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第17話 エスポワール家の三兄弟①

 紅茶の生産量が多い国は……一位がインド、二位がスリランカ、三位がケニア。では、紅茶の消費量が多い国順となると、一位はトルコ、二位はアイルランド、三位がイギリス。因みに紅茶の輸出量が多い国は、一位がスリランカ、二位はケニア、三位がインド……という統計をどこかで読んだ気がする。いずれにしても、日本より紅茶を飲む習慣が多いイギリス人に紅茶を出せる程淹れ方に自信はない。したがって、熱いほうじ茶淹れた。義兄も義弟もお茶にさほど拘りはない、ただ義兄はジャスミンティーは苦手のようだ、という事だったからだ。


 長方形のガラステーブルの上には、四人分のほうじ茶が淡い空色の湯飲み茶碗の中で湯気を立てている。白い皿の上に乗せられたカットされたベイクドチーズケーキも四人分、ほうじ茶とセットとなって並んでいた。窓からが白いレースのカーテンを通して柔らかな光が溢れ、室内を優しく照らしている。四人のメンバーは、ドアを背にして右側に瑠伽、その左隣に私。窓を背にして瑠伽の向かい側に義兄、ジルベルト・ダンテ。私の向かい側には義弟、ニコラス・ノアだ。ベイクドチーズケーキは勿論私の手作りだ。クリームチーズとラカント、生クリームにおからとベーキングパウダー。ざっくり言うと、これらを混ぜて焼くだけで簡単で美味しい低糖質なスイーツの出来上がりだ。


 エスポワール三兄弟は明日、イギリスへと旅立つ。義兄と義弟が瑠伽を迎えに来た訳だ。先程瑠伽が車で兄弟を迎えに行き、今に至るのだが……一通り社交辞令の挨拶を済ませた後、全員が営業スマイルを浮かべていて会話が弾まない。要するに気マズイ空気が漂っているのだ。


 それにしても、式の時に慌ただしく挨拶を済ませただけの義兄と義弟だが、二人ともこうして改めて見ると精巧に出来た観賞用人形のような美形だ。どちらも金髪に翠の瞳の持ち主だが、義兄は波打つ濃い金髪を長めのショートカットにしており、最高級品質のエメラルドを思わせる双眸は自信に満ちて力強く輝いている。格別に高い鼻と男らしく肉感的な唇は見方によっては傲慢そうに見えるが、それがまたワイルドな印象でより魅力を与えている。長身で体を鍛えている事が、ワイシャツと黒パンツというシンプルなスタイルで見てとれる。腕っぷしも強そうだ。王子というより既に皇帝というべき威厳を備えている。名前も、ジルベルト・ダンテ、ジルベルト=輝ける誓い、ダンテ=永遠の、耐久力のある……なるほど、という感じだ。

 義弟の方は、淡い金髪はサラサラのストレートで、顎のラインで切り揃えられている。丸みを帯びた優し気な瞳は、翡翠を思わせる柔らかな翠色だ。女装させたらさぞや可愛らしい姫様になるに違いない。俳優としての役柄も、容姿に見合う綺麗なものが多いようだ。私の兄も優男の類だが、タイプが全く異なる。花に例えるなら義弟は『ピンクの蔓薔薇』、我が兄は『蝋梅』といったところか。名前もまた……ニコラス・ノア……ニコラス=勝利の人々ノア=心地良い。こちらもまた納得させられる。身長は義兄ほど高くなく細身に見えるが、俊敏そうだ。淡いピンク色のワイシャツにモスグリーンのパンツという姿が余計に、背後に蔓薔薇を背負っているように錯覚させる。


 ……と、現実逃避をしている場合ではない。このぎこちない雰囲気を打開せねば、『気が利かない愚鈍な妻』を貰った、などと瑠伽に恥をかかせる訳にはいかない。しかも二人とも日本語も堪能なのだ、語学力を言い訳には出来ない。何でもいい、とにかく先ずは無難な話題を、あ! 義弟がチーズケーキに口をつけた、よし!……


 「お茶もケーキも、お口に合えば良いのですが……」


上品な笑みと落ち着いて穏やかな声で切り出す。


「うん、美味しいですね」


 社交辞令でも何でも良いのだ。続いて義兄がチーズケーキに手をつけ、ほうじ茶を飲む。


 「これはいいね、ほうじ茶とチーズケーキ。意外な組み合わせだと思ったけど合うね」


 ナイス、義兄。


「良かったです、安心しました。お二人ともチーズケーキはお好きだと伺いましたから」

「あれ? 僕、真緒理に話した事あったっけ? ニコラスか?」

「いや、僕も式の時はバタバタしていて義姉さんとは挨拶しか出来なかったよ」


 うん、直接聞いた訳じゃないから驚くよね。さぁ、ここは堂々としつつも僅かにはにかみの笑みで応じる。


「式の際、お義母様とお話させて頂いた際、お二人のお食窺わせ上を伺わせて頂いたのです」


 あまり時間は取れなかったけど、あちらの家族の食の好き嫌いはリサーチしたかったのだ。会話も持つしね。


 ……あー良かった。狙い通り、二人とも身を乗り出して目を輝かせてくれた……


「そうか、出来た奥さんを貰って良かったな、瑠伽」

「兄さん、幸せものだね」


 そう、社交辞令で良い。とにかく会話が続けば。


「ええ、僕には勿体無いほどです。手放しませんけどね」


 と、誇らし気に微笑む瑠伽。演技、板についてるなぁ。


「ははは、ご馳走様、て感じだな」

「有難う、兄さん。ケーキも真緒理の手作りなんだ」

「ほう? これは見事だ」


 恐れ入ります、と軽く頭を下げる。


「けど、兄さんさぁ……女の子の趣味変わったよね?」


 義弟のその一言で、和やかになりかけた空間にヒビが入った。


 何がしたいの? ニコラス、あんた瑠伽の女の趣味を語れる程親しくないでしょ?

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