捨
「ヒマワーです………よろしくお願いします……」
やっと、これでお兄ちゃんの手を治せる。
ヒマワーさんの手の温もりを感じながら、お兄ちゃんの手が治ったらこうやって握手ができるのかな?っと考えていた。
「じゃあ、ヒマワーさん、お兄ちゃんの手を治して貰えるかな。」
「えっと………その………」
何やらヒマワーさんは耳をピクピクと震わせながらモジモジとしている。
「……ないです」
えっと、上手く聞き取れなかったなぁ。
まさか、嫌な予感が当たるなんてことないですよね?
「治せないです!!」
確かに聞こえてしまった。
ヒマワーさんの口からはっきりと。
お兄ちゃんの方はやれやれといった風に手を頭に当てていました。
シェラさんは特にいつもと変わったような様子はありませんでした。
「ごめんなさい……アタシ治癒魔法使えません……」
やっぱり私の聞き間違いじゃなかったんだね。
2人の反応を見るに幻聴を私だけが聞いている感じはしないし。
「まぁ、あの商人の説明があれじゃそりゃそうだよな。」
既に諦めていたように兄が呟いた。
「あの……アタシはこの後どうしたら……」
ヒマワーさんが私の服の袖を引っ張ってきた。
不覚にも少し可愛い。
「お兄ちゃん、ヒマワーさんどうするの?」
「治癒魔法が使えないんじゃどうしようもねぇからよ。そこら辺に逃がしてあげな。」
うぅ……亜人とはいえそんな動物みたいに。
言い方は少しばかり酷いなぁ。
「そう言っていることだから、ヒマワーさんはここから自由に生きて良いんだよ。」
ヒマワーさんにそう声をかけても、彼女は尻尾を垂らして袖を掴んだままでいる。
「あの……行先もないので……着いて言ってもよいですか?何でもしますので……」
「何でもするとはどういう意味なのでしょうか?」
「何でシェラがそこで食いついてくるんだ。」
「過去にこのような発言をしていた作品ではこう返すとデータに記録されていますので。」
シェラさんは頭に拳を軽くあてウィンクをし、舌を出している。
あの動作に一体どのような意味があるのかな。
私の後ろでは視界に入っていなくても、ヒマワーさんが凄く困惑しているように感じた。
「帰る場所もないので……お願いします。」
「たくっ……買っちまったもんはしょうがねぇよな。ちっとばかし俺は買い物があるか
らちっと待っていてくれ。すぐに追いつく。」
お兄ちゃんは小走りで街の中心部へと歩き始めた。
「じゃあ、待ってようか。」
しばらく待つと、お兄ちゃんは小さめのリュックを着て戻ってきました。
「何かあったとしても俺らを恨むなよ。
それでもよければ着いて来い。」
お兄ちゃんは片手でハンドシグナルをし、先導していきました。
「ライトさんは……杖をもっていますけど……魔法とか使えるんですか?」
城門を出ても未だにヒマワーさんは私の後ろを着いてきています。
「この杖はお兄ちゃんがくれたから持っているだけ。私は魔法も何も使えないよ。」
「そうですか……良いプレゼントですね……」
中々見る目があるではないかヒマワーさん。
後で可愛がってあげなきゃ。
街を出てしばらく歩いていくと、草が肩付近まで生い茂っている草原に着きました。
「ライト、もう少し近づいてもらってよろしいでしょうか?」
「えっ!?うん良いけど?」
急にキョロキョロと周りを見ていたシェラさんが私にそう声をかけてくれた。
左袖にはヒマワーさん。すぐ後ろにはシェラさん。
どうしたんだろ。モテ期来たのかな?
そんな事を一瞬考えたけど、シェラさんの事だから距離を詰めるという言葉を実践しようとしてるのかな。って予想が立っちゃった。
そんな事を考えていると突然背後から衝撃が走り前方の草原へと膝から崩れ落ちた。
更に私が倒れたことにより袖を掴んでいたヒマワーさんもドミノのようにのしかかってきた。
少し頭をぶっちゃったかな。
少しだけ痛いなぁ。いや、普通に痛い。
「シェラさん……何してるんですか!!」
ヒマワーさんの声で振り返ると、シェラさんが何やら手を突き出していました。
手には何かを掴んでいます。
「シェラ!!何やってんだ!!」
10mほど先を進んでいたお兄ちゃんが駆け寄ってきてくれた。
やっぱりお兄ちゃんは優しいな。
「申し訳ございません。敵の攻撃と判断したので少し荒っぽい方法を取らせていただきました。」
シェラさんは手を開くと小さめなサイズの三角形の鋭利な鉄と木の破片が手のひらにありました。
「これは……弓ですね。…」
確かに木の破片やこの形サイズの鉄があるのであれば武器は弓に自ずと辿り着く。
「はい。左方向、ここから20mほど離れた場所に生体反応がありました。反応を察知した時はまだ敵と分からなかったので、ライトの護衛をさせてもらいました。」
うぅ……私がモテ期と感じていたものは何だったんだろ。
「恐らく敵の弓矢に塗られているのは毒です。弓矢の鏃に少しばかり何かが塗られた痕跡があります。
この物質自体はデータにありませんが現状から毒であると推測されます。」
そう告げると、シェラさんは自身が言っていたとおりに左方向に向かって走り出していき、その後にお兄ちゃんがすぐに続いていきました。
「シェラさんって……毒が効かないし……何者?」
「ヒマワーさん、それは私も不思議に思っている事だよ。また今度聞いてみよっか。」
2人が走り出した先を私たちはボーッと見ていました。
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周囲の様子を分析します。
後方に15mほどやや遅れて草木を踏み行く者、恐らく速度的にはレフトか、大穴でデータのないヒマワーの足音でしょう。
そして、前方から姿は見えていませんが、20mほど先に足音が聞こえてきます。
しかし、不可解な点が少しあります。
先程までは15mと近づいていましたが、今度は20mと離れていっています。
程々の距離を保ちつつ追わせているような感覚がします。
恐らく、現在のレフト達が追いつけるほどの速度では目標に追いつくことは困難でしょう。
三人が追いつけるかは分かりませんが、もう少しだけ速度を上げるように調整します。
するとすぐに前方15m、10mと
目標との距離が縮まっていき対象の後ろ姿が見えてきました。
おや、目標は中々奇妙な体の作りをしているようです。
服装はデータに類似したもので、片手にはボストンバッグ。
服装は、無駄な配色のない紺色でキッチリと着こなしたスーツで、体だけで言えば数年前まで存在していたという会社員の服装とさほど変わりはありません。
そして、頭にはスーツ姿には似合わない赤く少し汚れたなベレー帽を被っていました。
しかし、驚くべきは頭部でありスーツ姿の後頭部を確認したところ、頭部にあったのは人の頭ではなく地球儀でした。
地球儀と説明した方が把握しやすいと推測しましたが訂正いたします。
頭部のデザインを確認したところ、地球儀のような見た目をしているだけであって地形が私の知っている地球の地形とは一切似ていません。
恐らく、この世界の地形。
もしくはデザインのみ似ているだけの全く関係のない頭部のようです。
「お嬢さん、凄いねぇ。どんなに病原体に耐性があったとしても生物には少なからず効果のある病原体を食らっても、弱るどころか更に加速するだなんて。」
どこに口があるのか理解しかねますが、仮称地球儀は低く太い声を発してきました。
その間に距離はすぐに縮まっていきます。
「すまないが、お嬢さんは任務対象じゃないから無視をさせてくれ。」
手を伸ばせばもうすぐ追いつく。といったところで地球儀は地面に生えている草を掴み私の捕まえようとした手の真下を潜り抜けていきました。
慌てて私も同様に草木を掴み反転を試みましたが草木が切れてしまい大幅に遅れてしまいました。
距離が急激に縮まったのは私が加速したのと同時に地球儀も速度を緩め、草木を掴んでも切れにくく調整していたのですか。
対人についてのデータはありましたが、ここまでの速度を誇る人物への対策データは存在しませんでした。
データに追加しておきましょう。
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ったく。シェラは深追いしすぎだ。
ライトとの距離はどんどん早くいっているし一向に前方との距離が縮まっている気がししない。
しかし、遠くから聞こえていた足音は徐々に近づいてきた。
「敵対反応がそちらへと向かいました!!撤退は難しいので、迎撃をお願いします。」
俺は兜を被り、右手で盾を持ち構えた。
今回の相手はスピードがありそうだな。
甲冑なんて来てくるんじゃなかったか。
そんなことを後悔しているうちに前方の足跡はどんどん近づいてきていた。
「坊主、悪いがここは通らせてもらう。」
直後、球体頭の魔物は俺の左手の関節部分のある甲冑に向かって一本の矢を刺しこんできた。
「とりあえず目的はこれで達成。このままだとあの嬢ちゃんにやられるから一度撤退させてもらおう。」
そんなことを口走りながら奴は草木の奥へと走り去っていった。
クソッ……奴が出てきたときに急すぎて目で追うことしか出来なかった。
「レフト、大丈夫ですか?」
数秒後、シェラが戻ってきた。
そして、俺の腕を確認するなり少しホッとしたようだった。
「着ていて良かったですね。甲冑。」
「あぁ、そうだな。」
そのまま動かないで、とシェラは甲冑に差し込まれた矢を甲冑の手元ごと切断した。
アイツは俺の姿を見て直ぐに隙のある場所を探し、左手を見つけ瞬時に関節部の隙間に向かって矢を刺しこんだのだろう。
俺は甲冑を着ているが、左腕までしかなく左手部分には空洞が出来ている。
勿論、そんな部分など守る必要はないので他の部分の守りに必死になっていたので、アイツは不用心なそこを狙ったのだろう。
本来なら刺した時に感触がないことで中が空洞だと気づくはずなんだが、
ただ、その時アイツはシェラに追われていて俺に刺さった感触を確かめる前に去っていった。
「情報が出回っていなくて救われたか。」
「えぇ、周囲を確認しましたが、近くに彼の気配はもうなくなっています。撤退をされたかと。」
今回も運が良かったな。
だが、このままじゃ妹なんて救えねぇよ。
「とりあえず、ライト達のところに帰るとするか。」
「はい、了解しました。」
2人でそっと帰路についた。
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お兄ちゃんたち、大丈夫かな。
そんなことを思っているうちに2人が戻ってきた。体感では1時間程に感じた待ち時間も実際は5分経たずのことだったらしい。
心細かった時も、ヒマワーさんはそっと手を握っていてくれていた。
「心配かけてすまん。お前たちは怪我はないか?」
「うん。ヒマワーさん、何もなかったよね。」
ヒマワーさんは私の目を見るなり、そっと頷いた。
「そっか。そりゃ良かった。もうちっと歩くが休憩はいるか?」
全員が必要ないと意思を示し再出発をしました。
「あの……」
歩きだしてからヒマワーさんはそっと私の耳元に小声で話しかけてきました。
「奴隷なので……さんなんてつけなくて良いです。」
おっと……いつのまにかそんな事を忘れてしまっていた。
ヒマワーさんは奴隷だったっけ。
「そっか。さんじゃダメなんだね。
じゃあヒマワーちゃんでどう?」
「何なら……呼び捨てでも……」
謙遜した風にヒマワーちゃんは目をそらしてくる。
そんなヒマワーちゃんの頭を手で掴み目を合わせた。
「いいや、ヒマワーちゃんで決定!!すっごく可愛いし、これで良いよ。それに今は、旅を一緒にしている仲間なんだし。」
「仲間……ですか……」
ヒマワーちゃんは俯き水滴を落としている。
きっと、赤くなって嬉し涙を流してるのかな?
少し頬がにやけてしまっていた。
すると、前方から何やら視線を感じた。
「仲間ですか。」
シェラさんがわざとらしく頬を膨らませている。
しかし、目元はいつもと対して変わらないので、幼児が遊びで空気を口に含んでいるように見える。
「えっと、シェラちゃん?」
「シェラちゃん。呼び方を承認。言葉を交わさずとも思いが伝わりました。
これが以心伝心ということなのでしょうか。」
あんなにわざとらしくしてたらわかるよ。と言おうかと思ったが両手を何度も上に上げている姿を見たら喜んでいるんだろうな。って思ってそっとしておくことにしました。
「ここら辺の葉っぱって食べられないの?少しお腹が空いてきたよ。」
私が適当に左に生えている葉っぱを指差した。
「それはスクレイブ、食べてもメチャクチャ苦い上に、消化もまともにできないぞ。」
うぅ……苦いならいらないかな。
「じゃあ、あれは?」
次に、右に生えている周りとは少しばかり色が違う葉っぱを指差した
「それはブロー。エキスには睡眠誘発効果のある葉っぱで眠り薬みたいな効果はあるが、まともに食べれるもんじゃないし、この旅じゃ必要ないだろ。」
しれっとお兄ちゃんは答えてくれた。
こういう時のためにしっかり食べれる物を研究してきてくれたのかな?
やっぱり、お兄ちゃんは凄いなぁ。
「もう少しだけ歩いたところで食事にすっから、もうちっとだけ我慢してくれないか?」
「うん、我慢する!!」
私の声が周囲に響いた
仲間が増えました。
出番は少ないですが、新たな敵も出てきました。ちゃんちゃん