参
「お前ら、遅かったじゃないか。ライトに何かあったのかと思って心配だったぞ。変なこととかされてねぇよな。」
部屋に戻るとレフトが此方に近寄ってきました。
「うん、何もされてないよ。それでね、お兄ちゃん、シェラさんって魔力がないみたいなんだよ。」
「魔力がない……そんなことも…いや、あるか。」
先程のライトの発言から、此方の世界では全ての生物は少なからず魔力を持っているらしい。
多少なりとも怪しまれると推測していましたが、推測が外れてしまったようです。
「んじゃ、俺は風呂に入ってくるから、ちっと待っててくれ。」
レフトが部屋を出ていったのを見計らってライトが声をかけてきた。
「シェラさんって、同じ服を着てるけど他に服ってないの?」
「はい。私はこの服以外を所持していません。」
「だよね。私も召喚される所は見てたからね。そうだ!!この村長さんの家には前もお世話になったことがあって私の服を置かせてもらってるんだけど、シェラさんさえ良ければ、私の服を着てみない?絶対似合うと思うんだよね。」
ライトは上目遣いでこちらを見つめてきています。
「はい、わかりました。ですが、ひとつ聞きたいことが。この服は実用性が高いので洗濯をすることは可能でしょうか?」
「うん!ついでに村長さんに洗濯のことを伝えておくね。じゃあ、私は服を持ってくるから脱いで待っててね。」
ライトは、今までで1番楽しそうに走っていきました。
1分も経たないうちにライトは戻ってきて服を置いていったかと思うと、すぐに私の服を持って走り去っていきました。
目の前には、全体的に黒く肩部分が露出している服と、赤いスカートが目の前に置いてありました。
「すっごい可愛い!!やっぱり元々の素材が整っている者に、可愛い服を着せるともっと可愛く見えるね。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「戻ったぞ~。って服変わってるやん。」
「お兄ちゃん、シェラさんのことどう?可愛いでしょ。」
「まぁ、及第点ってとこだろうな。」
「ノルマ達成ですか。ありがとうございます。」
そんな話題が続いて盛り上がっているうちに外はすっかり暗くなっていった。
「そろそろ時間だし、消灯するぞ。」
「うん、お兄ちゃん、シェラさんおやすみ。」
「はい、おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみだ。」
ものの数分でライトのベットからスヤスヤとした寝息が聞こえてきた。
私もスリープモードでエネルギーの節約を…
「ちょっと外着いて来てもらって良いか?」
小声でレフトが私に話しかけているようだ。
私は無言で頷くと、2人は音を立てないように扉を閉じた。
しばらく歩いて柵の突き当たりに当たった辺りでレフトは足を止めた。
「シェラ、お前は何者だ?」
レフトは先程までの態度とは違い、冷徹な眼差しで此方を睨みつけてきた。
「お前、バイシンから逃げる時、お前が来んのが遅いからお前が襲われてんのかと思ったけど、その後響いたあの音の大きさ。あれは木を切り倒した音だろ。
音に反応するって伝えた後にパニックにならずに、あの思考速度。すげぇんだな。って思った。」
淡々とレフトは物事を語っていく、先程までとはまるで別人のようだった
「ダガーの時もそうだ。避ける動作の後に瞬時に受け止めることを選択した。ここまでは良いが回避の動作からすぐにライトの帽子を奪い取る判断、そして成功させた。あの短い時間でだ。並の人間ができるもんじゃねぇ。」
「それに、お前はあんなに後ろから俺らを追いかけてきたのに息一つ上がらない所か、汗すらかいてなかったよなぁ。握手した時は人にしては妙に硬い手だったし、おまけに魔力がないときた。今まではライトのことを思って見過ごしてきたが、お前、実はモンスターじゃねぇのか?」
レフトはそう言い終わると、左手に盾を取り出していた。他に脅威となりそうなものと言えば、ズボンの両方のポケットが少し膨らんでいるように見える。
其方にも注意する必要があると判断しました。
「お前を殺したらライトが悲しんじまう。だから正直に答えてくれ。シェラ、お前は何者なんだ?」
「筋の通っている推理、驚きました。レフトのことを甘く見ていたようです。その通り、私は人間ではありません。」
その言葉を聞いて、レフトは直ぐに此方に突っ込んできた。
「あぁ、やっぱりそうなんだろ!!お前は俺らを騙してたんだろ!!」
レフトは盾を構え此方に突撃をしてくると推測し、防御しようと構えてましたが、目の前で地面に盾を叩きつけ、私の方向に土を巻き上げてきました。
「いえ、別にお2人を騙していたつもりはありませんが。」
「あぁ?そういや、すぐに俺らの言葉を話してたよなぁ。元々この世界にいたんだろ。でも、魔力も使えねぇ、人間でもねぇってじゃあお前はなんなんだよ。」
目眩し目的で巻き上げたと推定され、肉眼の生物であれば食らっていたであろう、不意打ちを1歩下がることで回避に成功しました。
攻撃をした後にレフトは隙をつかれないようにと、直ぐに後方に避難しました。
レフトは、戦いには非常に冷静な動きをしていますが、頭脳の冷静さはかけてしまっていると推測できます。
この状態では口論での解決は困難と推定、実力行使に変更します。
「話し合いでの解決は難しそうなので、最後に質問をしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ?なんだお前。命乞いではないよな。お前は今まで戦ってきた中でも強ぇ、何なら幹部とも相性次第じゃ互角に戦えそうだ。」
「レフト。貴方は私の敵ですか?」
「そいつは、お前の答え次第だよなぁ。正体をさっさと吐きやがれ!!」
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コイツは間違いなく強い。だが、同時に不可解な点も多い。
先程から此方は隙を多少は作っているように攻撃の動作をしている。
しかし、シェラ程の実力であれば、隙をついて反撃くらいはできそうなもんだが、此方に攻撃をしようとせずに、回避に専念しているように思える。
何なら、対話で穏便に事を済まそうとしているようにすら感じる。
クソが!!お前も俺の事を……
しかし、此処で何か起こっちまったら、ライトに影響が出てしまうかもしれねぇ。だから、俺はこの戦い、そんな簡単に引けねぇんだ。
それに、まだアイツには奥の手もバレていないだろう。
「うぉぉぉ!!」
声を上げて走り出した。
これでは周りの住民も起こしちまうかもしれねぇが、それでも構わねぇ。
仮に、俺をコイツが殺そうとしてるところを住民に見られたら妹はコイツとの縁を切るだろう。
っと、その前にさっきの回避は偶然か必然かの確認だ。
ズボンの左ポケットに右手を突っ込んで球体のものを取りだし目を瞑りながら、盾を顔付近に近付け、シェラに向かって投げつけた。
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「クッ……」
「この光、使用方法……閃光弾に似た何かと推定。此方の世界にも、元の世界と似たような武器があると仮定します。」
俺は目を瞑って、盾で前方の光を遮ってもちっとクラクラしてんだぞ。
何平気な顔して解説してんだよ……
でも、目眩しが効くのならこの攻撃は避けれない筈だ!!
そう思い、俺は全力で前方に向かって盾を構えて飛び込んだ。
しかし、シェラに当たることも無くそのまま地面にうつ伏せに倒れ込んでしまった。
チクショォ……これも効かないってことは、何を使って状況を把握してんだ?
倒れ込みすぐに立ち上がれないこの大きな隙に乗じたのか、シェラは後ろからのしかかってきた。
「クソっ!!」
わざとらしく大きな声をあげ、左手は盾を持ったまま、右手は右ポケットに近づけて、バレないように物を取ろうとした。
「そこまでです。レフト、無駄な抵抗はやめて、素直に話を聞いてください。」
シェラは不審な動きをした右手を抑えつけてきた。
内心で俺はほくそ笑んだ。かかったな。
俺は左手をものを掴んだまま、シェラに向かって振り上げた。
「ダガーナイフですか。大きさは私が貰ったものより一回り小さく10cm程。盾の持ち手にずっと隠していたのですね。
このサイズであれば、動きの邪魔になりませんし、隠し持つことも用意で、合理的と判断します。」
確かに、シェラの体に当たったと思ったのだが、何故かダガーが弾き返されてしまった。
何かで防いでいたのか。俺は倒れ込んでいたため状況が分からなかった。
「私の正体は人型自動学習戦闘AI。レフトにわかるように伝えると、機械と言った方が分かりやすいと判断しました。」
機械が独りでに考えて勝手に喋って動くだと?
笑える冗談だ。俺の知ってる機械は全部、魔力を感知することをトリガーに動き出すっつうのに、魔力が必要ない所か、俺らと対して変わらないように感じる。
「ははっ、お前のいた世界って凄ぇんだな。」
「先程までの言動とは大きく変わっていると判断しました。何故でしょうか?」
「そんなの、この状況だぞ。いつ殺されてもおかしくない。信じる他ねぇよ。」
「わかりました。拘束を解除します。」
そういうとシェラは服に付着した泥を払いながら、俺から離れた。
「とりあえず、今俺が判断したことは、お前は敵ではない。これだけで良いか?簡単だろ。」
「はい。」
色々不可解な点はあったが、それらは、俺らの世界に魔力があるように、シェラの世界にとっては当然のことなのだろう。
そう思い込むことにした。そう思い込まねぇと、次もきっと何かあった時に冷静さをかいてしまう。
「とりあえず、一区切りついたわけだし、これで終わりにしよう。」
俺が手を差し出すと、少し時間が経ってからシェラは手を握ってきた。酷く冷たく硬い手だった。
「改めてよろしく頼む。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「後、ライトに何かしたら許さねぇかんな!!」
そんなことを言ってる内に、大騒ぎになっていたようで、外で警備をしていた人も含めて村の全員が武装した形で俺らの元に駆けつてきた。
「レフト殿。敵襲ですか?一体敵はどちらに?」
「たくっ……敵なんかいねぇよ。ちっと俺らが暴れてただけだ。」
「左様でございましたか。では、我々は失礼致します。」
そう言って、集まってきた村の村民が散り散りに去っていった。
「お前らにもちっとばかし迷惑かけたな………村長、村民、俺らが迷惑かけて申し訳なかった!!」
俺が頭を下げると、全員が驚いたような顔をして、周囲から「気にしなくて大丈夫ですよ。」などといったニュアンスの声が聞こえてきた。
村の人達が帰った後に、ライトが俺の元にやってきた。
「お兄ちゃん、シェラさんと何してたの!!」
妹は顔をふくらませて俺に向かって怒ってくる。
「いや、些細な事だ。なぁ、シェラ。」
シェラの方に苦笑いで顔を向けた。
後は、シェラが空気を読んでくれることを願うしかない。
「もう夜も遅いので、簡潔に説明します。レフトに襲われました。」
「その言い方には誤解があんだろ!!もうちょい詳しく説明しろよ。」
妹が軽蔑したような目で見てくる。やめてくれそんな目でお兄ちゃんを見てくるのを。
「はい。互いに戦った結果。私がレフトの上に乗り勝利しました。」
「やめろ!!余計ややこしくなるだろ!!」
「お兄ちゃん、幾らシェラさんが可愛いからってそれは人間としてどうかと思うよ……」
妹がお兄ちゃんから離れて言ってしまう!!気持ち的にも距離的にも、やめてくれ!!それは精神的にお兄ちゃんに効く……
妹は俺から徐々に離れていき、シェラは服に着いた泥を叩いていた。
待てよ。あの服……確か……
「って!!私の服が泥だらけだよ。どうしてくれるの!!」
「すまん。許してくれライト。この通りだ。謝罪は幾らでもするし、新しい服も2人に買ってやる。」
全力で頭を下げ、ひたすらに平謝りをした。
「レフト、私のいた世界には、謝罪をし、誠意を見せるために行う行為があります。」
「そうなのか!?それは一体どんなものなんだ?」
「これは、日本という国で行われていた土下座という謝罪方なのですが、両膝を地面につけ、両手のひらを地面につけ、額も地につけて、この状態をキープしてください。」
妙におかしなポーズだと思っているが、この際藁にもすがる思いだ。やってやる。
「おいシェラ、これはどんな意味があるんだ?」
「データを検索中。結果が出ました。武家社会においては、[斬首されても異存は無い]という意味を持つらしいです。」
「おいっ!!てめぇ何俺にさせてんだよ。」
「ふふっ……2人ってこの前よりも凄く仲良くなったよね。良いよ。シェラさんに免じて許してあげる。」
ライトは俺らを見て笑ってくれていたようだ。
内心、ものすごく冷や冷やしていたが、ひとまずホッとした。
「但し、私たちに新しい服を買ってよね。勿論お兄ちゃんのお金で。」
はぁ……これでまた、お金をやりくりしないとだな。
「シェラさん、明日で良いから、もうちょっと詳しくお兄ちゃんと何があったのか聞かせてね。」
「はい、わかりました。」
色々失ったものも大きかったが、得たものも確かにあった。
今の経験からこの3人で何が出来るのかを考えなきゃだな。
「お兄ちゃん、さっさと寝るよ〜!!」
「あぁ、悪い今行く。」
まぁ、今日の所は素直に寝ることにすっか。
体も頭も動かしすぎてちっとばかし疲れたからな。
今作はレフトの掘り下げに焦点を絞りました。
拙い戦闘描写は上手く伝わっているのかが不安ですが、伝わっていたら嬉しいです。
では、また次回でお会いしましょう。