弐
城を出て、荘厳な階段を降りると、店がいくつも隣接されている城下町が広がっています。
過去の記録から商店街という言葉が一番似ている光景であると判断します。
「レフト様、ライト様。いってらっしゃいませ。」
「行ってくるね。」
道ゆく人からレフト、ライトは声をかけられています。
ライトは愛想良く手を振りながら挨拶を返しています。
レフトは相手を無視して道をただ進んでいきます。
そんなことが続き10分程歩いていると、街を取り囲んでいる門の付近まで辿り着きました。
周囲を確認、先程までの道と違い人通りも10%ほど増えたと断定します。
「悪いが、ちっとばかし待っててくれないか?」
「うん。シェラさんも良いよね?」
「はい、承知いたしました。」
返事も聞かずにレフトは近くにあった寂れた小屋の中に入って行きました。
「ごめんね。お兄ちゃんは普段は優しいのだけど、この前負けちゃったのが相当悔しかったのかな……」
「はい。感情についてのデータもある程度は管理していますので、私を気遣う必要はありません。」
「そう言えば、シェラさんって変わった話し方をするよね。シェラさんのいた所だと、その話し方が普通なの?」
「否定します。この話しk…」
「すまん、もう準備は出来た。ほれっ」
レフトは勢いよく小屋から出てきた。
それと同時に、此方に向かって何かを投げつけています。
推測、鋭利な形をした小柄な物体、30cm程のもので、ダガーであると断定。
「シェラさん、避けて!!」
お願いを承認、回避を……
「お願いを破棄します。」
ライトの被っているベレー帽を奪い、両手で端を持ち広げ、ダガーの射線上に帽子を構えます。
速度を減速させることに成功しました。
「ライト、謝罪します。ライトのベレー帽を損傷させてしまいました。」
「気にしなくていいよ。悪いのはお兄ちゃんだから。
そして、お兄ちゃんは何をやってるの!!」
「悪い悪い、シェラって見た感じ丸腰だろ。武器がいるかと思ってな。これが鞘だ。それを好きに使ってくれ。」
そう言うと、ライトはレフトに向かって怒鳴りつけて、レフトは頭を下げながら謝罪をしているようだった。
ダガーは鞘にしまいズボンのポケットに入れた。
「ライト、すまん。ベレー帽傷ついちゃったよな。この金で買ってこいよ。」
「お兄ちゃん、大事な金をこんなことで使わせないでよ。」
「いいから、さっさと買ってこいよ。2人で待ってるからよ。」
レフトは背を押して、ライトを近くの店に押し込んだ。
「さっきのは悪かったと思ってるが、シェラだっけか?聞いても良いか?」
レフトは逸早く店から出ると、私の元に近寄り小声で話しかけてきた。
「はい、構いません。」
「お前さっき避けようとしてたのに、何故急に受け止めたんだ?」
「人通りが多くなっているので、後方に人物がいる可能性があったためです。」
「そうか。変なことをして悪かったな。これからは女同士でしか話せないこともあるだろうし、ライトを頼む。」
レフトが私に手を差し出しています。
データからこの状況で求められているものは握手だと断定しました。
「此方こそ、お願いします。」
レフトは握手をした時に一瞬顔色が変わったように思えた。
「お兄ちゃん、もう仲直りしたんだ。流石私のお兄ちゃんだね。シェラさんも許してくれてありがとう。」
ライトは先程と同じ種類のベレー帽を頭に被り店から飛び出してきた。
「これで準備は出来たよな。じゃあ、行くか。」
3人は街を飛び出していった。
街から出てすぐに、草木が生い茂っている森に出ました。
「この森を突っ切れば近道だが、少しだけ危険な道だ。迂回するか?」
「迂回時のタイムロスはどのぐらいかかると推測されますか?」
「ざっと、一日ぐらいだな。」
「えー……野宿するの?」
「そいつは返答次第だが、どうする?」
ライトは何かを訴えかけるような目で此方を見てきました。
「では、森を進みましょう。」
「やったー!!」
「ったく……」
3人は森の中に入っていきました。
他愛のない会話を続けながら、獣道をしばらく進んでいくと
「待て、何かいる。」
戦闘を進んでいるレフトが手で道を塞いだ。
前方を確認、35m程先の木の上に背中には星のマークが付いていて、全身が緑色。フェレットに姿が類似している生物を発見しました。
「姿を確認しました。進んでも大丈夫でしょう。」
「待てって言ってるだろ!!」
前方に移動しようとすると、襟首をレフトに掴まれました。
「お兄ちゃん、声が大きいよ。」
すると、仮称フェレットが宙を飛び、此方に向かって飛んできました。
「気づかれたか……」
レフトは盾を目の前に構え、ライトはレフトの背後に隠れている。
すると、レフトの盾に向かって飛んできた仮称フェレットは口を大きく開けて盾に向かって噛みつきました。
「ライト、やれぇ!!」
レフトが叫ぶと、ライトは頷きながらフェレットに盾と挟まれるような角度になるように杖を叩きつけました。
フェレットは杖と盾に胴体が圧されて地面に力なく落ちました。
「すまん。説明してなかったな。コイツらは魔王の手下のモンスターだ。他にも色んな姿のやつがいるから何かを見かけたら注意して動いてくれ。」
「さっきのはバイシンって言うモンスターで、音で相手を発見して襲ってくるモンスターなんだ。次から気をつけてね。」
「つまり、人やデータに記録されている動物以外にも敵がいるのですか?」
「お前の世界がどんなとこだったか知らんが、此処には俺たちもまだ知らない色んなモンスターもいるし、何かがいたら注意してくれ。」
私の戦闘データには、人間や兵器に対しての記録が多かったですが、データをアップデートする必要がありそうです。
「待ってください。先ほど、レフトさんは注意を引くために叫びました。別の個体のバイシンに襲われるかと推測されますが。」
周囲を確認中、半径50m以内に、10匹以上の生物を確認。
大きさから、全てバイシンと推定します。
「正面突破でいくぞ、ライトは俺の後ろ。シェラはその後ろを頼む。」
「お願いを承知しました。」
「もしかして、走るの?」
「それしかないだろ。行くぞぉぉ!!」
レフトは掛け声とともに盾を前方に向けたまま、森に駆けはじめました。
レフトの速度は盾を持っているため、余裕を持って追いつける速度と断定。
ライトはレフトの後に続いて走り出しました。
私は近くに落ちていた太い枝を拾い。近くの細くてでかい木を切り倒してから走り出しました。
30分ほど走ると、既に森を出ていました。
レフトは汗を少々かいており、ライトはその場に座り込みました。
「疲れたぁ……シェラさん、大丈夫だった?」
「異常は確認されていません。」
「凄い!!汗ひとつかいてないじゃん。ダガーを受け取った時も思ってたけど、シェラさんの世界ってこんなに動ける人たちばっかなの?」
「いえ、私は…」
「てかよぉ。シェラは、一緒に旅する仲間なんだし、俺らにそんな固い言葉を使うなよ。タメでいこうぜ。」
固い言葉……
「そうだよ。シェラさん、タメで私たちに話しかけてくれて良いんだよ。」
データからタメに関することを検索中。検索結果、敬語を使わない話し言葉と断定。
「了解した。」
「そういうことじゃねぇんだよなぁ。そんな固い言葉じゃなくて、[了解した]、とかを[わかりました]とかそういう柔らかい表現に変えてくれないか?」
柔らかい表現……
「わかりました。これで良いでしょうか?」
「うん。シェラさんって可愛いから、そっちの方が可愛く見えるよ。」
「まぁ、まだ固いけど、最初からは流石に難しいか。」
「ライト、そろそろ動けるか?」
「うん。待たせちゃったよね。動けるよ。」
レフトはライトに手を貸して、ライトを立たせ、道に沿って歩き始めました。
しばらく歩いていると日が暮れてきていました。
「日がくれたらまずい!!ちっと走るぞ。」
レフトの指示で走り出して数分で、前方約500m程先に灯りが確認できました。
「あそこは、小さな村だ。今夜だけでも泊めてもらおう。」
程なくして、村には到着しました。
村は木の柵で囲われていて、視認でも確認できる程小さな家が10軒ほど確認できる小さな村でした。
そこの入り口には、1人の警備兵が高台に立っていました。
「すみません、ちょっと良いですか?」
「これは、ライト様とレフト様ではないですか。そちらの方は?」
ライトが声をかけると、警備兵は此方に指を向けてきた。
「この子はシェラさん。私たちの旅に一緒に来てくれる仲間なの。」
「お二方のお仲間様でしたか。申し訳ございません。どうぞ、お入りください。」
レフトは機嫌を悪そうにして村の中に入っていき、2人はその後についていきました。
村の中では一番大きな家に着き、ライトが扉をノックし始めました。
「ごめんください。村長さんいますか?」
声をかけると、中からバタバタとした音が聞こえ、すぐに扉が開きました。
中からは推定70歳ほどの老人が出てきました。
「これはこれは。ライト様とレフト様ではないですか。ご用件はなんでしょうか?」
「一晩泊めてほしいのだけどよろしいですか?」
「はい、すぐに部屋を用意しますね。 おや?そちらの方はお連れ様ですか?」
「うん!!シェラさんって言うの。」
「シェラ様というのですね。では、お部屋はもう一部屋多く用意した方がよろしいでしょうか?
「この村に空いてる部屋は一室しかないことは分かってんだよ。村長の部屋を奪うわけにはいかないし、一部屋で十分だ。」
「左様でございますか。では、此方の部屋をお使いください。来客用のベットは2つしかありませんので、もう一つ持ってきますね。」
そう言うと、仮称村長と呼ばれる老人は向かいの部屋の中に入っていきました。
「お言葉に甘えて、入ろっか。村長さんは良い人だからシェラさんも遠慮せずに休んで良いからね。」
「わかりました。」
ライトは、私の手を引いて扉を開け、レフトは無言で部屋に入っていきました。
部屋は4畳の小さな部屋に子供サイズのベッドが二つある、小さな間取りの部屋でした。
しばらくして、村長が部屋に布団を持ってきて、空いたわずかなスペースに布団を敷いてくれました。
「大したものは出せませんが、お夕飯はどういたしましょう?」
「余り物で大丈夫だ。俺たちが突然泊まりに来たからな。」
「了解しました。すぐに用意いたします。」
村長は、部屋を出てすぐに、事前に用意していたであろう、冷えた野菜や、焼いた肉と、具のない汁物を持ってきました。
「村長さん。ありがとね。」
「いえ、些細なものしか出せず申し訳ございません。食べ終わったら食器は部屋の前に、風呂はこの部屋を左に曲がってすぐにございますので、ゆっくり休んでいってください。何かありましたら遠慮なくご申し付けください。」
「えぇ、村長さんおやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
村長はそっと扉を閉めていった。
3人は食事を取り始めました。
私は、食事でもエネルギーを取り入れる事が出来る様に設定されていたので、出された物をいただきました。
「お前ら、食べ終わったら先に風呂に入ってきて良いぞ。俺は後から入るから。」
「うん、ありがとうお兄ちゃん。シェラさん、行こっか。」
「わかりました。」
ライトは何度も来たことがあるようで、迷いなく風呂場に向かって歩き出しました。
風呂場に到着。
「シェラさんも早くきてね。」
ライトはすぐに服を脱ぎ浴場に向かっていきました。
私も服を脱ぎ始め、後を追いかけます。
中は4人ほどが入れるスペースの浴場と、譜面台のような形をした機械が設置されているのでした。
「シェラさんってこれわかる?」
ライトは仮称譜面台を指差して聞いてきます。
「すみません、用途がわかりません。」
「そっか。シェラさんの世界にはなかったんだ。見てて。」
そう言うと浴場から上がったライトは譜面台の楽譜を置くであろう場所に手を翳しました。
すると、ライトの頭上からお湯が現れ、頭からかかっていきました。
原理は不明ですが、データからシャワーと同じ用途であると推定。
「これはね、シャトルワープっていってね。シャワーって略す事が多いんだけどね。
この村の建物の一つにお湯を作ってる施設があって、これに手をかざすと、魔力を感知して上からその施設からお湯をワープさせてくれるんだよ。使ったお湯は洗浄してまたお湯に使われるらしいんだ。」
「魔力とは何ですか?」
ライトは目を見開いて驚いたように此方を見つめていた。
「あっ……ごめん。そっちの世界だと魔力ってないんだね。魔力っていうのは、生物は少なからず持っている力で、その力を用いて魔法を使ったり出来るんだけど、人は生まれつき魔力が小さくてまともに魔法を使えないんだ。魔力を感知して特定の魔法を発動させる機械を使えば魔法を使えるんだけど、今は特定の動作を行うようにする機械しか作れないんだ……」
この世界特有であろう、データを記録しました。
作らないということは技術力の問題でしょうか。
「まぁ、考えるよりやってみよう。手を翳して、手を離すとお湯が止まるからね。」
ライトは私の腕を掴んで機械に翳させます。
「あれ?どうしたのかな。」
しかし、頭上からお湯が現れることはありませんでした。
「壊れちゃったのかな。ちょっと良い?」
私の手をどかして、ライトが手を翳すとお湯が出てきました。
「う〜ん……よく分からないけど、外の世界の人は魔力が持ってないってことなのかな?シェラさん、じゃあ私と一緒にお湯を浴びよっか。」
ライトは私を抱き寄せて手を翳し、2人でお湯を浴びて浴槽に入りました。
会話多いのは許してください。描写の表現が苦手なんです。
今回はプロローグの続きみたいなもので、次から本格的に話を進めていきたいです。
次回はとあるキャラの掘り下げをやっていこうと思っています。
次回も読む気がありましたらまたよろしくお願いします。