第37話 いざ、決戦?!
コソコソと囁き合う若い女の子二人組。こちらをチラチラ見ながらLINERをし合う女子高生三人組。何でもない様子を装ってこちらを盗み見ている中年男性。気にもせずじっと見つめ続ける初老の女性……。そんな視線を遮るようにして座っている私の前に立つ蓮。無表情でただ凛と立っているだけのように見せて、彼は常に油断無く周りの様子に気を配っている。
こうして改めて見ると、彼は本当に見目麗しい男だ。今日は白のワイシャツに紺色のスーツ姿で、しなやかに長い手足が際立っている。常に俊敏な動きが取れるよう、シャツもスーツも生地からオーダーメイドだ。冷たいくらいに整った顔立ち、見る者を強烈に惹き付ける漆黒の双眸。氷の美貌、という異名は誰が最初に言い出したのか。冴え冴えと冷たく輝く真冬の月を思わせるのだ。当然、こちらに向けられる視線は蓮に対してだ。彼らの視線が私に向く時は、蓮の《《連れ》》が私だと知った時。
『嘘? 何であんな地味な子と?』
『妹? 義理の? 全然似てなくない?』
大体このような反応を示す。その後、はスルーか、蓮に妙に憐れむ眼差しを向けるか、もしくは私に憎悪の感情を込めて睨みつけるか……この三パターンにわかれる。憎悪の視線を投げられる時、毎回疑問に思うのだが。『何でお前みたいな不細工と……』そこまでは理解出来る。でも、だからと言って蓮自身がその人を最愛の人に選ぶかどうか(蓮と私はそもそもの関係が家族愛というか友愛に近い感じなので、私に憎悪を向けるのはお門違いなのだが)はまた別の次元の話なのに、余程自分に自信があるのだろうか。
和風カフェ『NAGOMI』には、蓮と電車で向かっている。カフェに居る間に、車に細工をされるかもしれない危険を減らす為に電車で行きましょう、と蓮の提案だった。
史桜と菜乃は別々に行動、それぞれ変装してカフェに来てくれる事になっている。どのような変装をしてくるかは、秘密。『敵を欺くには味方から』という事らしい。史桜は私たちの少し後に、菜乃は午後一時五十分頃にカフェに着く予定との事だった。万が一、私が何かされた場合……何が起きたのか正確な情報を二人が秘かに録画してくれる事になっている。出来れば、その動画を瑠伽に見せなければならなくなるような事態が発生しなければ良いのに、と思う。
「ここから真っすぐ行って左ですね」
六本木の駅を降りて蓮と歩いて行く。殆ど六本木には来た事はないが、全体的にガラスを主材とした建物が多いように感じる。
「ソメイヨシノ、もうすぐ開化しそうですね」
街路樹を見上げながら、彼は言った。確かに、蕾が可愛らいピンク色に膨らんでいてとても柔らかそうだ。そう言えば、河津桜はもう咲き誇っていた。川沿いの水面に、桃色の花が映えて……
「緊張していますか?」
「あ……」
「大丈夫ですよ。ただカフェに行ってお茶を飲むだけです。たまたま、お相手が気を遣うタイプなだけです」
言われて初めて、肩に力は入って呼吸が浅くなっている事に気付いた。
「有難う、無意識に緊張していたみたい」
「もしかしたら何もないかも知れないですし。あまり緊張し過ぎると、いざという時に応用が利きませんから。気軽に美味しいお茶を飲みに行く、そんな感覚で良いと思いますよ」
「そうだね! 社交パーティーみたいな感覚で行けば良いかな?」
そうなのだ、蓮は危険からは守ってくれるけれど、小夜子さんとの会話は私の対応、話術にかかっている。
「そんな感じで良いと思います。大丈夫、今までだって上手く切り抜けてこれたのですから」
蓮がそう言ってくれると、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だ。
「……こちらですね」
ついに到着した。白い外装に赤い屋根の平屋で、木目を活かした茶色のドアに『和風カフェ「NAGMI」』と黒字のゴシック体で書かれた白いボードが掛けられている。障子付きの窓が『和風』を強調しているようだ。
「ちょうど、約束の時間の五分前ですね。入りましょうか」
蓮の言葉に頷くと、私たちは入り口に向かって歩き出した。菜乃はもう席についてオーダーしている頃だろう。
蓮がドアノブに手をかけようとした時、まるで自動ドアのように扉が開いた。中からグレーのスーツを着た大柄な男が出現した。
「ようこそお越しくださいました。お嬢がお待ちかねですよ」
とぶっきらぼうに言って頭を下げたのは、小夜子嬢の世話係の迫下だった。




