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第14話 私の騎士②

 終始穏やかな笑みを浮かべていた蓮が、不意に真顔になる。思わずドキッとしてしまった。何だろう? 仕事関連の事かな?


「奥様の騎士は、旦那様だったのですね」

「え? どういう意味?」


 瑠伽が私の騎士? 何それ? あ! もしかして、昔三人で遊んだ『お姫様ごっこ』の事を例えているのかしら。


 「……昔、奥様は『王子様より騎士様の方が好みだ』とおっしゃってましたので」

「あー、そんな事言ったわね。でもあの時は深く考えてなかったし、上手く言語化も出来なかったのだけどね、どちらかと言うと私自身が強くてカッコイイ騎士になりたかった、て感じだったんだよね」

「そうだったのですか? では今は……」

「うーん、今はまぁ……私はお姫様っていうタイプじゃないしねぇ」

「では、もしお姫様だったとしたら、騎士と王子のどちらがお好みですか?」

「そうねぇ、やっぱり騎士様の方が好みかなぁ。今はもう夢見る夢子ではないから、王子タイプか騎士タイプかと分けるのは現実的ではない、て分かってはいるけどね」

「騎士の方ですか。それは何故?」

「だって、王子様と一緒になるって事は、将来皇后になる訳じゃない? 国を治めるのなんてもの凄く大変だし、王には公然の秘密として側室とか普通に居そうだし、実際はどう分からないけど色々な陰謀とか巻き込まれそうだしね。日々面倒事があってうんざりしそうじゃない?」

「それは確かに」

「騎士道って、実際は騎士の方が浮き名を流していたり姫の方も政略結婚とかあったりそういう現実的な事情とは別にして、自分だけに忠誠を誓って命を賭けて守られるのってさ、大半の女の子は憧れるんじゃないのかなぁ」

「成る程」


 相変わらず彼は、私のどんな話も真剣に耳を傾けてくれる。とても居心地が良い。


 「では、旦那様を敢えて例えるなら?」


どうして王子や騎士に拘るのかは分からないけど、しっかり答えてあげよう。何だかとても真剣みたいだから。


 「うーん、瑠伽は私にとっての騎士ではないなぁ。強いて言うなら王子タイプ……なのかなぁ。でも彼、王子様というよりは『宰相』タイプ、て感じがする」

「あぁ、『宰相』ですか! 言われてみればしっくりきますね」

「でしょ?」

「はい」


 というか、騎士って……私、だよね。瑠伽にとっての私は騎士。誰にも言えないけど。私は瑠伽に、無償の愛を捧げて生涯忠誠を誓ってる訳だし。それに……


 「どちらかと言うと、私にとっての騎士って。蓮、あなただと思うの」


うん、これは本当にそう思う。こんなハイスペックが私に仕えたいだなんて身に余る幸運だから、これ以上望んだら天罰ががくだりそう。


 「……え? 私、ですか?」


あれ? 気に入らなかった? そんな驚かなくても。ごめん、私が才色兼備だったら良かったんだけど……


 「あー、ごめ……」

「光栄です!」

「え?」

「光栄です!!」


 あらあら、身を乗り出しちゃって。目がキラキラしてる! 満点の星空みたい。それに、心なしか頬と耳……赤くなってる?


 「そう? 喜んでくれたなら良かったわ」


うん、嫌じゃないみたいで良かった。


 「はい、有り難き幸せ。この久岡蓮、奥様の感じる幸せの為だけにこの身の全てを捧げます」


 彼は改めて跪くと、私の右手を丁寧にとって手の甲にそっと口づけをした。まるで中世ヨーロッパの騎士のように。こういう所作も自然で、心憎いほど絵になる男だ。自分が本当にお姫様になったように錯覚してしまうほどに。


「奥様、どうか一つだけお約束をしてくださいますでしょうか?」

「ん? 約束ってどんな?」


 ドクン、と心臓が鼓動を乱した。何故なら、彼は悲壮と表現出来るくらいに切実な眼差しで私を見上げたからだ。漆黒の瞳の奥に、悲しみの影が走ったのは思い過ごしだろうか?


 「この先、どんな些細な事でも構いませんから、悲しかったり辛かったりした時は私だけには包み隠さずにお話ください。私はいつでもどんな時も、奥様に何があっても味方ですし、必ずお守り致します故」


 ……あぁ、彼は全てを察しているのだ。私と瑠伽が『契約結婚』だという事も、小夜子さんの事も。昔からそうだった。直接言わない方が良い時は上手くボカして伝えてくれて。いつも寄り添って味方でいてくれた上に必要に応じて去り気なくフォローもしてくれた。私はなんと貴重な宝物を持っていたのだろう。


 「……えぇ、有難う、いつも……」


胸がいっぱいになって、それしか伝える事は出来なかった。けれども、彼にはしっかり伝わっていたと思う。その瞳が、優しく包み込むように受けとめてくれたから。


 ただ、彼の双眸に刹那に差した悲しみの影がいつもでも心に残った。

ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

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