#2《側に居てやる》
「落ち着いたか?」
「……うん、ありがとう」
「で、お前は何者なんだ?蝙蝠の羽生えてるしよ」
「吸血鬼……って、聞いた事ないかな」
吸血鬼……?あー、確か『実在!伝説の生き物集!』的なのにそんな名前の生き物が載ってた気がするな。
……まさか、な。
「お前がその吸血鬼だったりするのか?」
「スゴイね、当たりだよ!」
目を輝かせてそう言う少女。
なるほど、色々と納得だ。この少女がグッタリしていたのは魔力とやらが不足していたからで、俺を押し倒したのは、不足している魔力を吸収するため。口を塞いだのは、騒がれるのを阻止する為……ってとこか。
まあ、こいつが吸血鬼だったとして……だ。何でこんな公園で倒れていたかだよな。こいつは、見た目に反して力も強かった。ならば、路地裏とかで人間を捕まえて、魔力を補充する事も可能だったはずだ。
「何でお前は、ここで倒れていたんだ?」
俺の質問に、少女は苦笑して……
「いやー、魔力を持っている人間が中々いなくてさ……。僕は特殊個体らしくて、血を吸わなくても生きていける代わりに、魔力を吸わなくちゃいけないんだ。それで、魔力を持っている人間は貴重なんだ。」
だから……と、そこで少女は一拍を置いて。
「こうやって、グッタリする事って、僕にとってはよくある事なんだー……」
何処か寂しく、悲しそうな声色で。少女はそう言った。
……こいつにとっては、こういう事は日常茶飯時……か。なんか、悲しいな。……今、俺に出来ることは何だ?もうこいつがグッタリしなくても済む様な、そんな方法。……あるよな、俺には。
俺は覚悟を決め、口を開く。
「……俺で良いんなら、お前の側に居てやる」
その少女に近づき、俺は耳元でそう囁いた。告白にも等しい、その言葉を。そう言ってから数秒後、俺の顔が段々と熱くなってきた。多分、今の俺の顔は真っ赤だろう。タイムラグで、恥ずかしさが込み上げてくる。
少女の答えは……
「良いの?人間。僕の側に居るって事は、どんな時でも魔力を吸われて、最悪昏睡する可能性があるんだよ?」
「んなこたぁ、百も承知だ。その上で、そう言ったんだよ」
「……ふふ、そっか。……ありがとう、人間。これからよろしく♪」
少し照れくさそうにしながら、嬉しそうに、少女はそう言った。
こうして俺は、普通の高校生ではなくなった。
これから俺は、吸血鬼の少女と、不思議な日常を送る事になるのだった……。