陸
時刻はそろそろ18時ごろに差し掛かっていた。
村長の部屋へと戻ってきた。
既に部屋にはシェラが座り込んでいた。
「シェラ。早かったじゃねぇか。」
……………
返事がない。
「シェラさん、大丈夫?」
ライトが声をかけてみるも無反応のままだった。
「おい!!シェラどうしたんだよ!!」
肩を震わせてみても反応が返ってくることはなかった。
その上、肩に触った時に、熱さえ感じることは出来なかった。
「クソ……こんな旅に巻き込んだからだ……」
「シェラさん……なんで……」
ライトは既に顔を手で覆いすすり泣いていた。
クソッ……どうしてこうなったんだよ……
シェラほどのやつがここまで簡単にやられるわけがない。
きっと、ロードレスか何かが乗り込んできたのだろうか。
それに気づくことができなかった俺たちのミスだ。
俺たちがそんな事を悔いている間に時刻は18時になった。
「プログラム、起動します。」
今まで、何をしても反応がなかったシェラから突然声が聞こえてきた。
「状況を確認中です。ライト、レフト。何故驚いたような顔をしているのですか?」
シェラは、機械的に小首を傾げて俺たちに聞いてくる。
俺は、そっと目線を逸らした。
「シェラさんが何回呼んでも反応がなかったから、何かあったのかと思っちゃったよ。」
「そうですか。先程までのはスリープモードと言いまして、エネルギーを温存するのに最適な機能です。また、時刻を決めておけば、その時間ピッタリに起動する事ができます。」
「あぁ、やっぱり、そういうことだよな。」
「えっと……シェラさん。もうちょっとわかりやすく言ってもらっても良いかな?」
ライトが素直に質問をしてくれた。
正直、王宮育ちの俺たちは政治の勉強や、金融。あとは基礎知識ぐらいの教養しか受けていない。
はっきり言って、適当にわかっている風を装っていたが、実際は俺にもわかっていなかった。
「ライトにも伝わるように説明すると。決まった時間に起きられる睡眠。と言えば伝わるでしょうか?」
「つまり、目覚まし時計だね。」
「はい。そのような認識で構いません。」
「と、そろそろ飯を食べなきゃだな。そろそろ移動すっか。」
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エネルギーの補給後、三人で裏口森へ歩みを進めました。
「皆、忘れているかもしれないからもう一回やる事の復習をしない?」
「あぁ、もう敵が近くにいるかもしれないから、簡潔に説明をするな。
動けなくする。朝日を待つ。これで良いか?」
「うぅ……確かにそうだけど……」
「一つ、確認したい事があるのですがよろしいでしょうか?」
「シェラ、何だ?」
「前回、どのようにして、その相手から戦線を離脱したのですか?」
少し、彼らの息が詰まったように思えた。
「いやぁ……恥ずかしいんだが、閃光弾を投げて相手が目を抑えている内に逃げ出したんだ。」
「お兄ちゃん、凄かったんだよ。私に目を閉じてろって言ってすぐに私を抱えて走り出してたんだよ。判断に迷いがないっていうか、何というか……」
「いえ、情報提供感謝します。」
「でも、前回使っちまったから相手にも対策されてるよなぁ……」
今回の話で少々不可解な点がありました。情報を整理し、いざという時に備えて演算を開始します。
そうこう言っている内に裏口森の入り口へとやってきました。
時刻は19時55分。かなりギリギリの到着のようでした。
森の入り口には、前回は確認できなかった、大きな岩があり、その上には、凹凸とした岩に腰掛けている男がいました。
「五分前到着、きっちり時間を守ってくる点は評価しよう。」
男は表情を見せないながらもニヤニヤとした笑みを想像させるような声色で話しかけてきました。
ライト、レフトを見ると、2人とも何故か、目を見開いていました。
「一つ、聞きたいことがあるが良いか?」
「ふむ。20時まで時間はある。それまでは良いだろう。」
「お前……誰だ?」
少しの間沈黙が流れた。
「ククククッ……そうか。君たちと会った時とは姿が違ったな。改めて自己紹介をしよう。私の名はロードレス!!魔王の指先の1人。10指のロードレスと呼ばれている。」
そう言うと、ロードレスは岩の上からマントをなびかせながら、私たちの方へ振り向いた
。
男は身長はおよそ2m弱。
荘厳に靡くマントに、豪華な服。ロングの髪に、片手には全長1.5mはあるだろう大剣と厳つい形相をしていた。
「待て待て待て、整理させてくれ。前回戦ったロードレスと、今ここにいるロードレスは同一人物ってことでよろしいのか?」
「あぁ、その通りだ。」
「別人とか、兄弟ってわけでもないんだよな。」
「あぁ、その通りだ。」
ロードレスも律儀に疑問に答えてくれています。
「そこの君は初めましてだな。私の名はロードレス。以後お見知り置きを。」
「私は……シェラです。」
「ふむ。シェラか。悪くない名だな。」
「と……後1分で20時だ。すきな間合いをとれ。時刻ピッタリに始める。」
「ロードレスさん、ご丁寧にありがとね。」
「いや、私のルーティーンだ。戦う相手とは戦う前にどんな相手か話しておきたいのでな。」
その言葉を最後に、周囲には緊迫感が広がっていった。
5・4・3・2・1
「スタートだ!!」
ロードレスの一声で戦闘が開始されました。作戦を遂行します。
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戦いの火蓋が切られてしまった。私はとりあえず、ロードレスと距離を取ることにした。
現在、ロードレスはお兄ちゃんの場所に向かっている。
恐らく、ロードレスは、前回何の役にも立てなかった私は無視し、前回のデータがないシェラさんとの戦闘は後回しにして、頭が回るお兄ちゃんを倒すのを優先させたようだ。
私は私の出来ることは全力で果たそうと、一先ず、森の中へと走り出した。
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右、左、縦、斜め、大剣は俺に向かって振られていく。
「レフト、どうした!!避けてばっかりじゃつまんないぞ。」
「俺には俺の考えがあんだよ!!」
「考え……そいつは、私の後ろでちょこまか着いてきやがるシェラのことか?」
流石に、魔王の指先。こんな浅はかな行動はバレちまってるか。
まぁ、こんな作戦はオマケみたいなもんだ。
辺りには、ライトの姿がなかった。
どうやら、上手く逃げ出せたようだな。
なら、別の策を講じるまでだな。
「うぉぉぉ!!」
俺はロードレスの攻撃を避けた後、盾を突き出しながら突撃をした。
「レフト、片手が自由な私にその策は無謀だぞ。
ロードレスは空いた手で盾を掴み取り、盾を手で握り潰した。
「うっ……」
嗚咽が漏れた。俺の左手の骨が粉々に潰されちまった。
「こんな小細工は通じないって前回で学習しなかったのか?」
ロードレスの握り潰した手を見ると、手の平には、盾の破片と、三本のダガーナイフが手に突き刺さっていた。
「あぁ、お前にはダメージが入らないことぐらいわかってるさ。でもな。」
ロードレスの背後から盾を握りつぶした時には20mは遠くにいただろうシェラが足音も立てずにロードレスの背後に飛んでいた。
「やっちまえ!!」
そう俺が言うと、シェラはロードレスの首に飛び移り、ロードレスの首に、傷は小さめだが、確かにダガーを差し込んだ。
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何やら首に重りが乗っているようだ。
耳元に肉を切る音が聞こえた。どうやら、小さめな何かを刺しこまれたらしい。
シェラのいたあの距離では、普通の人間の速度では、握り潰すまでの間に、ここまで近寄ることは出来ない筈。
いや、これは相手を見くびった私の落ち度だ。
いや、今はこんなことを考えている場合ではない。考えを瞬時に捨て去り、最初から今の状況を振り返ってみる。
まだ私が劣勢ではない。
シェラは、始めて会った時に手ぶらであり、尚且つライトと同じ子供だと思っていたため、閃光弾などの小細工をする道具を持っているかと思っていたが、どうやら彼女も武器を持っている武人のようだ。
その上、今の行動で、レフト以上に危険な相手であると理解できた。
最優先討伐相手はシェル。良し、考えがまとまった。
「その程度、振り払える!!」
私は握り潰した手をダガーが刺さったまま、シェラの方へと振り払おうとした。
スパッ……と手元から切れるような音が聞こえた。
左手を見ると、そこには手の平が地面へと垂れ落ちていた。
「よっしゃ!!片手を封じたぜ!!」
レフトが雄叫びをあげるかのように叫んだ。
確かに、あの時、レフトの手は握り潰した。
本来、ダガーを握ることは出来なくなり、慣性を考えれば、手の平にダガーが突き刺さったままシェラの方へと手を振り払えると思っていた。
レフトの左手を見ると、盾の破片が刺さり、粉々に砕かれ大量の血を流した手とも呼びにくい肉片があった。
もう、握ることは出来ない筈なのに肉片にはダガーがしっかりと固定されていた。
「お前が手紙を出してくれたのがヒントになったぜ。」
彼の手であったものには、接着性のものとダガーの持ち手と強力に肉片とくっついていた。
「これでお前の片手は使えねぇ。それに、大剣なんて持ってればもう片方の手も大剣を手放さなきゃ、シェルを対処する事はできないだろ!!」
きっとこれは、私から武器を取り上げるための挑発だ。
この武器は人間ごときの力では持ち上げることすら不可能だろうが、相手はレフト。悪知恵が働く。
武器をもし何らかの方法で奪われたらそれこそピンチだ。
どうする。体を動かして振り落とそうとするか……
いや、もしシェラが首に張り付いたままだったのなら、余計に首に傷を入れることになる。
ならば………何か、他に手は………
レフトは自分の身を犠牲にした。そうだ!!
私もこの状況を解決するためにやらなければいけない!
そう思い、大剣を握っている右手を振り下ろし始める。
「うぉぉぉ!!」
「まさか、大剣でシェラごとやっちまうつもりか!?」
首ごと大剣で攻撃するなんて自殺めいたことをする気は甚だない。
流石に私も生物である性はある。まだ生きていたい。
「何で……どうして、ロードレスは自分の足を切ってるんだ?」
私は左足の半分ぐらいまでを大剣で切れ込みを入れた。
そして、私は、左足を思いっきり後ろへと振り上げた。
「推測。私への攻撃と推測。回避を行います。」
あと一歩のところで回避されたが、何とか首から振り落す事はできた。
しかし、左足は振り上げた衝撃でシェラの先程までいた首元を通過して空へと放たれていった。
しかし、左手と左足を失った状況でこの2人を相手にするのは部が悪い。逃げ出すタイミングを図らなければ。
また完全な体があれば、私は何度でも抗う事はできる。
今は、じっくりと相手の行動を伺う時だ。
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ロードレスの動きが止まった。
どうやら、俺たちを警戒しだしたようだな。
時刻は既に22時に差し掛かっていた。
そろそろだな。
「お兄ちゃん!!戻ったよ!!」
妹の位置は分からないが、確かに大きな声が聞こえた。
森の方からはドドドドッとした走り声が鳴り響いていた。
ライトはあそこにいるんだな。
そろそろか。
シェラはライトの声を聞き、一度背後に後退していった。
後は、俺がコイツを少しだけ引き止めるだけだが、既に左手は無くなっちまった。
武器もこれと言えるもんはねぇ。
閃光弾はあるが、盾で光を防げない以上、俺ももろに食らっちまう。あれを使えば多少は光を防げるだろうが、気休め程度だろう。
だが、コイツを引き止めるためには仕方がねぇ。
やるしかない!!
ポケットに手を入れ、
ロードレスの顔に向かって閃光弾を投げ、そのままの手で顔を覆った。
「そんなもの、何回も通じると思うなよ。」
ロードレスは大剣で閃光弾を瞬時に叩き潰し、閃光弾が炸裂したのは、地面に押し込まれてからだった。
その上、大剣は俺のいる方角に向かって刃を浮かせていたので、俺だけがもろに光を食らう状況だ。
また失敗かよ。
下手したら一日は目が使えないし、失明することもある。
目が使えなかったら、ロードレスに殺されちまう。
「申し訳ないが、撤退させてもらう。お互いこれでおあいこだろ。」
クソッ……俺はもう何もできねぇよ……
これも多少はマシになるだろ。左手を軽く覆い止血を始めた。
後は……やることねぇな。
せめて、邪魔だけは避けようと、その場で俺は蹲った。
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「シェラさん、投げて!!」
山に入って登るのに1時間弱、そして、今まで30分間、悲鳴をあげながら走り続けていた私は既に体力は限界だった。
そして、残りの力を振り絞って全力でシェラさんに向かって叫んだ。
もう私にやれる事は残ってない。疲れた。
私は体の力を抜いて音を立てないように静かにその場に倒れこんだ。
後はもう眺めるだけだね。
ドーンッ!!という擬音が最も適切だと思うほどの、大きな音が遠くから鳴り響いて地面が揺れた。
シェラさんって本当に凄いなぁ……ちょっとだけ休憩しても良いよね。
そっと私は目を閉じた。
ロードレス戦に入りました。この戦いの決着や、レフトとライトの2人はどうなるのでしょうか。
あらかた予想がついていると思いますが、続きは次回に持ち越させてもらいます。