸小紋に白の大小あられ模様、帯は淡い黄色……という楚々たる美女、小夜子嬢が優雅に日本茶を飲んでいる。艶やかな黒髪をしっとりとアップに結い上げており、後れ毛が湯上りの色気を連想させる。同性でもそう感じるのだから、男性から見たら一溜りもないだろう。即、陥落だ。


 私の服装はと言えば、白のセーラーカラーに紺色のシャツワンピース。前に水色のボタンがついており、腰には紺色のベルトリボン。首には太い黒のチョーカー、ベージュ色のローファーとベレー帽だ。手荷物のベージュ色のトートバッグも、べっ甲飴色のフレームのテメガネも全てが防弾坊防刃仕様だ。

 

 因みに、椅子はテーブルとお揃いの木製で意外に座り心地が良い。店内はかなりお金をかけて丁寧に作られているようだ。フローリングの床といい木の温もりを感じさせる。紺色の割烹着姿のスタッフの制服も清潔そうで好感が持てた。接客態度も悪くない。しっかりした研修制度がありそうだ。店内は30坪ほどだろうか。テーブルはこの席を入れて十組ほどあり、空席は二つほど。利用しているのは女性同士かカップルが殆どだ。女子高生と思われる層から年配の方までと、幅広い年代が利用している。他にはカウンター席があり、8つの椅子が並んでいる。今現在、3人が座っていた。厨房を眺め乍らお茶を飲むのも楽しそうだ。


 ……史桜と菜乃は何処にいるのだろう? 気にはなるが、変装して紛れ込むのでもし気付いたとしても互いに秘密の約束だ。


 さて、話は少し前に遡るが……


迫下は、私たちが室内に入ると、先ず蓮に話しかけた。


「今日はお嬢が友達として親密になりたい、とおっしゃるんで。うちらは二人でお茶でもしてましょうや」


 蓮は即座に難色を示したが、店内を見回すと奥の席で和服美人が日本茶を飲んでいる。小夜子嬢、一人で。ここで、蓮が私と同席するのはおかしい。それに、小夜子さんと私との二人だけの対面の際、何があっても私一人で対応する。蓮は危害が加えられそうになった時に助けるのみ、史桜の菜乃も、何が起きたのか録画もしくは録音するのみ、と予め決めてあるのだ。


 「大丈夫、楽しんで来るから。蓮も休んでいて」


と声をかけ、小夜子嬢の元へ歩みを進めた。彼女の座るテーブルには白の急須が置かれていた。右手に持つ白い湯飲み茶碗には緑茶が満たされており、左手を添えて上品に飲んでいる。そうしているだけで藤色の菖蒲(あやめ)のように美しい。私と目が合うと、彼女は湯飲み茶椀をテーブルの上に丁寧に置き、軽く会釈をした。ニコリともしないからちょっと怖かったが、私は口角を上げ「こんにちは、今日は有難うございます」と応じた。彼女は右手を軽くあげ、向かい側に座ってテーブルに置かれているメニュー表を見るよう促した。その一つ一つの所作が上品で、常に人を使う事に慣れているお姫様のようだ。


 さて、彼女も二人で、と指定したのだからきっと本当に『女同士』仲良くなりたいのだろう。よし、頑張って歩み寄るとしますか! そうだ、『ポンパドール夫人』を目指しているのだから、こういう時こそその本領を発揮する良い機会ではないか!


 「有難うございます」と言って椅子に腰をおろし彼女に笑顔を向けたまま、早速話しかけた。


 「木の温もりを感じるような素敵なお店ですね」


メニューを見てみる。A4の冊子になっていてお茶の種類、デザートと全て写真で紹介されていた。本格的な抹茶、玄米茶、ほうじ茶、緑茶、麦茶、緑茶、それぞれの産地も選べるようになっている。デザートには葛餅やほうじ茶ゼリー、あんみつ、抹茶パフェなど、やはり『和風』に拘っているようだ。


 先程から彼女は一言も発しないが、構わずに話しかける。


「わぁ、どれも美味しそう! 何かお勧めはありますか?」


 先ずは会話のキャッチボールを目指そう。プライベートで対面するのは初めてなのだ。きっと彼女も緊張して戸惑っていると思う。


「特にお勧めはありません。人それぞれ好みが異なりますから」


素っ気なくそうこたえられて、一瞬言葉が詰まる。あら? 仲良くなりたいから呼んだのではなかったの?


「あぁ、確かにそうですね。好みは人それぞれ違いますものね」


出来るだけ明るく朗らかにこたえて、取りあえず玄米茶を注文しようと近くに待機していた若い女性スタッフに手をあげた。


 注文を済ませると、手持ち無沙汰になる。小夜子嬢は静かに緑茶を飲んでいる。そう、本当に静かに。気拙い、この間をどう繋ごう?


「お待たせ致しました、玄米茶でございます。お熱いのでお気をつけくださいませ」


 ほどなくしてスタッフは茶色の急須と湯飲み茶椀を目の前に置き、丁寧に会釈をして下がった。早速、急須を手に持ち湯飲み茶椀に注いでみる。途端に、玄米茶の香ばしい香りが鼻をくすぐった。「……いい香り。頂きます」ゆっくりと一口。香ばしい香りが口いっぱいに広がった。「美味しいです」と感想を口にしても、彼女が無表情のままだ。うーん……この後、どう反応すべきだろう。せっかく、美味しいお茶なのに会話が弾まないなんて勿体ない。


 ふと、思い付いた。もしかしたら、これが会話の切り口になるかもしれない。


「そう言えば、瑠伽が遅れて来てくれるって……」


 最後まで言えなかった。唐突に、彼女の瞳から大粒の涙が零れ出したからだ。

 

「え? あの、小夜子さん? どうしました?」

「う、う……酷いですわ……」

「え? あの……」


 慌てふためく私に、嗚咽を漏らし出す彼女。


「あら? どうしたの?」


 隣のテーブルでお茶を飲んでいた中年女性二人組の一人が声をかけてこちらに近付いた。


「あら嫌だ、虐められたの?」


 もう一人の女性が立ち上がって小夜子さんの隣に立つ。


「……酷いですわ……どうしてそんな……」


 彼女は答えず、バッグの中から桜色のハンカチを取り出して両眼を覆い、さめざめと泣き続ける。


 「え? 虐め? こんな場所で?」

「何? 酷くない?」


 次々と私たちの周りに客が集まって来るではないか! 皆一様に、小夜子さんを気遣う眼差しを向け、私には責めるように睨みつけて……ちょっと、これって……私、もしかして《《悪役令嬢に仕立てられた》》の? こんな三流芝居みたいな展開ってある???


ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

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