第15話 (契約)新妻のお仕事①
ジュワーッと溶き卵がフライパンの中に広がる。卵には砂糖の代わりにラカントを。濃くが出るよう牛乳の代わりに豆乳と、顆粒の昆布出汁を少々混ぜてある。ジュージューと黄色い液体が高野豆腐とツナに絡んで焼けて行くと共に、バターの焼ける香ばしい香りが漂った。この辺りで粉チーズをたっぷりと降って全体的に絡めていく。
今朝のメインメニューはツナと高野豆腐のフレンチトースト風だ。おやつではないので、味付けは出汁巻き卵のようにしている。トースト風の食感に美味しく仕上げる為のコツは、『戻した高野豆腐を出来るだけ硬く絞り切る』事である。他にはワカメとシメジの塩スープに胡麻油を回しかけたものと、蒸しブロッコリーだ。ブロッコリーのドレッシングはMTCオイルと酢と岩塩を混ぜたもの、これはどんなサラダにも合うのでお勧めだ。
ダイニングルームのテーブルに、出来上がった朝食を運んで行く。正方形の白いテーブルと四つの白い椅子、テーブルクロスも白だ。その上に、白いお皿に盛られた朝食が二人分並ぶのを見ると、
……あぁ、結婚したんだなぁ……
と、しみじみと感じる。うん、勿論「契約結婚」だから仮初ではあるのだけれども。それでも普通に過ごしていたらこういった経験も出来なかった筈だから、これもまた私の人生に起きた「サプライズギフト」の一つだと思う。よって、余計な事は考えず有り難く享受させて頂こうと思う。
今日のお花は、庭園から摘んで来た水仙だ。出窓に置いた淡いピンク色の花瓶に差している。今朝方、東の空が白み始める頃に摘んで来た。これから毎朝水を替えて、五日間くらいは持たせたいところだ。その前は、一枝の蝋梅を飾っていた。切り取っても大丈夫な部分を蓮に教えて貰ったのだ。窓辺から差し込む光に蝋梅の花びらが透けて、本当に《《蝋細工》》のようで美しかった。
アーチ型の出窓には白いレースのカーテンと若草色の遮光カーテンがセットで掛かっている。カーテン留めは、私がスワロフスキーとガラスビーズで作ったサンキャッチャー式のものだ。カーテンレールに吊るしてあるサンキャッチャーも、私の手作りだ。陽の光がそれらに当たると、部屋中に小さい頃虹が広がってまるでファンタジーの世界に迷い込んだ気分になる。私の好きなひと時だ。瑠伽もまた、小説のネタに使えるとかで気に入ってくれている。
さて、時刻は午前六時半。そろそろ瑠伽を起こしに行こう。もう起きているかな? 瑠伽の寝室がある二階へと足を運ぶ。朝食後、瑠伽を送り出した後に邸内のお掃除と洗濯を頑張ろう。私の部屋はというと、瑠伽の右隣にある。夫婦としての触れ合いは無し、というのが契約内容の一つだからだ。それならもっと離れた場所でも差し支えない訳だが、万が一親族や友人が訪ねて来た時に違和感を持たれては面倒だから隣同士にした。よって念の為のカモフラージュに互いの部屋のベッドはダブル、枕も二つ並べてある。
因みに、蓮の部屋は一階の一番奥、特に低糖質な食事は必要ないので適当に自分で賄ってくれている。今は、あの広い庭全体の手入れをしてくれている頃だ。本来なら私がしないといけない事だったから、本当に有り難い。
瑠伽の部屋の前に立つ。ドアを三回ノックする。「はい」とすぐに返事が来た。今日はしっかり起きていたみたい。
「お早う、瑠伽。朝ご飯出来たよ」
「有難う、お早う真緒理。ちょうど今行くところだったんだ」
各部屋には洗面所とお風呂、トイレも完備されている。今朝は身支度も整え終わっていたようだ。私たちは笑顔を交わし合い、連れ立って一階もダイニングルームへと向かった。
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