第32話 スキャンダル?!②
「奥様?」
あ、いけない! あまりにも突飛でくだらな過ぎて思考が停止してしまっていた。
だってスキャンダルって、そのネタが事実かヤラセがでっち上げかは別にして、ある程度有名で品行方正なイメージの人が「やらかす」から『スキャンダル』っていう言葉が成立するんでしょうよ。私は塔本の次女と言っても、輝かしい経歴も何もない凡人の中の凡人につき誰も関心を抱かないのにスキャンダルネタねぇ……。「え? 塔本家に次女なんていたっけ?」「誰それ? 知ってる?」「知らなーい。それよりこの間さー……」反応があったとしてもせいぜいこんな会話で終わりだろう。売り上げも低迷すると思うのだけど。
「あ、ごめん。つい『一人ボケ突っ込み』をしてしまったわ。何この写真? 植木鉢が落ちて来た時の私たちじゃない!」
「ええ、明後日発売の週刊誌『好奇心』の一面らしいです。ですがご安心ください、史桜が発売を止めて揉み消した、と言っていたので世間には流れません。ですが、もしかしたら業界で口の軽い痴れ者共から噂は少し漏れるかもしれません。ですがすぐに消し止める事は可能ですので」
史桜は仕事柄、マスコミ関連のお偉いさんとの知り合いが多い。どのよにして発売を止めてくれたのか気になるところではあるが……
「うーん、でも塔本家関連の話題は箝口令がひかれているし、どうしてもネタにしたい時はお祖父様の許可がいるんじゃ……」
「ええ。ですがこの雑誌の発売元は極楽寺組の息がかかっている出版社の一つです。お金さえ払えば平気で業界のタブーを犯す事で有名な三流ルポライタ-しかいませんよ」
あぁ、成る程そういう事か……。事態は思ったより深刻で大事になりそうだ。
「逆に言ったらお金さえ払えば揉み消しにも応じる、て事よね?」
「そうなりますね」
それなら別にルポライターじゃなくて他にもっと安定して稼げる仕事を見つけたら良いのに、命を張ってまでやるなんて……という個人的感想はおいておこう。
「スキャンダルって、社会的な認知度が高い人が起こすから話題になる訳じゃない? 姉や兄が話題になるならまだ分かるけど、そもそも私と瑠伽の結婚の事だって新聞の隅にチラッと載っただけだし、私も瑠伽もSNSで発信して取引先や常連、知人に知らせはしたけど、社交辞令的な反応があった程度だし。発売しても全然売れないと思うの。それなのに何の目的でこんな事をするのかしら?」
もうギャグネタとしか思えない、暇人どもめ。
「記事そのものが狙いではないでしょうね。一つは『警告・脅し』目的、もう一つは奥様と旦那様を動揺させる事で仲を引き裂こうとする、そんなところでしょう」
「え? この記事を瑠伽が鵜呑みにするって? フフフ……何それ、無い無い、有り得ない。瑠伽が好きなのは小夜子さんだし。蓮と私もそういう関係じゃない事は瑠伽もよく知っている事だしね」
そう、それは有り得ないのだ。だって、私と瑠伽は契約結婚。互いに男女の情はないからこそ成立したのだから。私の本当の気持ち、瑠伽は知らない訳だし。
「あちら側はそうは感じていないようですよ。それに、世間一般から見ましてもお二人は結婚されている訳ですから」
「それはまぁ世間一般から見ればそう思うだろうけど。何度も言うようだけど小夜子さんとは瑠伽と私、組長と小夜子さん本人で事前に何度も『契約結婚』について話し合ったのに」
「人は良くも悪くも、己を基準にしか物事を量れないものです。小夜子嬢の世界では、父親との情、世話役との情、組の者との関係、そして瑠伽様との恋愛、それしか無いのではないでしょうか」
あぁ、成る程ね。……じゃぁやっぱり、今回の件で小夜子さんは色々な事を知って改心して、瑠伽との絆が益々深まっちゃう展開コースじゃん……
「そっか、じゃぁきっと、友情とか友愛とか兄弟・姉妹愛とか知らないんだね」
「ええ、恐らく。ですが、彼女さえ望めば友達を作る事も堅気になる事も可能だったでしょうから、知ろうとする気持ちは持たなかったのでしょうね」
「『持てなかった』のかも知れないけど、望めば何でも手に入る環境で守られてきたのだとしたら、仕方無いのかもね。それにしても今回の件、小夜子さん本人が知っているのかどうかは分からないけど、なんだかレトロな感じの嫌がらせね。こんな事してもし雑誌が発売されたら、瑠伽にも迷惑が掛かるのにね」
「お嬢が関わっていても、いざとなれば白を切って組の者のせいにするでしょうね。旦那様にも火の粉がかかる事を配慮出来ないほど恋と嫉妬に狂っているのか、それとも私たちがもみ消す事を見越しての嫌がらせなのかは分かりませんが。全てを知った時、旦那様がどう判断なさるか、ですね……」
蓮は考え込むようにして視線を泳がせた。
『カレジシン、ジブンノホントウノキモチニハキヅイテイナイノデハ……』
「ん? 何? 何か言った?」
「いえ、失礼致しました。何でもありません、このようなお時間まで申し訳ございませんでした。どうぞお休み下さいませ」
彼は畳み掛けるようにそう言って、そそくさと部屋を後にした。独り言みたいにボソボソ言っていたようだけど、何て言ったのかな? 彼らしくないなぁ、誤魔化すなんて。でも……口に出すつもりはなかったのに、ついポロッと本音が出ちゃう事、誰にだってある事だよね。
「連絡無しに朝っぱらから悪い、緊急だし直接話した方が早いと思ってさ」
「え? ちょ、ちょっと、史桜?」
あくる朝7時過ぎ、史桜が訪ねて来た。その姿を見るなり仰天した。玄関まで迎えに出た蓮も、さすがに目を丸くしてる。
「ほら、これ」
ゲストルームのソファに座るなり、史桜は携帯を差し出した。
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