拾伍
ある日男は奇妙な人物をアタシの元へ連れてきた。
「ほう、君はヒマワーお坊ちゃんだな。」
そこに来たのはベレー帽を被り、スーツ姿のビシッと決めた服装にボストンバッグを抱えている者の姿ではあったのだが、頭に当たる部分にはスピーカーのような部位があった。
「ふむ。突然名前を言って怖がらせてしまったかな?
おじさんの名はスプラッター。何処にでもよく居るおじさんだ。
では、改めてはじめましてだね。」
そう言ってスピーカー頭のおじさんはベレー帽を頭から取り軽く礼をした。
アタシはとりあえず、顔で礼を返し、
「……アタシはヒマワーです……よろしく。」
と社交辞令を返した。
商人の方へ目配せをすると、まるで知らないかのように視線を逸らした。
「スプラッターさんって」と言いかけた時に、スプラッターさんはアタシの口を動かさないように閉じた。
「君はしっかりとした男の子だ。無理にそんな言葉を使う必要はないぞ。」
と言ってくれた。
とりあえず今は、その言葉をそのまま受け入れることにした。
「そうだね。じゃあ、スプラッターさんはインチムと知り合いなの?」
そう目を商人の方へと向ける。
スプラッターさんは困ったように手をスピーカーの下に置き、考えるような仕草をしたあと
「ふむ。端的に言えばおじさんが襲われたというのが正しいだろう。」
商人の方を見ると、無言を貫き通している。
饒舌な商人が口を閉ざしている姿を見るにきっとそうなんだろうと納得をした。
スプラッターさんは簡潔な出会いを話してくれていた。
仕事帰りに散歩をしているところで、インチムに襲われたこと。
すぐに返り討ちにし、事情を聞いたところアタシが気になったのでここへ連れてきてもらったようでした。
「次に、どうしてスプラッターさんはアタシの名前を知っていたの?」
それを問うと、スプラッターさんは急に困ったようにスピーカーの音が曇っていった。
時が数刻経ってようやく理由を教えてくれた。
「気持ちの良い話ではないと思うが、それでも良いか?」スプラッターさんの言葉に頷くと。それが合図となりスプラッターさんは長々と喋り始めた。
「おじさんがお坊ちゃんの名前を知っていた理由何だが、仕事絡みの理由なんだ。
おじさんは殺し屋という仕事をしていてな。
おじさんは仕事をする前に必ず相手の情報を調べておく。
相手の職業、家族、行動パターン、趣味など、他にも様々なものを数日かけて調べていく。
この辺で察しが着いたのかもしれないが、その日おじさんに入った仕事は、ヒマワーお坊ちゃんの父親を殺すという仕事だったんだ。
依頼者は伏せさせてもらうが、そいつは嫉妬を強く抱いており、女王の夫という立場に着いた君の父親を酷く憎み、依頼を要求してきた。
積まれた金も金だったからその仕事を受け、見事殺すことが出来た。
仕事のためとはいえ、君の父親を殺した事は誠に申し訳ないことだと、取り返しのつかない事だと、この仕事をしている以上大変に存じているつもりだ。
許されるとは鼻から思っていないが、すまなかった。」
そんな事をスプラッターさんは語っていた。
その話を聞いて、物心つく前に姿を消した父親の理由が、アタシのせいじゃないと知れただけでも内心心を押し潰していた心の重りがひとつ取れた。
「いえ、気にしてません。ですが、その代わりにスプラッターさんに聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
スプラッターさんは少し驚いた様子をしていた。
「ほう。何かね?おじさんを一発殴らせてほしいとかなら謹んで殴られるが?」
軽快にそんな事をいうスプラッターさんに対してアタシは
「殺しにお金は何円かかりますか?」とだけ問うた。
スプラッターさんは先程までの陽気な言動はなく、
低く冷酷な声色で「貴様は言っている意味を理解しているのか」と返してきた。
私はすぐに力強く頷き続きを語った。
「アタシは母が。住民が、そして生まれ育ったあの国が憎いです。後日、国を滅ぼしますので、そのためのお手伝いをお願い出来ないでしょうか。」
私の言葉と目を見て、スプラッターさんは言葉を紡いだ。
「君はまだ若く、きっと、これからも今までの悲しみを覆せるほどの喜びが来るであろう。
それを自らの手で汚し、未来を潰してでも君はそんな事をしたいのか?」
私は「はい」と即答をした。
そんなアタシの様子を見て、これ以上何を聞いても返答は変わらないだろうと参ったのか。
スプラッターさんは先程のような穏やかで陽気な声色に戻って、
「そうかぁ……それほどの覚悟があるならおじさんは君のことを止めはしないが、依頼料は君のような子供では払えそうにはなさそうだな。
おじさんへのお金はすっごく高いぞ〜。」
といって、依頼の件についてらはぐらかされてしまった。
それ以外の話であれば、スプラッターさんの持ち物についてや普段のことなどを聞いて雑談をし、気づけばあっという間に1日が経ってしまった。
スプラッターさんは去り際に、少し高級そうな食材を「楽しませてくれたお礼だ」といって置いて去っていった。
スプラッターさんが帰るのをしっかり確認してから商人は緊迫した状況から一気に解放されたかのように気を緩めていた。
「あの人とあんなに平然と話ができるなんてヒマワーって度胸あるな。」と言った話で商人と盛り上がった。
そんな事もあったな。と過去をふりかえってみた。
なんせ、いよいよ今日は国を滅ぼす当日であり、過去に殺し屋の人と喋った経験は少しでも生きるかもしれなかったためだ。
体はすっかり治り、多少のリハビリを踏まえてある程度は以前のように動けるようになった。
商人はえらく緊張しているようで深呼吸を繰り返していた。
「いよいよ。今夜決行だな。」
「今だから言えるけど、わざわざアタシの世話をしてくれてありがとう。」
「いいや、どうせ行く宛てもなかったし、あんなの1種の気まぐれさ。アンタはヒマワー自身の運に感謝しな。」
この数ヶ月で随部と商人とも打ち解けた。
あとは、今夜の成功を祈るのみだ。
スプラッターさんについては連絡が取れないし、以前断られてしまったために、実際に大きな事件を起こしたことの無い2人にはきっと、かなりハードルの高いことを実行するのだが、今はこれを成功させる他ない。
現在の時刻は24時半。決行は25時だ。
アタシは平然なように振舞っているが、内心すごくドキドキしている。
緊張を和らげるために必死に言葉を呟き続けていたが、遂に決行の時間となった。
2人は正門に向かって走り出した。
今までの調べから、きっとこの時間は見張りがウトウトとしている時間だ。
この時間は見張りが一人しかいなく、尚且つ8時間勤務の中の7時間目に差し掛かるところで、普段からこの見張りに関しては眠っているかのように全く動いていない。
今宵も見張りは同じでどうやら門へと向かってくるアタシ達に気づいていないようで、アタシは見張りの持っていた剣を拝借し、足音を殺して白の中へと入り込んだ。
アタシは片手に剣を持ちで、商人は松明を両手で持ち城門へと入っていった。
城門へ入ると街は寝静まっていた。
アタシは真っ先に母のいる場所へと向かい、商人は指示通り、近くの家に向かって松明をなげつけ放火を始めた。
そんな姿を横目にアタシは駆けていった。
母のいる部屋にたどり着くために、建物の中へと向かい、まずは、建物の中で暗闇に隠れて背後から1人ずつ見張りを殺した。
当初の想定よりも大分簡単に殺すことが出来た。
もう少し苦戦するかと思っていたが、随分とこの国の治安は良いようで見張りたちはあまり体を鍛えているようには感じられなかった。
母の部屋は昔と変わっていなかった為、すぐに見つけることが出来た。
母の寝室の扉をドンッとこじ開けた。
すると中では、暗くなった部屋に少しだけ光がさしていて、母は子供が眠っている横で読書をしていた。
アタシの姿を見て、母はすぐに甲高い悲鳴を上げた。
その声を聞いてすぐに、見張りが駆けつけたが、兵士たちは特に統率も取れていなく、人数も8人と少なかったのですぐに殺すことが出来た。
返り血を浴びたアタシをみて、母はひきつり笑いをしながら
「ヒマワーよね?会いたかったわ。今頃何をしているか心配だったのよ。」
と心にもなさそうなことを言ってきた。
その母を見て、アタシは笑いながら母の元へと少しずつ距離を詰めていき、手始めに逃げられないように両足を切り落とした。
母は彼女の足を見て更に大きな悲鳴をあげた。
母のの声を聞いて、子供は目を覚ましてしまったようだ。周りが煩くて起きてしまったのだろう。子供はすぐに大きな鳴き声を上げた。
それを見た母は両手で子供を抱きながら
「やめて……来ないで……私に何かしたらこの子がどうなっても知らないわよ!!」
と天秤にすら乗れていない交換条件を提案してきた。
その言葉を聞いて、まずは、子供を斬ることに決めた。
アタシは剣を振り下ろし、子供の体は真っ二つに割れてしまった。
「あ……あ……」
この光景を特等席で見ることができた母は衝撃のあまり言葉すら出てこなくなったらしい。
アタシが次はと意味が分かるように母を指さすと、母は顔を酷く醜く歪ませ涙を流しながら
「何でもしますから……助けてください。」
とアタシに乞いてきました。
その母を見てからアタシは
「分かりました。」
とニコッと微笑むと、母は必死に「ありがとうありがとう。」と言い続けていました。
その光景があまりにも予想とかけはなれており、てっきり母は最後の最後までいやらしい壁として立ち塞がると思っていた自分の考えの甘さに笑うしかありませんでした。
母の涙も収まった頃に、アタシは醜くなった肉片に向かって刃を振り下ろしました。
グチャッ……
という汚い音と共に周囲に赤黒いゼリーが飛び散りました。
なんと表現すべきなのか。
アタシが人生で今まで経験してきていない、最も大きかった達成感がアタシの体を駆け巡り、高揚感で感情を昂らせていきました。
ただ、それと同時にこんなちっぽけなことでアタシの喜びは終わっちゃったのか。という思いがアタシの中で響きました。
「ヒマワー、早く逃げないと火災に飲まれるぞ!!」
放火を行い急いでアタシの元に向かってきた商人がアタシに向かって叫びました。
その一言でアタシは気分の高まりを抑え、商人と一緒に脱出することが出来ました。
去っていった街は既に原型が分からなくなっており、巨大な火が建物全体を包み込んでいた。
そして、徐々に近くの街にいたであろう人間の野次馬が大量に集まってきた。
そこで、この中から唯一出てきた人間の商人はこの亜人の国を滅ぼしたのだと讃えられることになった。
勿論、亜人であるアタシは牢獄への幽閉が決まった。
後日、どうやら商人の元には国王にならないか?という相談がきたそうだったが、「国王なんて柄ではない。」と提案を一蹴し、その代わりに、1つのお願い事をしたのだという。
「チッ……亜人よ。出獄だ。どうやらお前を気に入った物好きがいるらしい。」
そんな看守の言葉と共にアタシは再びシャバの空気を吸うこととなった。
そこには予想通り、最初にあった時よりも絢爛豪華な服装になってはいるが他は前と変わらない商人の姿があった。
「このままだと、お前は処刑をされるかもしれないので、申し訳ないが商品だと偽って釈放をさせてもらったが、構わないか?」
アタシは無言で頷き「ついてこい」と思わせるような彼の背中をおった。
そのまま追って地下階段を降りていくと、小さなスペースがあった。
そこに座布団が引かれており、座りな。とアタシは合図をされて座った。
ご丁寧に飲み物まで商人は出してくれた。
「今の職業は一応奴隷商人というように登録してある。
そしてヒマワーはうちの商品ということになっている。
ここまで飲み込めるか?」
アタシは頷き彼は言葉を続けた。
「一応君を普通の金額では買えないような値段に設定して名目上売っておくということにしておくがそれでよろしいだろうか?ある程度不自由のない暮らしは提供出来ると思うが。嫌ならここから逃げて行ってくれても構わない。」
今頃逃げても何処へ行くというのか。アタシは了承をした。
後日、亜人が売られているという噂が何処から流れたのか、他国の王子がやってきた。
「おや、この子。よく見ると可愛いね。おいくらなんだい?」
「えっと……金貨5枚です。」
「その程度、こんな可愛い子に比べたら安いもんさ。」
そう言って王子は金貨5枚を渡すとアタシを連れ去って行った。
商人は最後まで寂しそうな目でアタシを見ていた。
ヒマワー編中盤です。
内心帰宅後ずっと書いているのですごく疲れてます。
荒い文章ですみません。
もう少しだけお付き合いください。