捌
「そうだな。まずは、魔王の指先について話していくか。」
レフトは神妙な顔をして語り始めました。
「魔王の指先っつうのは、魔王軍たちの中から魔王が10人を選抜して構成された組織の名前だ。
おっと、勘違いしないで欲しいのは、魔王軍とは言ってはいるけど、実際は軍隊なんて大層なもんじゃなくて、モンスター達の総評みたいなものだな。」
これで、バイシンが魔王軍と呼ばれていたのに、幹部であるロードレスを襲ったのかははっきりしました。
音で攻撃をしたのではなく、元々彼らはロードレスと味方でも敵でもなかったのですか。
「そこで、魔王の指先は指の数が小さな方が強い存在ということだ。シェラなら分かっていると思うが、1が最も強く、10が最も弱いということだな。」
現実世界でいう役職のようなものなのでしょうか。
下の階級の者は上の階級に上がるため、上の階級の者は下の階級を寄せ付けないために切磋琢磨しあう。
合理的なやり方ですね。
「後、魔王の指先のうち、三人が名前や顔などが既に割れている。といっても実際は今は1人だけどな。
説明不要だと思うが、まずは10指のロードレス。これ以上言うことも無いよな。
次に、6指のアメザファイアっていうのもいたらしいが、ここから遠く離れた国で、ある男がたった1人で倒したらしいぞ。すげぇやつもいるもんだなって俺は思ったぜ。」
レフトは目を輝かせてそう語っていました。
10指との戦いで2人がこれだけ負傷をして勝利を収めたというのに、一人で戦ってかつ、勝利を果たすとは、この世界の人間の評価レベルを引き上げないといけないようです。
しかし、魔王軍と戦っているということは、レフトやライトだけではなく、他の国にも勇者と呼ばれる存在がいるのでしょうか?
「あの、聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「おう、何でも聞いてくれ。」
今までの話を聞いてふと疑問が湧いてきました。
「魔王の指先は単独で撃破できるなど、そこまで脅威を感じるような存在とは思えませんでした。
国同士が結託し戦争を行えば勝てる見込みはあると思うのですが、そこの所はどう考えているのでしょうか?」
この質問をすると、レフトの表情が一変し険しい表じゃに変わっていきました。
「あぁ、昔やったんだよ。そのやり方で。」
一度、レフトがゴクリと唾を飲み込んでから口を開きました。
「昔、魔王軍が暴れ始めた頃、勿論まだ魔王の指先なんていないほどの時期だったらしいな。
人類が魔王軍と戦争をしてたんだが、ある襲撃を契機に、魔王が国を3つほど滅ぼしこう言ったんだ。[この城に踏み入った兵士の生まれ育った国は滅ぼした。これは警告だ。これ以上城に踏み入るような事をするようであれば他の国も滅ぼす。]と。
勿論、その発言から、人類は戦争を放棄したさ。
それから魔王軍は次々と力を蓄えていって現状に至るってわけだな。
今思えば、その時に潰しておけばこんなことにはなっていなかっただろうが、当時の国の王たちも自分の身が大事だったのだろうな。」
「しかし、ならば何故レフトの父親はレフトを旅になんて出したのですか?」
今の状況は把握できましたが、それだと何故2人が旅に出されたのか疑問が湧いてきました。
「そりゃ、俺らが弱いからだろ。魔王の城になんて辿り着けるわけがないってな。」
先ほどの魔王の宣言が事実であるならば城以外でなら何をしても良いということになります。何故、城しか迎撃の対象にならないのでしょうか。
一応、理由の推測を試みます。
「だから、クソ親父を見返してやんだよ。魔王を倒して、人々には血筋でよそよそしく扱われるんじゃなくて、皆に好かれる英雄にもなりたいんだ。」
レフトの行動原理を理解しました。
自己顕示欲とでもいったところでしょうか。
「おっと……話が逸れちまったな。あとわかってんのは3指のストシンカー。こいつはここから遠く離れた場所に奴は魔物の国を構えて国王として顕在している。
人殺しの報告は滅多に聞かない上、その国は人が住んでいる国とも貿易をしている。
まぁ、コイツは居場所も顔も割れているし、対処は後回しで良いか。」
魔王の指先についてのデータを記録することができましたが、些か不明な点も増えてきました。
「そろそろ時間になりますので、私は出発します。」
「もうそんな時間か。急がねぇと間に合わないぞ。」
そんな事を言い終えた時にはシェラの姿は消えてしまっていた。
明日で一応は旅を続けられるし、今日は早く寝るか。
そう思い俺は眠りについた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌朝、私はお兄ちゃんのもとに向かった。
「ライト、おはよう。」
「お兄ちゃん、おはよー。」
お兄ちゃんは素手に全身を鎧に着替えていた。
出発する準備は万端という事なのかな。
「結局その鎧、ロードレスと戦った時は使わなかったんだよね。」
「まぁ、あの時はライトが戻ってくるまでの時間稼ぎもあったし、ロードレスの攻撃を鎧で受けきるより、速さで逃げ切った方が良いかと思ってな。」
ふと左手を見てみると、腕の先にはいつも見慣れていたはずの手がなく、手につながる関節があるであろう部分は先端が丸くなっており、包帯が巻かれていた。
「何だ?お兄ちゃんの腕を心配してくれてんのか?気にすんなって。2人が無事でいてくれてお兄ちゃん嬉しいんだぞ。」
お兄ちゃんは私が腕を見て、口が閉ざされたのを察してくれたのだろう。
決して、気にしないことが出来ないほどの傷だというのに。
「ライト、早かったですね。」
トクトクとシェラさんもやってきたようだ。
「シェラ、その格好どうしたんだ?」
シェラさんの服装はフリルや靴下部 が破れていたり、顔や服にはかなり泥がついていた。
「ライト、申し訳ございません。此方はライトの服装だというのに、昨夜は森や湿地地帯を走り汚れや傷をつけてしまいました。」
「そんな事気にしなくて良いよ。昨日はゆっくり休めたのかな?」
そういえば、昨夜はあれからシェラさんの姿を見ていなかった。シェラさんはゆっくり休むことができたのだろうか。
「はい。人目につかない位置。森の木陰で休ませてもらいました。」
そういえば……シェラさんを3日とも夜になると姿を見かけることはなかったなぁ。
「3日間もしかして……」
「はい。休息スペースを用意されていませんので、3日間野営をさせてもらいました。
どんな立地であろうと休息できる機能が備わっていますのでご安心ください。」
本当にシェラさんって、どんな人なんだろ……
「3日も風呂入ってねぇのかよ。城の浴場を貸してやっから入ってこいよ。」
「お願いを遂行します。」
そう言ってシェラさんは病室を飛び出した。
「俺は医者や看護師に挨拶してから向かうから、ライトは追いかけてくれ。アイツ、どこに浴場があんのか知らねぇだろ。」
「うん。そうだね。後お兄ちゃん。約束は忘れないでね。」
「はいはい、わかってんよ。」
お兄ちゃんは、覚えてたのか。といった風にポーズを取ってきた。
それを横目に私はシェラさんを追いかけていった。
浴場に向かうと既に私の服が着替え場に置かれていました。
シェラさんはここが浴場だって知ってたのかな。
すると、風呂場の扉が開いて人影がでてきた。
「ふぅ……良いお湯でした。………ライト、今のは人らしかったですか?」
「う……うーん?分からないかな?」
シェラさんは、はぁ……とわざとらしく溜息を吐いている。
シェラさんも私たちに近づこうと必死なのかなと思っていると、あることが脳裏によぎり浴場に向かった。
「あぁ……」
手遅れだった。
シェラさんが向かったタイミングで止めなければこの自体は防げなかったと思う。
浴槽は泥まみれで濁りきっていた。
「体を洗えというお願いを遂行しました。」
シェラは何処か誇らしげに胸を張っている。
そういえばシェラさんはシャワーが使えなかった。
泥で濁りきったこの浴槽をみたら両親はどう思うだろう。
こうなってしまった以上、やる事は一つしかないかな。
「シェラさん、これに着替えたら急いで出るよ!!」
私はそう言うと、召喚当初にシェラさんが着ていた絶妙にダサい服を渡した。
急いでいるという言葉に反応したのか、シェラさんはものの10秒で着替え終わり、2人は走り出し、城に出る入り口でお兄ちゃんを拾って、そのまま城門を後にした。
心の中でお父さん、お母さんごめんなさい。と謝罪だけはちゃんとしておいた。
「そういえば、お二人に伝言を預かっています。」
走り続けた結果森を抜け出した後、最初に発言をしたのは意外にもシェラさんでした。
お兄ちゃんも私も息が上がっており、まともに返事はできなかったが頭だけは頷かせることができた。
「明日10時。ホールド池に、お仲間と共に是非来てくれ。相談して来ないと決めたのならそれでも良い。待っている。と」
伝言を伝える時にだけ、シェラさんの声ではなく、低く濁ったような男の声に変わって、その時は少しだけビックリしました。
「その伝言の主っつうのは、シェラが昨日会っていて且つ、ライトを探すのを手伝ってくれた人なんだろ。一度お礼を言うのも悪くないかもしれねぇな。」
「私も会ってみたいかも。」
私がその人を気になったのは、シェラさんと仲良くなったのがどんな人なんだろう。って好奇心からなのかな。
「じゃ決まりだな。てか、今は何時なんだ?」
そういえば、今の時間を確認するのを忘れていたなぁ。今何時なんだろ。
「現在は9時50分です。」
「間に合わないじゃねぇか。とりあえず、走るぞ。ライトは辛くなったらお兄ちゃんがおぶってやるから頑張ってくれよ。」
「うん。」
三人は息をぜぇぜぇと吐きながらホールド池へと走り出しました。
時刻は11時に差しかかろうとしていました。
少し遅れてレフトがそのあと続いてライトがホールド池に到着しました。
「その……手紙の人って……まだ……いるの……?」
息を切らし既に満身創痍のようなライトの問いかけに対し、湖の対から声が届いてきました。
「やっと来たか。少し待ってくれ。」
湖を回ってフードの男がこちらに近づいてきています。
レフトは念のため盾を構え、ライトを後ろに隠しました。
「警戒させてしまったか?私は何も武装していない。少しばかり君達に興味があってな。話しにきたのだ。」
男は両手を空へ広げ敵意がないことを表そうとしています。
「あぁ……ライトを探すのを手伝ってくれたのは感謝してる。だが、話をするのならこのままでも構わないよな。」
依然としてレフトは盾を構えたままだ。
それもそのはず、前回あった時はフードを被り、座り込んでいたため身長が分からなかったが、彼の身長は3mを軽くオーバーしている。
「用件を済ませたら私も君達に用はない。
ゆっくりお茶でも出してやるつもりだったが、君達が望むのなら立ったままでも構わない。」
男はやれやれと両手を上げたまま対談は始まった。
「えっと、お話しするのなら、まずは自己紹介が良いのかな?」
今まで書かれていたライトが顔を出した。
敵意がないことに気づいて隠れることをやめたのでしょうか。
レフトもライトもなかなか切り出さないので、私が紹介をしましょう。
「ご存知だと思いますが、私の名前はシェラ。
盾を構えている此方はレフト、そしてその後ろに隠れているのは」
「私の名前はライトっていいます。
先日はありがとうございました。」
ライトは照れながら軽く会釈を行なった。
勝手に紹介をされたことに怒ったのかレフトはそっぽを向いてしまっています。
「では、私も自己紹介をさせてもらおう。
魔王の指先、9指のアイドロイ。
レフト君、知らない相手に君が盾を構え続けたことは正しい判断だ。」
魔王の指先の情報と旅の目的が出来ました。
次に現れたのは魔王の指先の1人、アイドロイ。
アイドロイの目的とは何なのでしょうか?