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第16話 (契約)新妻のお仕事②

 朝食後、瑠伽は執筆の件で担当者と打ち合わせをする為に出掛けて行った。これからしばらくの間新作はお休み、今引き受けているものをゆっくりと仕上げて行くとの事。一族の仕事の引継ぎやら何やらで色々と忙しくなる中、筆を折らない選択をしたのは読者の一人としては非常に有り難い限りだ。


 何を隠そう、私は小説家として彼の「ファン第一号」でもあったりする。元々書く事が好きだった彼は、何気ない日々を日記のように気ままに書き綴っていた。小夜子さんとの鮮烈な出会いから一目惚れ、歓喜、もどかしく苦しい恋心に揺れ動く彼を間近で見ていた私は、己の心の浄化と整理の為に物語に綴ってみては? と勧めてみたのを切っ掛けに小説を書き始めた。区切りの良いところまで書いては、私に読ませるのが日課になった。小夜子さんへの想いは、見事にフィクションの純愛悲恋小説として昇華されていた。読んでいて私自身は複雑な心境だったが、彼の文才が世に埋もれてしまうのはあまりにも惜しいと思い、適当にペンネームをつけてコンテストに応募してみる事を勧めたのだ。見事に新人賞を受賞した彼は、そこから現役美形高校生としてトントン拍子にデビューが決まり、処女作『月下美人と氷れる月(P.N 星夜佳月(ほしやかづき))』が売れに売れた。実は私も、その物語の中に登場している。性別は男、男主人公の親友として。

 別に悲しくもしんどくもない。秘密の自慢ネタだ。二作目、三作目……と彼が次々ヒットを飛ばしたのは、言うまでもない。


 エスポワール一族の仕事については、元々は長男のジルベルト・ダンテが引き継ぐ事になっており着々と準備が進んでいた。そのつもりで大いに期待され教育されてきたし、本人もそのつもりだったらしい。だが、仕事関連のお忍び視察で訪れた南の小さな島『ローランド島』で、その国の王女様にと恋に落ちてしまった。ローランド島の王女と結婚するのは来年の秋だ。それまでは瑠伽に引き継ぎやサポートをするという。

 末の息子のニコラス・ノアは元々が両親に溺愛されていたいた為、何でも好きなようにさせていたらしい。その美貌を活かして俳優として活躍している。


 この世には残念ながら、親子にも兄弟姉妹にも理性では制御出来ぬ相性というものが存在する。私の場合もそうだ、両親とはどうあっても愛情をかけあう事は叶わなかった。それは私があまりに出来が悪かったという事で、一応の理屈はつけられる。

 しかし、どういう訳か瑠伽もそうだったらしい。彼が言うことには……彼が生まれた時から、両親はあまり愛着が湧かなかった聞く。名前は、その時たまたま仕事で居合わせた日本好きの親戚が名付けたらしい。父親は金髪に翠の瞳、母親はプラチナブロンドに深い緑の瞳。金髪に翠の瞳の長男と末息子に対して瑠伽だけが違うから? 瑠伽が冷遇される明確な理由は今もって不明だが、一族の期待を一身に背負う長男、無条件に溺愛される末息子。両親は瑠伽には無関心だったというのは事実だ。見兼ねた遠縁の叔父が、当分の間預かるという形で日本へと連れて来てくれたのだ。そのお陰で、私と瑠伽は出会えた。


 今になって「跡を継げ」など、虫が良すぎる! けしからん! 理不尽極まりないと腸が煮えくり返るが、瑠伽自身がちょうど小夜子さんとの今後で悩んでいた事、小説家としてこのまま一生やっていく事が可能なのかと将来を模索していた事、形だけで良いから跡を継いで欲しい、取り合えず体裁を整えろ、と一族から強引に見合い話が立て続けに舞い込んで来た事、更に小夜子さんとの事も当然のように調べられて、「即刻別れろ!」と脅しのようにけしかけられていた事などが重なるに重なって疲弊し切っていた。


 そこで、私から彼にラノベや少女漫画で流行りの『契約結婚』を提案したのだ。


 どうあっても叶わぬ瑠伽への想い、祖父母の援助のお陰で仕事が出来る状態の将来への不安。この上、瑠伽が見ず知らずの人と政略結婚のようなものをさせられて手の届かないところへ行ってしまうのには耐えられそうにない。幸い、私の家柄ならそこそこエスポワール家と釣り合いが取れる。では、瑠伽が私の事を負担に感じず、かつ私にも旨味がある契約とは……。

 考えに考えた末……仮初夫婦、偽装結婚、つまり夫婦としての触れ合いはないけれど共同生活を送る。よって家政婦として家事全般に給料を頂くことにしてみてはどうだろう? エスポワール家のお金ではなく、瑠伽の印税からの支払いにする。この案は予想外なほど瑠伽が気に入る事となった。税金面など細かな仕組みは分から無いので、瑠伽の懇意にしている税理士に一任している。これで私も、祖父母の援助無しでも好きな事を仕事にしていける収入源を確保出来た。まさにwin-winの関係ではないか。


 実際、エスポワール一族の事業には優秀なブレーンが揃っている為、瑠伽が本格的に仕事を継がなくともやっていけるようだ。だが、世間体の為には息子が継ぐ! という形を取る事で一族の権力の誇示を計るのだとか。難しい事はよく分からないが、要するに言葉は悪いが「お飾りのCEOが必要」という事だろうか? 私たちの契約結婚と理屈は大差ない気がする。お陰で、瑠伽の妻としての役割も、必要に応じて海外を含め社交場に顔を出す事くらいで特にないのは非常に有り難い。


 世間の常識からすれば、私はきっと『理解不能のクズ女』と評されるだろう。だが長年の拗らせた片想い、叶わずとも共に居たい、将来の為に安定した収入が欲しい、これを叶えるにはこうするのが私にはベストだった。


 さて、邸内の掃除完了! 洗濯物がちょうど終わった頃だから、次は洗濯物を干そう。夕方瑠伽が帰って来たら、一息ついて貰って一緒にウォーキングとストレッチをする。素早く用意出来るように、夕飯の仕込みもしておこう。


 明後日から一カ月程、瑠伽はイギリスへと旅立つ。その前に明日の昼過ぎ、義兄が瑠伽を迎えに来るという。立派に義兄をもてなす事も契約妻の私の仕事だ。

ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

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