第11話 真緒理の世話係、久岡蓮と言う男②(瑠伽視点)
「……本人のたっての希望でな。ワシは全く構わんし、恐らく真緒理も特に拒否はせんだろう。ただ、コヤツはあらゆる面で信頼の置けるが……それでも男ではあるから。真緒理の夫である瑠伽君の意向も聞いてから、と思ってな」
(やはりそう来たか、久岡蓮がソファに腰をかけている源重郎さんの背後に、控えるような形で立っているのを見た瞬間、そんな気はしたんだ。物腰は丁寧ではあるが、それにしてはあの挑むような目つき、気に入らないな……)
いつも凛然として堂々と会話をする源重郎さんには珍しく、少しだけ言い淀みながらそう切り出した。しかし、口調とは裏腹に僕の仕草や視線一つも見逃すまいと、厳しい眼差しを向けている。
僕は昔からこの視線が苦手だった。一族の中、生存を掛けて必死で培った処世術など全く通用せず、心の奥底どころか無意識の領域まで見透されるような気分になるからだ。
だが、ここで動揺する訳にはいかない。カマをかけらる可能性もあるから細心の注意が必要だ。僕と真緒理の為にも、『契約結婚』の事を知られる訳にはいかない。
ゆっくりと穏やかに口角を上げ、少しだけ目を細める。作り笑いは目が笑っていない事が多いからバレ易いのだ。
「お気遣い有難うございます。真緒理が良いのであれば、僕に異存はございません」
「そうか、それなら良かった。真緒理の希望もあったし、何よりもコヤツは非常に優秀な男だからな、我が一族関連のとある会社の幹部クラスで仕事を任せようかとも思ったんだが。本人が真緒理から許可が下りればこれまでのように仕えたい、と言うもんでな。それなら、後は二人で話合って、真緒理に話をつければ良い」
心底安堵したように応じているところを見ると……源重郎さんは僕に真緒理の全てを任せるのは心許ない、と感じていたのだろうなぁ。申し訳ない……。
「承諾頂きまして有難うございます。この久岡、誠心誠意お嬢さ……失礼致しました、奥様にお仕えさせて頂きます」
彼はそう言って、丁寧に頭を下げると僕の前へと足を運んだ。にこやかに接しているようでどこか冷めた眼差し……そう感じるのは気のせいではない、だろうな。世話係としての領域を十二分に理解し、徹底した教育を身に着けているのだ、敢えてそうしていると見て差し支えないだろう。
「いや、僕の方は構わないよ。妻の助けになってやってくれたら僕も嬉しい。彼女は頑張り過ぎてしまうところがあるからね」
「寛大なお心に感謝致します」
「さて、真緒理も待っている事だろう、わざわざご苦労だったな、あの子を宜しく頼むよ、瑠伽君、久岡」
源重郎さんの言葉に、素早く体の向きを変え頭を下げる彼と僕。
「お任せ下さい」
「精一杯、お仕えさせて頂きます」
「またな、二人とも」
僕たちは書斎を後にした。半歩ほど下がって共に歩みを進める僕たちに、重苦しい沈黙が流れた。
……彼の狙いは、何だろうか?……
ここまで御覧頂きまして有難うございます。誤字脱字報告、感謝致します。




