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第35話 女友達

 「わぁ! 結構美味しい!」


彼女はパッと向日葵が咲くような笑顔を向けた。柔らかそうな頬にエクボが出来る。ミルク色の餅肌にパッチリした明るい茶色の瞳、苺のような唇、フサフサした長い茶色の髪を邪魔にならないように頭頂部でお団子にしている。彼女は、福代菜乃(ふくしろなの)、私の同性の親友だ。たっぷりとしたフリルとレースがよく似合う、ふっくらマシュマロみたいな愛くるしい子なのだ。因みに旧姓は鈴原、大学を卒業と同時に高校の時から付き合っていた一つ年上の彼と結婚。今は一歳の双子男子の子育てに勤しんでいる。とても有り難い事に、一連の事件を知って心配してくれた彼女は、双子を近くに住むという親戚に預け訪ねて来てくれたのだ。


 「ね? 思ったより美味しいでしょ?」

「うん、びっくりした! これなら太るの気にしないで安心してアイスが食べられるね」

「とは言っても、食べ過ぎは駄目だけどね」

「あぁまぁ……そりゃ何でも食べ過ぎはね」


 ひとしきり笑い合った。彼女に出しているスイーツは、低糖質な「豆腐ジェラート」だ。水抜きをした絹ごし豆腐と常温にしたクリームチーズ、生クリームにラカントをよく混ぜ、冷凍庫に入れて二時間ほど凍らせるだけで完成だ。絹ごし豆腐は水抜きした後、裏ごしするとより滑らかな触感が楽しめる。産後の体重が増加の一途を辿る、と気にしてはいるものの、スイーツ好きは辞められない、という彼女の為に作ってみた。お茶は熱いほうじ茶を用意した。


 今、私たちがいる場所は例の『ガラスの花薗』だ。菜乃とは高2の時、同じクラスになった。だが最初から仲良くなった訳ではない。当時の私は、傍から見ると……世話係の蓮に友達の瑠伽に史桜と、美形三人をはべらせているように見えたらしく(有り得ない、ないない)周りから、特に女子からすこぶる評判が悪かった。


 『たいして可愛くない癖にいい気になってる』『ブスの癖に生意気』


こんな感じでわざと聞こえるように悪口を言ったりするのは日常茶飯事だった。お手洗いに行けば、ドアの上から雑巾を絞った水をバケツごとぶちまけられたり。授業中、教師に指されてホワイトボードの前に歩いて行けば、途中で誰かに足を引っかけて転ばせようとしたり。予め予測出来た為引っ掛かりはしなかったが。見兼ねて史桜や蓮、瑠伽が収拾を図ろうとしてくれたが、『火に油』だから辞めて欲しいとお願いした。全く苦にならなかった、と言いたいところではあるが……言われている事は事実と異なっていたし、時が経てば事実は見えてくるだろうと、右から左へと流す事で対処していた。

 そうやって「華麗にスルー作戦が」功を成し、少しずつ少しずつ……塔本真緒理は「凡人で人畜無害」という事が浸透していき、瑠伽、蓮、史桜とは恋人でも何でもないという事が判明。次第に、私を上手く利用して蓮、または瑠伽、或いは史桜、それか兄か姉に近づこうとする女子や男子が増えて行った。


 「当て馬令嬢真緒理の誕生」である。


とは言っても、思い返してみれば……小1の時からその傾向はあった。私と仲良くして蓮や瑠伽、または兄や姉に取り入ろうとする女子や男子はちらほら居たと思う。まさに、生まれながらにして「当て馬キャラ」的ポジション、ヒーローやヒロインを引き立て盛り上げる為の役割を持って生まれて……これ以上は自虐ネタに突入しそうなので割愛する。


 菜乃とは、修学旅行のバスの席順をくじ引きで決め、偶然隣になったことが切っ掛けで仲良くなった。


 「……で? その小夜子嬢の招待、馬鹿正直に受ける訳?」


菜乃は呆れたように言う。どの面持ちとは裏腹に、私を心配してくれているのは彼女の真剣な眼差しで伝わって来る。


 「うん、一応……蓮には報告はするけどね」

「当然でしょ。そもそも間に挟まれている当事者の瑠伽が何も知らないとか有り得ないから!」

「うん、まぁ……そうだね」

「お嬢ってさ、男の前ではか弱くて純情なふりを装うタイプだよね。典型的な《《女に嫌われるタイプ》》」

「やっぱりそうなのかなぁ」

「未だそんな事言ってるの? ホント、人が良すぎるというか。そんな事で大丈夫? お嬢の策謀に引っ掛からない?」

「気を付けるよ。でも最終的に判断するのは瑠伽だからさ」

「そこなんだよね。お嬢みたいなタイプの本性って、惑わされている男には見抜け無いからねぇ。ホント、男って馬鹿ばっか! だから、私も蓮も史桜も、全部話しておけ、て意見な訳で」

「うん、皆のアドバイスは本当に有り難いし、そうした方が良いとは思うんだ。だけど……」



 そうなのだ、皆のアドバイスはよく解ってはいるのだ。そうすべきだとも思う。庭園での小夜子さんとの会話の全ては、瑠伽がボイスレコーダーに録音してくれてあるし、隠し防犯ビデオにその全ても映し出されている。


 それでも私は、瑠伽に道徳心や理性で正しいと思われる選択をせざるを得ないとはなって欲しくないのだ。何事にも囚われる事無く、彼の心の赴くままに選択して欲しい。


 菜乃の言う、小夜子さんの招待とは……一昨日、郵便受けに彼女から手紙が届いたのだ。


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拝啓

 桜の蕾が随分と膨らんで参りましたね。如何お過ごしでしょうか。


 さて、常々わたくしは真緒理様ともっと仲良くさせて頂きたいと思っておりますの。わたくしには同性のお友達はおりませんので、是非親しくして頂きたいわ。宜しければ、来週土曜日の午後二時頃、カフェでお茶など如何でしょうか? 詳しい場所はパンフレットを同封させて頂きますね。サイラスもご一緒出来たら良いのですけれど、お忙しいですわね、きっと。


 それでは、お逢い出来るのを楽しみにしております。


 令和4年 3月○日

                           極楽寺小夜子

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 さすがに私宛に来た手紙をそのまま菜乃には見せなかったが、アドバイスを受ける為に読み上げた。


 「まぁ、どうするかは真緒理が決める事だからね。しかし、こっちの意向も聞かず強引に決めるし、友達になりたいとか言ってる癖に瑠伽の同席希望とかさも意味深気に書いてホント、性格悪いねぇ。瑠伽が見抜ける事、祈るわ」


 私は苦笑いで応じた。


 とは言っても、お嬢がカフェを指定してくるとは、そこは極楽寺組系列なのは間違いないだろう。さすがに、丸腰でノコノコ行く訳にはいかない。



 

ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

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