拾肆
「手術の結果は……何とか一命を取り留める事は出来ました。」
「よっシャァォァァ!!!」
その言葉に俺は歓喜を隠さず年甲斐のない子供のように飛び跳ねて大げさに喜んでしまった。
シェラはホッとしたように胸を撫で下ろし、ヒマワーは涙を流しながら顔をうづくめていた。
「しかし、彼女の片足は無くなりました。
きっと、もう再生することもないでしょう。」
その言葉を聞いた後、途端にお通やモードへと逆戻りしてしまった。
クソっ……俺が呑気に寝ていたからこんなことになってしまった。
だが、こんな所でクヨクヨしていられない。
今の報告の方がライトが死んだと報告されるよりはよっぽど良いに決まっている。
何とか最悪は回避できたな。と思い今は乗り切るしかないだろう。
きっと、ライトも俺たちが泣いている姿は見たくはないだろう。
顔を両手で叩いて何とか気持ちを落ち着ける事にした。
「病室まで運びますので、しばらくお待ちしてください。」
医者にそう言われて俺たちは待つしか無かった。
「すみません、凄く緊迫した空気だったので質問をする機会を伺ってていたのですが、よろしいでしょうか。」
全く……相変わらず空気の読めないやつだな。
渋々といった感じで俺とヒマワーが頷くと
「ヒマワーさんは、なぜズボンを履いていないのでしょうか?」
その言葉を聞きヒマワーの方は目線を移すと、たしかに下腹部にはパンツ一枚だけしか無かった。
「気づかなかった俺も悪いが、お前はなんて格好をしてんだ!!」
「えっと………色々と考え込んでいたので……そんなことは忘れていました。」
えへへ……とはにかみながらヒマワーは頭を下げた。
何だよ。一気に暗い雰囲気がぶち壊されてしまったな。
妹が大変な目にあっていたというのに俺は物凄く不甲斐ない……
どうやら顔に出ていたのだろうか。
俺が視線をチラチラと逸らしている姿を見て
「えっと………アタシ男ですよ?」
と俺の気持ちを察して小声で伝えてくれた
「あぁ……なんだ?男って俺みたいな感じの男?心が男とかじゃなくて?」
「はい。」
「じゃあ、ヒマワーにもしっかりと棒があるわけか?」
「一応、備わっています。」
「最後の確認だが、you are not man?」
「yes……」
ヒマワーって男だったのか………
衝撃の事実に驚きシェラに視線を向けると、まるで当然といっているかのように頭を頷けていた。
じゃあ、ライトには何処の馬の骨かもわからないような男を安易に2人きりの状態にしたってことか……
クソッ……一生の不覚だ。
そんなことを話していると、病室に入ることができるようになった。
室内に入ると、真っ白なベッドとシーツに1人の女の子がいた。
「いやぁ、お兄ちゃんや2人にも迷惑をかけてごめんね。」
麻酔が効いていて上手く動かせないであろう両手を必死に近づけようと頑張っている姿が、生まれたばかりの動物のような儚さを感じさせた。
そんな姿を見て必死に堪えていた涙が瞳から始めはポツポツと、次第に大粒になって流れ出した。
「あはは、そんな泣かなくても良いのにね。私はしっかり生きてるんだよ。」
「ライト……守ってやれなくてすまん。不甲斐ないお兄ちゃんで悪かった、、」
妹が必死に俺たちを励まそうとしてくれた動作に改めて自分の未熟さを感じ取った。
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「ライト、守ってやらなくてすまん。不甲斐ないお兄ちゃんで悪かった……
はぁ……なんて声かけたら良いかわかんねぇよ。
この部屋に入ったら真っ先に謝ろうと思っていたのに、レフトさんに先を越されちまった。
ライトさんは大泣きをしているレフトさんの背中を上手く動かせないだろう手で優しくさすってくれている。
シェラさんはというと無言でその姿を見つめている。
なんて言うか……意識して動かさないと顔の表情するわからない仮面のような人だとアタシは思った。
そんなことで時間が潰れていっているうちに、ライトさんがアタシの姿に気づいて「ヒマワーちゃん?」と声をかけてくれた。
こんなクソみたいな人生を暮らしてきたアタシに未だにヒマワーちゃんと、声をかけてくれる。
その行動がまた、アタシの罪悪感を倍増させていく。
「ヒマワーちゃん。今度は演技なんかじゃなくて、素の自分であなたの口から語ってくれないかな?」
ライトさんはニコッと微笑みながらそんな言葉を未だに掛けてくれるのだ。
「本当に申し訳ございませんでした。」
背中を90度に曲げ、精一杯の誠意を見せる。
それがアタシの第一声であった。
「うん、良いよ。許してあげる。」
ライトさんは細かく震える手でアタシの前に
手を差し出そうとしている。
すぐに、意図を気づきすぐにでも両手で衝撃を与えないように優しく包み込んだ。
その手はとても暖かかった。
「私たちって、仲間なのに全くヒマワーちゃんのことを知らないんだよね。
どうかな?あなたの事、少しでも教えてくれないかな。」
その言葉に、きっとアタシは救われたのだと思う。
「あぁ……皆にはアタシのことを知ってもらいたい。昔のアタシはな。とある街の王族の子供だったんだ………
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俺の名前はヒマワー。
亜人の国の女王の長男として生まれた。
国といっても、面積は狭いので街と表現した方がよろしいのだろう。
この街では、国を治めるのは女王の子供である長女が引き継ぐと昔から決まっていたという。
当時の俺は好奇心旺盛で非常に迷惑をかける子供だったらしい。
物心がつき始めた5歳頃だっただろうか。
俺は女王の子供ということもあり、大切に育てられていた。
母が新たな命を授かっていた頃に事件が起きた。
俺の父が突然殺されてしまったらしい。
父は寝室で死亡してしまったようだ。
志望理由には近くにあった血の着いたナイフから自殺であると考えられていました。
父は元々平民の出であり、元々位の高い者たちから多数のヘイトを買っていたらしく、不満や憎悪の声に耐えきれずに自殺してしまったのではと推測されていた。
母親は何度も「父さんが死んだのは迷惑をかけるお前のせいだ!!」と父が亡くなった暫くは言い続けていた。
母親は、生まれてくる子供の性別がまだ分からなかったため、俺に女の格好を強いることが増えていった。
最初は「嫌だ」と反発をしたのだがそんなことを言うと、顔を打たれてしまうので、次第にそんなことを言わずに素直に言うことを聞くようになった。
まずは形からといった所だろうか、俺が普段から着ている服は全てレディース物に一変されていき服の選択肢はなくなった。
ダンスや生け花などの稽古や、声を高く保つためにボイストレーニングにも通うことになった。
挙げ句の果てには一人称や普段の言葉遣いまでもが女性らしくあるようにと指導を受け続けた。
外に出歩く時には、今までは一切聞こえていなかったのだが、「男なのに姿だけを偽っていて汚らわしい。」「国の後継に選ばれるのに必死な無様な者。」や「女王は何を考えているんだ。」「今までの歴史に泥を塗る気か?」
などの俺や母に対する小声や陰口が言われるのはしょっちゅうであり、以前から交流があった友人は次第に消えていった。
そんな日々も月日が経てば治るようで、半年後には反対の声はあったが、あからさまな陰口は徐々に鎮火していった。
それから1年の月日が流れた時に、母が子を出産した。
元気な子供であり、性別は女の子であった。
すぐにでも街では宴が開かれた。
アタシも今日は大事な話があるから宴に出席しなさい。という言葉を聞き
クローゼットの中にあったドレスを着て意気揚々と宴の会場に向かった。
妹の出産はアタシの中では非常に肩の荷が下りたように感じた。
最初に宴に出た時は、「まだ女の格好をしている。」「不可能な栄光を求める獣」などと揶揄を受けた。
だが、そんな言葉も妹の顔を住民が拝むと次第にプラスの言葉だけが会場を飛び交うようになった。
そんな事で盛り上がっていたうちに、宴は終焉へと近づいていき、最後に女王直々の挨拶があった。
女王は席から立ち上がり壇上に上がっていった。
顔には切り傷が何故かつけられていた。
そんな顔をお構いないような姿勢を見せ、女王はこう語った。
「私の息子であると紹介したヒマワーですが、実際には雨の中、風にさらされて捨てられた所を私が見つけ保護をする事に決めました。
その後、彼は自身が女装願望があると語り、私は彼の願望を叶えるために女性らしさを追求させてあげたり、私服を揃えてあげました。
私が男を国のトップとして選ぶと勘違いしてしまった方もいるかと思われますが、ご安心ください。
時期女王は、私の娘であります。」
そんな楽観主義者でも呆れるような戯言を述べました。
本来なら一定数は信じられなかったであろう内容だったが、今宵は酒が回った席であり女王の言葉を疑う者は少なかった。
「しかし、最近は無礼な態度や口ぶり、挙げ句の果てには本日も私は顔を傷つけられました。」
そう言って女王は切り傷を住民に見せると、周囲からはざわつきが広がっていきました。
「そこで、もう自立もできる年なので、本日でヒマワーは平民の座に戻します。
しかし、非難はしないでください。
彼は捨てられていた被害者でもあるのです。」
その言葉を最後に女王は壇上を降りた。
アタシは勿論偽りの真実だと声をあげたのだが、周囲の声が大きすぎてアタシの声ではすぐにかき消されてしまった。
住民はざわつきが凄かったが、女王が会場から姿を消すまではまだ大人しくはしていた。
こんな人でも政治や国の方向性などはしっかりとしていたようで、外出時での行動もどこか華があったようで、かなりの人気を博していたようだ。
そんな女王が会場からいなくなると、アタシは周囲を人々に囲まれてしまった。
そのまま1人の男に地面に押し倒されるように地面に受け身も取れずに墜落すると、
周囲にいた無数の亜人達から殴られ、蹴られを繰り返し、「あの方の息子だから我慢してたが、前から気に食わなかった」や、「あの方の顔に泥をつけた」などのありもしない罵詈雑言や、嫌味を幾度となく言われ、中には皆が殴りつけているから自分も殴るという付和雷同的な者もいた。
そんな者が増えていった結果。
最終的には、女王への忠誠を誓うための踏み絵のような扱いをされ、その結果朝になるまで殴られ続けた。
こんな事があったにも関わらず、母に教わった顔だけは何としてでも死守しなさい。という言葉通りに顔付近はほとんど傷を負うことはなかった。
そんな地獄も過ぎ去っていき、朝日が昇り、怪物達はせっせと奴らの住処へと戻っていった。
アタシは今更城に戻る訳にもいかないので、何とか地面を這ってこの地獄から抜け出すことを決めた。
やっとこさ村から抜け出そうとした所を門番に見つかり、結果は街の外に向かって蹴り上げられた。
体は宙に舞い、円弧を描きながら数m飛んでいき、近くの木に降り立った。
意識を失ってどのくらい経っただろうか……
気がつくと、地面に寝ていた。体には気持ち程度の掛け物と、氷が体の至る場所に乗っかっていた。
動こうとしても体の至る所から悲鳴が出てくる。
「おぉ、気がついたか。一体なにがあったというんだ?」
声がした方を目で追ってみると、何とも胡散臭そうな中年の男がいた。
きっと、コイツも何か裏があってアタシを治療しているのだろうと思って、沈黙を貫いていた。
沈黙が続いたのを察して
「まぁ、言いたくないことも多くあるだろうな。」
と言い3日ほど食べ物や、簡易的な治療を続けてくれた。
アタシが黙っている間に、世間話や男の素性について教えてくれた。
まず、男の名前は、インチムというらしい。
男は隣町で悪徳な商人をやっていたが、客からの恨みから自宅が火事で全焼をし、自身の手持ちの金目の物は全て無くなり、店を営業する際に借りた借金を返せなくなり、借金や客から逃れるために夜逃げをしたこと。
新たな商売血を探していた最中にアタシのことを発見し、数少ない食料や道具をアタシに使ってくれていたこと。
アタシへの行動は自身のくだらない人生への一種の罪滅ぼしのような感情でやってくれていたこと。
そんな事を男は話してくれたので、アタシも自分のことについて話す事を決めた。
アタシは今までのことを話し、母や国を憎んでいる節を伝えた。
商人もアタシの意見に賛同を示し、アタシは復讐のため、男は土地の確保のために、亜人の国に火を放つことに決めた。
体が完全に完治する為に3ヶ月ほどかかり、
その間に男は旅人などから、交渉や時には窃盗などで食料や道具などを手に入れてきたようだった。
そんな3ヶ月の間に一度だけ、男は奇妙な人物を連れてアタシの元へ帰ってきた。
とりあえず、ヒマワー編の前編書いています。
後3万とかモチベ足りるかな。
後々修正版に変えようと思っていますので、無理やりすぎる箇所があるかもしれませんがすみません。