表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/50

第21話 極楽寺組組長

 (あー……なんだかなぁ……)


私は心の中でうんざりとしていた。


 そう言えば瑠伽は、しっかり低糖質な食事が出来ているかなぁ? おやつは、ドラッグストアで買い溜めした……最近は本当に便利になってコンビニにも売ってたりする……おやつや軽食は一食につき糖質10g以下って口を酸っぱくして言い聞かせて。糖質量が一食10g以下のものをどっさりとまとめて渡したし、毎食の参考になるように糖質量をまとめた食品と外食の参考本も渡した。滞在先の実家やホテルにはトレーニングルームがあるから、体を動かす環境は整っているし……まぁ、万が一きちんとした低糖質な食事が出来なくても、帰ってきたらしっかり管理してあげるつもりだけどね。


 「……この私を前にして心ここに有らずとは、良い度胸だな」


ドスの効いた声とはこのような事を言うのだ、というお手本の台詞で我に返る。


 「ええ、実力は全く無いですけど度胸はあります」


うん、まぁ正確には度胸というよりは「ハッタリ」なんだけどね。


 相変わらず随分とお金のかかった部屋だ。手入れの行き届いた畳、見事な紅牡丹と唐獅子が描かれた襖、ダイヤモンド富士とオナガドリを描いた水墨画。艶やかに磨かれた床板。見るからに高そうな陶器の花瓶に、山茶花の切り枝が豪華に飾られている。どこぞやの高級老舗旅館だよ、と、この部屋の写真だけを見せられたら9割方は納得してしまうに違いない。


 今、私は三十畳程の部屋のほぼ真ん中で正坐をし、畳二枚分ほど挟んで胡坐をかいた朽葉色の着物を着流した男と対峙している。頭に白いものが混じった髪をきっちりと固めて総髪にしているが、端正な顔には皺はなく年齢不詳だ。眼光は非常に鋭く、獲物に飛び掛かる寸前の虎を思わせる。一目見て誰もが感じるタダものではない威圧感を覚えるだろう。だが、我が祖父程ではない……と感じてしまうのは身内贔屓の欲目なのか。 この彼こそは極楽寺組七代目組長、極楽寺疾風(ごくらくじはやて)だった。因みにハンドルネームではなく本名だ。


 「随分と余裕じゃないか。何かあれば影で護衛している騎士(ナイト)殿が助けに来てくれるから、かな?」


 つくづく嫌味と皮肉が好きな男だ。今は亡き嫁さん……姐さんは余程出来た人か、もしくは女房子供の前では猫カブリ男、のどちらかに違いない。

 組長の左隣には若頭補佐、左隣には若頭が控えており、何を考えているのか読ませないように揃いも揃って無表情を貫いている。どちらもその目付きの悪さと極悪なオーラは隠し切れていないが。さしずめ、例えるなら若頭は光沢のある紫色のスーツを着込んだ土佐犬、若頭補佐は鈍色のスーツを着込んだゴリラ、という感じか。彼らの後ろにはズラリと10人程、如何にも傭兵上がりでーす、というような体付きの男どもが全員黒のサングラスと黒スーツで、大木のように立っている。


 「彼とはそんな関係じゃありませんよ。組長もお分かりでしょう? 何を今更」


 蓮との事などホントにくだらない、話すだけ時間の無駄だ。因みに、私の両隣には武闘派ヤクザでーす、と見た目で分かるようなガタイがよくて顔にいくつも傷のある男が黒スーツ姿で待機している。何かあったらすぐに対応出来るようになのか、サングラスはかけていない。更に私の後ろにも5人ほど、黒サングラスに黒スーツの大柄な男が待機しているから、万が一私が不審な動きをしたらあっという間に蜂の巣、という訳だ。


 「あの男も同じ事を言いよった」


 先日、組長は蓮を呼び出して私と結婚するつもりはないか聞いたらしい。愛しい我が娘の為に、瑠伽とのなんとも煮え切らない関係をどうにかしてやろうと画策、どうやら小夜子さんには内密に動き出したようだ。


 今になってこんな事をするとは、小夜子さんが組長に何かを訴えた可能性は否定出来ない。先ほど食材の買い出しに出たら、いきなり黒ベンツが幅寄せしてきて。若頭補佐が「組長がお呼びです。おいで頂けますでしょうか」と頭を下げてきたのだ。


 「私と瑠伽の契約結婚の件は、組長、小夜子さん、瑠伽、私で事前に何度も相談し合いましたよね? 第一、ご存知の通り蓮は私の世話係です。小夜子さんと世話係の関係を例えたらお分かりかと思いますが」

「この(アマ)、さっきから黙って聞いてりゃ付け上がって……」

「止せ! 手を出すな!」


 両隣に控えていたチンピラ二人が気色ばんで私に掴みかかろうとするが、組長に制されて固まる。操り人形みたいで滑稽だ。


 それに、こんな脅しに屈する程ヤワな女ではない。


 そう、彼らは私には手を出せない。何故なら塔本家は代々政治家の家系、かつ祖父は『政界の陰のドン』と呼ばれ未だに各界に影響力を持つ。中国やイタリアマフィアと秘かに懇意にしているのは想像に難くないだろう。エスポワール一族なら更に……クリーンに見えても……まぁ、言わぬが花だ。


 「……そこまで鈍いとは。お前の世話役の男は気の毒だな……」


 ポツリ、と組長は呟くように言った。何の事か分からないが『鈍い』とか余計なお世話だ!


 「小夜子を堅気にしてやろうと思うとる」


 あぁ、成る程。そして瑠伽と結婚させようと。で、私と蓮をくっつけたら良いと。残念だけど、いくら組長でもそう上手い具合にはいかないよ。私はこう見えて『お人好しの不憫健気な当て馬役』になるつもりはない。「強かな当て馬キャラ」をモットーとしてるのだ。親……正確には祖父だが……の七光り? 大いに利用しつくしてやる! だって神が私に与えてくれた唯一にして最大のギフトだからね。その上で考え抜いた末、かの「ポンパドール夫人」を目指している訳だが。


 姿勢を正し、半ば睨み付けるようにして組長を見据え、一言一句ハッキリと、宣言するようにこう告げた。


 「それなら私と瑠伽が契約結婚をする前にそうすべきだったのでは? もし、何らかの事情があったにしても、こんな風に私を呼び出して暗に『身を引くよう』促すのはおかしいですし、応じるつもりはありません! それなら当事者である小夜子さん、瑠伽、私の三人で話し合うべき案件でしょう!」


 『……何だお前は?!』

『止まれ!』


 にわかに、廊下が騒がしくなった。ガラリと襖が開く。


 「極楽寺組は『昔気質の任侠』、堅気には手を出さないというのは建前に過ぎなかった訳ですか?」


 凛と澄み切った声が響き渡ると同時に、両手に剥き出しの日本刀を構えた蓮が飛び込んで来た。誰もが予想だにしなかった突然の乱入に、一言も発しない静まり返った中、彼は私以外の全員を射殺すように見渡す。


 「奥様は返して頂きます。抵抗されても無駄ですよ。警察とマスコミが表玄関先に待機してますので」


 と言い切ると不適な笑みを浮かべた。

ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ