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第27話 ポンパドール夫人を目指すには①

 ポンパドール夫人……フランス国王ルイ十五世の寵姫かつ正式に認められた公妾。平民の出身でありながら侯爵夫人として爵位が与えられ、類稀なる美貌と知性、桁外れの才能の持ち主で政治にもその手腕を発揮した。「ロココの花」「影の実力者」との異名を持つ。


 『才色兼備』とはまさに彼女の為の言葉だと思う。私にとっては、この次に述べる彼女の功績が重要なのだ。


 30歳を過ぎたあたりからは国王と夜の生活をしなくなった代わりに、自分のメガネに適った女性たちを紹介。『鹿の園』を建ててルイ十五世が好みの女性を住まわせた。ルイ十五世はポンパドール夫人が亡くなるまで寵愛し続けたという。


 ここだ、この部分が特に惹かれたのだ。夫人を知ったのは中学で習った歴史の授業だった。その時ちょうど読んでいたのはマリー・アントワネットをヒロインに据えた少女漫画だった。その中でポンパドール夫人は大変魅力的に描かれており、当時は「寵姫」や「公妾」などの深い意味はよく理解していたとは言い難いが、強く興味を惹かれた。


 ……夫が自分以外の女性と親密になるのを応援するどころか積極的に支援するって、なんて懐が大きくて素敵な人なのだろう!……


 これは宿命か? と思うほどの皮肉なタイミングで、瑠伽は運命の女(ファム・ファタール)に出会ってしまった。今までもこれまでも、瑠伽が私を女としてみる事はないのだ、と思ってはいたが……いざそれを目の当たりにしてしまうと筆舌に尽くし難い寂しさと絶望感に見舞われた。

 当初からずっと幼馴染、ひいては妹的なポジションで行こうと思っていたが、もしかしたらこの先……という期待が全くなかったと言えば嘘になる。

 けれども、瑠伽の運命の女(ファム・ファタール)の出現で僅かな希望は完全に絶たれてしまった。


 そこで、閃いたのだ。これからはポンパドール夫人を目指そうと。美貌も才能も強運も、生まれつき備わっているものだ、私に無いものは仕方がない。ただ、それに近づこうと努力を重ねる事は出来る。……面白いくらい予想通り、凡人は凡人のままでしかなかったけれども。それでも諦めず腐らず今後も努力は重ねつつ、瑠伽と運命の女(ファム・ファタール)がずっと上手く行くように応援、協力していこう。

 そう決意した、そして努力を重ねて来た事が実って、彼と「契約結婚」をする事となった。このまま行くつもりだった……だった、のだが……


 「ハッハッハッハッ、全部過去形になってるじゃないか」


と、長方形のガラステーブルを挟んで向かい側に座る男は可笑しそうに言った。暗褐色の美しい髪はサラサラと肩の下まで流れ、芸術品のように優雅に甘く整った顔に彩を添えている。神秘的なハシバミ色の瞳、が生き生きと輝いて私を見つめていた。黒のライダースーツが、彼の長い手足を引き立て、しなやかな筋肉とあいまってどことなく黒豹をイメージさせる。この美丈夫は蓬莱史桜(ほうらいしおう)、私と同い年だ。高一の時、偶然席が隣り合った事で意気投合。親友と呼べる人の一人だ。日本舞踊蓬莱流家元の次男坊で、家の事など様々な紆余曲折を得てアイドルのバッグダンサーから始まり、今はプロのダンサーとして活躍しつつ振付師として業界でその名を馳せている。


 彼は、瑠伽と小夜子さんの事を始め『契約結婚』の経緯に至るまでを知っている唯一の人だ。先日、偶然連絡をくれた。話の流れで軽い気持ちで極楽寺組に拉致された件を話たところ、休みをもぎ取ったとかで海外からとんで来てくれたのだ。情に篤く面倒見が良くて信頼出来る男ではあるけれど、あちこちの女と浮き名を流す軽い部分が玉に瑕だ。私の事まで口説こうとするあたり、女と見たらお誘いせねば失礼だ、という価値観なのかもしれない。その部分だけは私には理解出来ないが、本気と遊びは使分けていると豪語している通り、浮き名を流すわりに痴情のもつれによるトラブルは聞いた事がない。


 「ポンパドール夫人も、自分のメガネに叶った女を国王に紹介して支援していた訳じゃない?」

「ほほぅ、さすがのお人よしなお前も、今回のお嬢の件は『ちょっとなぁ……』と、思うところがある訳だ?」


 彼とは、背後に控える蓮を交えて昨日の小夜子さん訪問の件を話していたところなのだ。


 「何だか楽しんでない?」

「そりゃ楽しいに決まってるだろう?」

「何よ、こっちは悩んでるのに」

「だって、今回の事で瑠伽(あのバカ)がお嬢の肩を持ったら、さすがのお前も愛想を尽かして三下り半叩きつけるんじゃないかな、て期待している訳さ。そしたら俺と結婚出来るだろう?」


 彼もまた、どうしてなのか当初から瑠伽の事を良く思っていないようだ。平気で面と向かって『あの馬鹿』とか『無自覚な屑』とか言っている。そしてほら、また始まった、私を口説くという悪ふざけが。わざとらしく大きな溜息をついた。


「史桜、奥様が反応に困るような発言は控えてくださいますか? 話がややこしくなるだけですので」


 蓮は冷たく言い放つと、冷ややかに史桜を見つめた。



ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

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