第33話 スキャンダル?!③
目の前に優雅に腰を下ろす、モデル体型の美女は優雅に緑茶を飲んだ。魅惑的なオリーブグリーンの瞳に、ブロンドの巻き毛は浮彫宝石のような端麗な顔立ちを豪華に彩っている。モスグリーンの二ットワンピースは膝上丈で、手入れの行き届いた美脚を惜し気なく晒しており妙に足を組む姿が妙に艶めかしい。
「……前からね、女装したら凄い美女になるだろうなぁ、とは思っていたんだけど、似合い過ぎてビックリしたわ」
「私も、正門まで出迎えに行った時は驚きました。ウィッグにカラコンまでつけてらっしゃるとは」
そう、目の前のハリウッド級の美女は蓬莱史桜なのだ。彼は得意そうにニヤリと笑った。
「仕事柄、色んな衣装着るしな。今回は別人になった方が得策かと思ってさ」
史桜の台詞に私たちは再び、彼の携帯画面に注目した。
『塔本家の次女、夫の留守中にまたもや別の男と不倫か?! お相手の第二の男は、あの有名なダンス関係の美形S。彼女をよく知る人によると、清純で大人しそうなのは見掛けだけで、実際は何人もの男を喰い物する魔性の女なのだという』
などと、デカデカと赤と黒のゴシック体の文字が踊る中、私が史桜に笑顔で手をふり、彼がそれに微笑みで応じる写真が載っていた。蓮との写真は、私を守ろうと抱き寄せているものだったからそう《《こじつけ》》られたとしても、今回はどう見ても友達同士にしか見えないと思うのだが。《《不倫だと思い込んでみると》》そう見えなくもない。……ちょっと、いやだいぶ無理があると思うが。
前回同様、目元にモザイクも掛けられていない。肖像権やら名誉棄損やら……このまま発売したら自分たちが大変だろうに。
史桜は私との隠し撮りを二度とさせない為に、気合いを入れて女装をして来てくれたのだ。感謝しかない。
「《《私をよく知る人》》て誰よ? 魔性とかもう可笑しいったら……ふふっ」
清純で大人しそうな外見……地味で平凡、と表現しないのは辛うじて良心はあるという事かしら。誰かの指示か、或いはルポライターが書いたのかは分からないけど。
「どうせお嬢か世話係じゃねーの? 本当に俺達が《《そんな関係だ》》と思ってたら、笑えるけどな」
「ふふふ、まさかいくらなんでもそれはないでしょう。それにこの写真、この間私が玄関先で史桜を見送った時のじゃない」
「そうだな。前回同様、さすがに背景だけはボカしてあるけどな」
「これも、背景はボカしても人間の方はモザイクは無しとか。色々突っ込みところ満載ね。五日後に発売予定の週刊誌『婦人の時間』だったっけ? 今回も差し止め有難う」
「いや、そう手間は掛からないさ。ただ、今回も極楽寺組の傘下にある出版社系列だな。まぁ、分かり易いわな」
私と史桜の会話に相槌を打ちつつ、蓮は地図アプリを見ながら何か考え込んでいる様子だ。
「蓮、どうしたの?」
「あ、いや……史桜の見解に同意ではあるのですが、敷地内は隠し撮り出来る死角が出来ないよう、花木や樹木を植えてある筈なのです。どこから撮ったものなのかが気になりまして」
あぁ、確かに。記事に頭がいっぱいでそこまで気が回ってなかった。
「すぐ近くのタワーマンションだろう? あそこ、確か極楽寺組の幹部候補だかの部屋を借りてる、て話だぞ。何階の何号室かまでは知らんけど」
史桜があっさりと応じてくれた。
「え? そうだったんだ! どうして知ってるの?」
「あぁ、たまたま極楽寺組系列のキャバクラで働いてる女の子と知り合いでね」
「へぇ、そうなんだ。情報有難う」
あ、成る程。組の幹部候補のマンションの借り入れまで教えるって事は……沢山いる彼女の中の一人って訳ね。
「そんな近くに、奴らがいたとは……迂闊でした。奥様、申し訳ございません。今後は敷地内の隠し撮りなどさせぬよう、早急に対処致しますので」
蓮は立ち上がると、深々と頭を下げた。彼は仕事に対して完璧主義なところがあるから、こういう時どう反応すれば良いかいつも焦ってしまう。
「いいよ、蓮。今回が特殊な例だっただけで、普通は私を隠し撮りしようなんて人はいないって。対処は手が空いた時でいいし。気にしないで。それより、今回の件……どう思う?」
話を元に戻そう。史桜も忙しい中来てくれてるから、早めに解放してあげないと。
「……恐らく、週刊誌が発売される前に揉み消されるのは想定済みでしょうね。今後、あちらがどう出て来るかは分かりませんが、奥様と旦那様の『不和』が狙いと見て良いでしょう」
「俺もそう思う。『お前らはこちらの手の内にいるんだぞ、サッサと降参して別れろ!』て事だろう」
「ええ、ですから植木鉢の件も、私と奥様の写真を撮る為にやった、と推測されます」
うーん、そこまでして? と思ってしまうなぁ。小夜子さん、何を焦っているのだろう。
「後は、この件を瑠伽がどう判断して結論づけるか、だな。俺は、週刊誌の件も包み隠さず全部瑠伽に話した方が良いと思うけどなぁ。……それはお前が決める事だけどさ。取り敢えず、真緒理と蓮にこの画像は送っとくわ」
私たちは互いに目を合わせ、示し合わせたように頷いた。
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