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第12話 真緒理の世話係、久岡蓮と言う男③(瑠伽視点)

 先に沈黙を破ったのは久岡の方だった。


「……アーサー王伝説の話ですが……」


 ん? 何故アーサー王? 唐突に何を言い出すつもりだ?


「世間一般的な評価では、ランスロットとギネヴィア姫の恋を『純愛』だとか『悲恋』だとかもてはやす傾向にあるのは何故なんでしょうね?」


 ギネヴィアはアーサー王の正妻だったが、ランスロットとの禁断の恋に走ってしまった訳だが……? それをどう受け取るかは個人の趣味趣向の世界で他人かとやかく言う事ではないだろう? 何を考えているのか全く分からないな、少し様子を見るか。


「ランスロットはアーサー王に忠誠を誓った筈の騎士で、誰がどうみてもギネヴィアとの恋は略奪不倫ですのに……」


 僕は不倫も略奪もしていないし今後も一切するつもりはないぞ? 


「……そう言えば昔から、ドロドロの愛憎劇は一定の人気はあったようですね」


 彼は特に僕からの返事を促すような事はせず、まるで独り言のように話を続ける。憎らしい程に澄んだ、横笛を思わせる声で。しかも、物凄く悔しいがコイツも美形なのだ。

 長身細身に見えるが、力仕事や護衛も兼ねる為筋肉が鍛えられているのも知っている。ショートカットにした漆黒の髪は、前髪を長目にして動きをつけてアレンジしている。高く整った鼻、夜空を思わせる切れ長の瞳には内に秘めた情熱を湛えやたらと目に力がある。怜悧に引き締まった唇、凛とした佇まいから和装と日本刀が良く似合う。それでいて全身から滲み出る色気が同性から見ても魅力的に感じるのだから、女心をそそらない訳がない。体型に合わせて仕立てた黒のスーツ姿が悔しい程にサマになっている。


 「やっぱり、ランスロットは最強で美形という設定が読み手側の妄想を掻き立てるんでしょうか」


 僕をランスロットのような不誠実な奴だと言いたいのか? だとしたら情けない事に、自覚はある。反論の余地はないが……。彼は話を続ける。


 「アーサー王伝説も様々なバージョンがありますから如何とも言い難いですが、ギネヴィアがランスロットに一目惚れをして誘惑した、という説もありますね。ギネヴィアは尻軽ですが、ランスロット側もそこで一目惚れだったと言いますが……それにしても彼はアーサー王に忠誠を誓う騎士なのですから。その時点でギネヴィアとの恋が成立しないように上手く計らう事も出来た筈なので」


 もしやギネヴィアを小夜子、僕をランスロットと例えているのか? 小夜子との事はこの男も前から知っているが、今まで一度も言及した事はなかった。何だ一体? まさか契約結婚の事を知っているのか? いや、落ち着け、カマをかけられている可能性もある。

 

「ランスロットは何だかんだと色々な女と浮き名を流してますし、結局はただの軽薄で浅慮な男なんだろうな、と思いますねぇ。更にコイツは他の女の誘惑に乗って妊娠させた上に子どもの認知もしなかった逸話もあります。あれは魔女に騙されたのだとしても、不誠実極まりない」


 これでは埒があかない。話が長引いて真緒理を待たせるのも心配だ、一気に切り込むか。


 立ち止まり、半歩ほど後ろから歩いていた彼に向き合い真っすぐに彼の目を見据えた。僕がそうする事を待ち構えていたかのように、彼もまた僕の視線を冷ややかに受け止めた。その態度に訳もなく苛立つ。


 コイツは僕の侍従ではないにしても、立ち場的に舐められる訳にはいかない。ちょうど、真緒理の待つ裏庭へと続く小道に差し掛かったところだ。誰に聞かれているか分からない室内よりは周りを見通せる。だが万が一の事を考えて、小夜子の名を出したら拙い。あくまで真緒理の夫と彼女の忠実な世話係としての会話を貫かねば!


 「ランスロットは僕、アーサー王は真緒理、と例えて諭すつもりか?」

「とんでもない! 真緒理様は、アーサー王のように姉との間に不義の子を儲けるようなふしだらな御方ではございません!」


 ヤツは大げさに目を見開き、芝居がかった風に肩を竦めた。ムカッと怒りが込み上げる。


 昔から、コイツが真緒理を崇拝して語る姿が気に食わなかった。何故か気持ちが騒めいて不快になるのだ。


「じゃあ一体何が言いたい? 真緒理を待たせる訳にはいかない。言いたい事があるならハッキリ言ってくれないか!」


 淡々と応じるつもりが、声を荒げてしまう。駄目だ、冷静になれ。


「確かに、真緒理様をこれ以上お待たせしては良くありませんね。では遠慮無く申し上げます。……『二兎を追う者は一兎をも得ず』と言いますが、あなたのような天才には何なく成し得るのかもしれませんね。私のような凡人には理解し難い領域ですが」


 待ち構えていたかのように嫌味たらしく淡々と言い募るコイツ、癪に障る。何が凡人だ、語学、武道、芸術、学問、マナー、教養、容姿……どれを取っても上級レベルじゃないか! 真緒理にその全てを教え込んだのもお前だろう!!


「君のような男を凡人と評するなら、世の大半の男どもからはさぞかし不興を買うだろうよ。嫌味か? てな。で? だから何が言いたい?」

「では、無礼を承知で単刀直入に。もうそろそろ《《覚悟を決めるべき時》》ではありませんか? あなたも本当は分かっているでしょう? 今のままだと、あなたは《《単なるクズ》》でしかありません」


 な、ク、クズ……


「既に十分にご存じの事かと思いますが、私は真緒理様の感じる幸せの為のみにこの身を尽くします。もし万が一、真緒理様があなたの知らないところで泣くような羽目になったなら……その時は、容赦しません!」

 

 奴は斬り付けるような眼差しで僕を見据えながらそう言い切ると、振り返りもせずにスタスタと真緒理の待つ裏庭へと去って行った。


 ……今のあなたは単なるクズ男でしかありません……


自分でも薄々承知していたせいか、何も言い返せない己が不甲斐無かった。ただ茫然と、成す術もなく遠ざかる彼の背中を見つめていた。


ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。

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